第6話 デスゲームマスター:マサヒロ
教室に戻ると、何やら異様な雰囲気に包まれていた。
ところどころから、刺さるようなクラスメイトの視線を感じる。
なんだろう、これからデスゲームでも始まろうとしているのか。
ざわざわ……ざわざわ……。
周囲が騒がしい。教室のいたるところから聞こえてくる単語から推察すると、おれが如月ななえに呼び出されたことについての考察が行われているようだ。
如月ななえが、誰かわかんないやつに声をかけた。といったところか。いや、さすがに半分くらいの人は名前くらいは覚えてくれてるか、と思いたい。
「雄大、どういうことだよ?」
おれの下の名前を覚えてくれているナイスガイ、マサヒロが声をかけてくる。
「俺はお前を……決して許さなさい!……」
マサヒロは、鬼に家族を連れ去られた主人公のような顔をしてこちらを見ていた。珍しく全身に覇気を纏っており、今にも刀を抜いて斬りかかってきそうな居合の構えを見せている。
「マサヒロ、勘違いするな。あと教室の中で深夜アニメのキャラの真似をするな」
「如月ななえと何してたんだよ?」
「ちがっ! ちょっと落とし物しててさ、拾ってくれてたんだよ」
「それだけか?」
「それだけだ」
「ホントか? ウソだったら、今夜ひと晩中ノートに雄大の名前を書きまくってやるからな」
おいおい、なんてデスノートだそれは。
「落とし物ってなんだ? どこで拾ってもらったんだよ」
マサヒロは突っ込んで聞いてくる。
しゃーない、友達に隠し事は無しだよな。
「昨日、妹とカラオケ行った後、町をブラブラしてたんだよ。その時学生証落としてたみたいでさ、それを如月さんが偶然拾ってくれたわけ」
「ん、んー。町を歩いてて、落として、それを拾ってくれた……んー?」
マサヒロはどうも納得いかない様子だ。
やはり人間、ウソをつくのはよくないな。ウソを混ぜて話をすると、どうしても話がボヤけて納得感がなくなってしまうようだ。
「その場で渡してくれてもよかったのにな。学生証」
「え、あーいや、同じ時間にそこにいたわけじゃなくてさ。ちょっと時間経ってから拾ってくれたんじゃね?」
「その間に、他の人には拾われなかったわけだ」
「ま、まあ人通りはまばらだったし」
「帰宅時間だろ? 言うほどまばらか?」
名探偵マサヒロが、おれを追い詰めてくる。一瞬緊張が張り詰める。
「まーいいや。わかったわかった」
おれとマサヒロの緊張関係は解かれた。そして、マサヒロは話題を変えてきた。
「そういえば、ウワサなんだけど明日席替えあるらしいぜ?」
「席替えか。そういえば入学してから出席順だったもんなー」
「一番前にならなければどこでもいいや」
「フラグ立ってるぞそれ」
「しまった! やはり素直に窓際の一番うしろを祈るべきだったか! 主人公ポジション!」
マサヒロは頭を抱えてショックを受けたポーズを取る。リアクションがいちいち大げさでおもしろいやつ。
「おまえ、それは出来すぎだろ。アニメやマンガの見すぎだ。席替えってくじ引きだよな?」
「そらそうだろ。委員長が任されてるらしい」
「委員長? あーメガネの……」
それ以上の印象は出てこなかった。
「委員長にワイロを送ってお目当ての席にしてもらうってもありかもな」
マサヒロは、よからぬことを企んでいる顔をする。
「いやいや、そんな都合よくいかねーだろ」
その後、如月ななえも教室に戻ってきて、イケてる女子グループの中に入り何やら話していた。
「何話してたのー?」
「あれ四宮くん、だっけ? 仲いいの?」
「んー。別に? それより由美のリンスタのストーリー見た?」
さすが、グループの中心的存在、おれとのことを根掘り葉掘り聞かれる前に、さっと話題を切り替えていた。
スクールカースト上位の女子生徒、如月ななえに呼び出され話しかけられるという珍事は少し教室をザワつかせる程度のことだった。
ただ、陰キャらしく平凡な高校生活を送ろうとしていたおれにとって、今日の出来事はけっこうな大事件だった。
しかし、これはまだ波乱の高校生活のほんの序章に過ぎなかったのである。
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