熱が出たのなら、幼馴染の出番
「はぁ、はぁ……」
息が荒くなってきた……。
朝は平気だったはずなのに、昼間からまた熱が上がってたようで、頭も身体も暑い。視界はぐるぐると回っている。
熱だからこそ、大人しくしていないといけない。しかし……大人しくしているのは暇である。
「熱……そういえば昔もこんなこと……」
意識は朦朧としているが、過去のことはしっかりと思えている。
あれは、小学生の頃。私が熱を出して学校を休んだ日。今日みたいに一人で大人しくベッドにいた。
『はぁはぁ、うぅ……』
親は仕事を早めに切り上げてくると言っていたが、1人は寂しく心細い。それが熱をさらに酷くしていたかもしれない。
熱が酷くて、誰もいなくて……涙が溢れそうになった時だった。
ドアが勢いよく開かれた。
『弘香ちゃん大丈夫ーー!』
『……へ? あさはる……?』
ランドセルを端っこに置き、私のベッドに心配した様子で駆け寄った。
『顔がキツそう!! 大丈夫じゃないから熱出して寝てるんだよね! あ、えと……大丈夫!?』
『旭晴うるさい……』
しかも、なんで私よりも泣きそうな顔……。
あわあわ慌てていて、それでいて涙目の旭晴を見ていたら、冷静になって涙なんてとっくに引っ込んでしまった。それに……寂しさも。
『……というか学校は?』
旭晴は学校に行ったはず。学校は、今は昼休みの時間帯くらいだろう。それなのに旭晴は何故か私の家に来ていた。
『学校? 学校はね、早退してきたっ。お腹痛いって』
『仮病ってこと? なんで……』
『なんでって、弘香ちゃんが熱出したから!』
当然とばかりに言う。
なんか、別の意味で頭痛くなってきた……。
『いや、ダメでしょ……』
『なんで? 熱の時って1人って寂しいし、それに』
『それに?』
『弘香ちゃんが家で熱で苦しんでいるのに、学校なんて行ってられないよ! 弘香ちゃんが熱だしたら僕が看病するんだ!』
あの時は、なんてバカなことを言っているんだろうって思いつつも……凄く嬉しかった。安心した。
「なつかしい……」
そしてまた1人の現状に戻る。昔を思い出したらもっと寂しさを実感して……
「……あさはる」
つい名前を口にしてしまう。旭晴は学校で来るはずがないのに……。
瞬間、ドアが開く音がした。
◆
音を立てずに階段を登り、弘香ちゃんの部屋まできた。ちなみ家には、あらかじめ貰っていた合鍵で入った。
「……弘香ちゃん、今は寝てる可能性が高いし、静かに……静かに……」
忍足でドアの前まできた。そして……ゆっくり開けても多少の音は出てしまう。
弘香ちゃんは寝ているかと思いきや、起きていて……ちょうど視線が合った。その表情は驚きに満ちていて、弘香ちゃんは目を見開いて硬直していた。
「あ、起きてたんだ……おはよう? いや、昼だからこんにちは? でも弘香ちゃんは今起きたかもしれないからおはようで……」
「どうでもいいことで悩まないでくれるかしら。……せっかく寂しい時に来てくれてまた惚れそうになったのに……」
「ん? 惚れる?」
「っ……」
弘香ちゃんが何か言っていたので見ると、彼女は、かぁぁぁっと音が聞こえそうなくらいの勢いで顔が赤くなっていった。普段のクールさを貫通して、耳まで真っ赤になっている。
「顔真っ赤になったよ!? 熱上がった!? 寝ないと!」
「っ、旭晴のせいよ……」
「え、僕!?」
「はぁ……騒がしい……ふふ。ところでなんでここにいるのかしら? 貴方、学校でしょう」
「えっ、早退してきたよ。昔約束したじゃん」
「あれ、約束だったのね……」
「えっ、違った!? 僕だけ約束だと思ってた!?」
「はいはい。それで。どうやって休んできたの。お得意の仮病?」
「さすが弘香ちゃん。鋭い」
当たり前だが、弘香ちゃんの看病をすると言って早退させてはもらえないだろう。
なので…………
『先生!』
『ん? おお楓か。どうした質問か?』
『そうではなくて……すぅ……』
『?』
『いっ、いだ、いだだだだ! 先生僕1時限目からずっとお腹が痛くて……いだだだだ! う、生まれる……ッ』
『だ、大丈夫か楓!!』
大袈裟に床に転びまくって、早退を勝ち取ったのであった。
「……それ、色々と失っている気がするけど大丈夫?」
「平気平気。リアル感を増すために、3時限目の休み時間に激辛せんべい食べてお腹が壊せるようにはしたよ」
実際、4時限目にはお尻が超痛かった。
「えー………」
弘香ちゃんが目を細めてドン引きして気がする。
「僕のことはここまでとして……弘香ちゃんの体調が少しでも良くなるまで僕が看病するよ」
笑いかけると、弘香ちゃんも安心したように微笑んでくれた。
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