第7話 みなみとの馴れ初め
「お兄ちゃん、学校でなんかあった?」
こいつ、エスパーか?
妹のみなみはおれの顔を見るなり、そう言ってきた。
「いや、なんで?」
「別に〜。なんかいつもとテンション違うから。いいことでもあった?」
食卓に料理を並べながら、みなみはそうつぶやいた。
「今日は、友達と話が盛り上がってさ。思い出してたんだよ」
「マサヒロって人?」
「そうそう、あいつとは気の合う親友になれるかも」
「ふーん、よかったじゃん。お兄ちゃんて女の子と喋ったりするの?」
おれは、思わずみなみの顔を見た。
「逆に聞くけど、女の子と話すような感じに見える?」
「見えるよ。お兄ちゃんカッコいいんだもん」
真顔でそう言われて、思わずニヤけた。
おいおい、本当のことを言うなよ。おれのカッコよさをわかってるのはみなみだけだ。
「まあな! でも、どうする? 兄ちゃんがモテモテリア充ライフを送ってたら」
「ヤダ! お兄ちゃんは、みなみのものなんだから!」
おれは思わずニヤけてしまう。
「わかってるよ。おまえこそどうなの。学校は……」
「別に、楽しいよ」
「そか。そういえば『ゆうこさん』からメールあったんだよ。志望校どうするのかみなみに聞いといてくれって」
「なんでお兄ちゃんに? てかいい加減、お母さんって呼んであげなよ」
ゆうこさんは、おれの義母だ。みなみにとっては実のお母さんである。両親が再婚してから二年が経つが、おれはまだ『お母さん』とは呼べないでいた。
「わりぃ、だってさー。あんまりいっしょにいないし、向こうも気使ってるのわかんだよね」
「ふぅん。てかなんでお兄ちゃんに言ってくるんだろね」
「おまえがハッキリしないからだろ。高校に行きたいのか行きたくないのか。高校くらい行くように、おれから言ってほしいってことだと思うけど」
「お兄ちゃんといっしょのところに行く! 校則ゆるいし!」
「うちは……偏差値低いしあんまりオススメしないぞ。校則緩いったって何してもいいってわけじゃないんだし」
「でも、配信はずっとやりたいから、部活はいらなくてもよくって、ゆる〜いところのほうがいいんだよねー」
「今も幽霊部員だろ?」
「そう! ほとんどの部員が幽霊! だから選んだの茶道部」
「おまえは、おれと別の高校に行って、新たな友達を作れ。そして青春を謳歌しろ」
「ふーん、じゃあ彼氏作ってエッチなことしてもいいんだ?」
「なっ! そ、それは……」
おれは焦って、思わずみなみの目を見た。
「ふふ、なに焦ってるの? シスコンのお兄ちゃん♡」
みなみは、意地悪な表情をしてこちらを見ている。
「シ、シスコンじゃねえ!」
シスコンじゃなくたって、妹に彼氏が出来るのは気が気じゃないだろう。たぶん。
みなみがそっと、おれの耳元で囁いた。
「わたしは、お兄ちゃんのもの♡ そうでしょ?」
「……あぁ」
おれは、ハッキリとそう言った。
『妹とあんなにイチャイチャするんだね〜? 四宮くんってシスコン?』
昼間、如月ななえに言われた言葉が、頭の中でリフレインしていた。
おれは、一般的にはシスコンなのかもしれない。でもそれでいいじゃないか。
それでみなみが幸せになってくれるなら、構わない。
みなみの暗い表情は、もうみたくないんだ。
出会ったばかりのみなみは、暗く引きこもりがちだった。
当時、中学一年だったみなみは、入学したての一学期に学校で友達を作れずに、6月には不登校気味になっていたらしい。そして、夏休みになるとどっぷりとネットの海に逃げ込んだようだ。そんな話を義母から聞いた。
両親が再婚したのはその夏休み中だったため、おれはみなみが不登校になっていることには気が付かなかった。
二学期が始まっても学校に行かず、全然部屋から出てこないみなみと、はじめはどう接していいかわからなかった。
しかし、アニメやマンガが共通の趣味であることがわかると、徐々に喋るようになった。
だんだん元気になっていくみなみを見て、おれは嬉しかった。そんなおれのこともみなみは慕ってくれるようになった。
そしてしばらく経ち、みなみは二学期の途中から学校に行くようになった。それに家のお手伝いや勉強もしっかりとこなすようになった。
そんなみなみの様子を見て、両親も安心したようだ。生活が安定するまでは、と出張を控えていた親父も、おれとみなみを見て家を空けても大丈夫と判断したのだろう。
元々海外出張の多い親父をそばで支えたいということで、義母のゆうこさんもついていくようになった。
こうして、おれとみなみの二人暮らしが始まった。両親とは月イチで電話しているが、帰ってくるのは半年に一度か、お盆正月くらいだ。
つまり、一年のうちほとんどはみなみと二人で暮らしていた。
これってシスコンになっても仕方ないよな。
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