第5話 勇者達

「白鷺くん!」

 レイが光りに包まれた瞬間、一人の少女が彼の名を叫んだ。黒崎にとってそれは意外だった。万引き犯の白鷺を心配する人物がいるのも驚きだったし、叫んだ人物自体も予想外だった。

 金色に染めた長い髪、着崩した制服の胸元からは豊かな双丘が僅かに覗いていた。いかにもなギャルの姿をした彼女の名は来栖風香、見た目どおりのギャルであり地味な白鷺と交流があったようには思えない。

 もしかして、万引き関連でなにか関係があったのかな?

 浮かんだ考えを黒崎は慌てて振り払った。いくらなんでもげすな思考だ。どうも白鷺が万引き犯であると久宝に告げられてから疑り深くなってしまった。

 白鷺との交流は黒崎にとってとても楽しいものだった。男友達は何人かいるがその瞳の奥に下心を感じさせないのは白鷺しかいない。幼なじみの久宝ですら時たま嫌らしく身体を見てくることがあったのだ。黒崎は美少女である。自惚れでなく事実としてそうなのだ。人懐っこそうな笑顔に惑わされた男は数知れず、故に黒崎は男の視線と言うものに敏感だった。

 白鷺が万引きをしたと聞いた時、黒崎は騙されたと思ったのだ。もしかしたら、借りていた本も万引きした物かもしれない。そう考えると白鷺が酷く汚い人間にみえたのだ。

「あら、貴女も一緒に行きたいの?」

 ルーザはどこか面白そうだ。黒崎はルーザに違和感を覚えた。世界のために黒崎達を呼んだにしては随分と扱いが雑ではないだろうか。

 ううん、きっと気のせい。あの人は神様なんだから、私達を悪いようにはしないはず。

 黒崎はいい意味でも悪い意味でも純粋だった。だからこそあっさりと白鷺が万引き犯だと信じてしまったのだ。

「すみません、彼女、ちょっと驚いてるだけなんです」

 眼鏡をかけた小柄な少年、御堂正一が来栖に駆け寄って宥めている。

「そう、ごめんなさいね」

 ルーザはおうように謝罪した。

「あともう一つだけ説明しておくわね。ステータスのスキルや称号は念じれば詳細が確認出来るわ、少し時間を取りますから一度確認して見てくださいね」

 促されて黒崎はあらためてステータスを確認。


 名前 黒崎水波

 職業 呪術師

 称号 異世界人

 固有スキル 精神崩壊

 スキル 呪術5


 精神崩壊 触れている相手の精神を崩壊させる。相手の精神耐性値によって効果があらわれるまでの時間はかわる。


 呪術 精神に関する魔法に対して上方補正。


 なんとも言えないステータスだ。魔力量は多いがそれ以外は騎士以下。呪術師とかいう職業も強いのか弱いのか判断に困る。それに精神崩壊なんて固有スキルを何故もっているのだろうか。

 固有スキルは努力と才能によって得られるという。ならば黒崎は精神崩壊スキルに何かしらの心当たりがあってもいいはずなのだ。なのに。

 まったく覚えがない、なんなんだろ、このスキル。

 黒崎は知らない。彼女の心ない一言によって精神に決定的な傷をおった少年がいることを。

「みなさん準備はできましたか? ではマニアス聖国に転送します」

 巨大な魔法陣がみんなの足元に出現して、光が全てを覆い尽くした。

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