安静に、甘えずに
「……38.3度」
「ん……」
弘香ちゃんの着替えは、タイミングよく帰ってきた母さんにやってもらい、そのあとは僕が弘香ちゃんの家に上がりベッドに寝かせた。家にはもちろん合鍵で入った。
体温計で熱を測るとかなりの高熱。
「弘香ちゃん風邪確定でございます。身体怠い?」
「う、ん……」
「どうして早く教えてくれなかったのさ。朝の時点で様子はおかしいと思っていたけど。気のせいとでも思ってたの? 僕も思ってたけど。例えば喉が痛いとか頭痛がしたとか」
「今日は雨だから……頭痛いのは偏頭痛かなって……」
「なーるほど。教えてくれてありがとう。もう無理して話さなくていいから。じゃあ冷えピタ貼るよー」
「ん……」
冷えピタって急に貼るとびっくりするよね。少しでもその反応を和らげるために一旦僕の手を弘香ちゃんのおでこに当てる。僕の体温より遥かに弘香ちゃんのおでこが熱い……。
「じゃあ貼るね」
「ん、つめ、た……」
「しばらくは冷たさで頭がキンキンすると思うけど我慢ねー」
さて、僕ができる仕事は終わった。あとは弘香ちゃんがたくさん寝て、たくさん汗をかいて、熱が下がるのを待つだけ、と……。
「おばさんには熱って連絡したから。ごめんね、僕も気づけないくて。じゃあ安静に〜」
「………あ」
弘香ちゃんが呼び止めるような微な声を出したのが聞こえたが、僕がいると話しかけまくっちゃいそうだし。
今日は弘香ちゃんが静かに眠れるように退散退散……。
部屋から出た。
「いや……でも正直……」
まだ弘香ちゃんの看病したい。
だって家に帰れば………
『それにしても……ふーん、ふーん! ハルとヒロちゃんが一緒にお風呂に入ったんだ。ふーん!」
『なにそのふーん、の主張……い、いや? 別々で入りましたけど……?』
『嘘。ハルは手以外全然ジャンプーの匂いしないもの』
『警察犬か、貴方は』
『帰ってきたら……にふふ、にふふ……』
絶対母さんに弘香ちゃんとお風呂入って件、問い詰められるでしょ……。
◆
「ん……つぅ………」
深夜2時。
熱があったため早い時間から眠ってしまったから変な時間に起きてしまった。
おとといから少し頭痛があって熱っぽい気がしていた。しかし、それは疲れと雨のせいだと思い、そのままにしていた。
結果、今日熱が悪化した。
明日は学校を休むことになると思うけど……。
「からだ、あつい………」
身体が熱い上に意識もあまりはっきりしない。景色がぐるぐると渦巻いている。
自分から動こう、という気にはなれず瞼を閉じたり天井を見つめたりしている。
あとは……脳内で今日のことを振り返ってる。
特にお風呂の件。
恥ずかしいと思ったらもう負けと思っている。本当はベッドを転げ回りたいほどの羞恥心だけど熱が余計あがるから感情を抑える。
『旭晴と私が一緒にお風呂に入ればいいじゃない』
私らしくない発言。
旭晴だってそう思っているはず。
積極的だったのは熱のせい。きっとどこかで甘えたかったのだろう……多分。
そして今も変だ。
きっと熱のせい。
「旭晴……明日も看病してくれないかな……」
心の中に留めていた本音をハッキリと口にしてしまうのだから。
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