話せば分かってくれるギャル

「………」

「………」

「………」


 睨むギャル2人と、萎縮する僕。

 図書室が静かになる。図書館の環境としては正解だけど。


「早苗ちゃん、美月ちゃん! そんな怖い顔しちゃダメ!」


 日菜子ちゃんが助け舟らしき発言をしてくれるが2人の表情は変わらず、


「ヒナ……アタシたちは見定めているだけだよ」

「見定める……?」

「この人がヒナに相応しいか、ねぇ……」


 ポキッポキッ


 ……なんで見定めるだけなのに、派手目のギャルさんの方は指の関節鳴らしてるの!?


 2人とも、胸やお尻は慎ましやかなのに威圧感が爆乳くらいあるんだけど……。


 僕の頭の中には


 ▷逃げる

 ▷話す

 ▷土下座する


 の三択が浮かんでいる。

 今すぐ逃げたいが……日菜子ちゃんもいるし、情けないところは見せたくない。少し話してダメだったら逃げるなり、土下座しよう……!


「えとぉ……日菜子ちゃんのお友達の方ですよね……?」

「ああ、そうだけど?」

「それが何かしら?」

「僕は日菜子ちゃんのその……友達の楓旭晴と言います」

「ほぅ?」

「で?」


 ギャルさんたちがどんどん近づいてくる。威圧感のレベルが爆乳から長乳爆乳ぐらいに上がった。


「えーと、だからですね……」


 やばい……ここから何も考えてなかった。こうなったら……勢いでいくしかないっ!


「だから……お、おふたりとも仲良くなりたいです、僕と友達になってください!」


 勢いよく言い終わると、頭を下げた。

 これで「は? 陰キャきもっ」って言われても僕にはご褒美です!!


「………」

「………」

「………?」


 お互いに無言になる。

 あれ? もしかや無言で睨まれてる? 顔上げたら「は? 陰キャキモッ」っと顔されてる?


「はは……はっはっはっ!」

「はっは……は? はぇ?」


 しばらくして耳に届いたのは笑い声。まさか、ここから罵倒されるパターン……?


「はっはっ、はーーっ」

「ちょっと早苗、笑いすぎよ」

「あー、悪い悪いっ。旭晴って言ったっけ? 初対面でメンチ切って悪かったっ。アンタが悪い人じゃなってことはなんとなく分かったよ」

「は、はぁ……?」

「私からも謝罪するわ。ごめんなさい。ヒナってさ、悪い男の区別とか分からなそうでしょ。みんなに優しいし」

「確かに」

「それで、見た目の悪い私たちがメンチ切ることでヒナに下心ありかなしか判断してるってわけ。これやる時は大体男相手が多いけどな。ただ単に友達になりたいなら、今みたいに堂々とした返しができるでしょ」

「確かに」

「アタシらとまで友達になりたいと言うとは思わなかったけどなぁ。ふふっ。まあビビって逃げたり、土下座なんかした時にはヒナに下心があったと見なしていなけどなぁ」


 危ないっ。それ、選択肢の中に入っていた。選ばなくて良かった……。


「も、もう! 2人とも〜〜〜!」

「ヒナもごめんごめん。でもいい男友達できて良かったじゃん」

「旭晴さんはいい人だよっ」

「ヒナはみんないい人っていうから心配なのよ」


 うんうん、確かに日菜子は誰にでも優しいし、信用してそうだから心配だ。


「ねね、アンタっ」

「なに? ——ぶぶっ!?」


 派手目のギャルさんが話しかけてきたと思えば、胸元のボタンを1個だけ外し、褐色の肌とブラジャーが見えるよう、ぺろんとブラウスを開いた。

 

 黒のブラジャーエロい……!!


 しっかりと目に焼き付け、反射的に首を逸らす。もちろん目も瞑っている。脳内には黒ブラジャーの映像が流れているけど、


「な、に、してるの……僕は見てないよ」

「頑張って目を瞑って……あはっ、あははははっ。ひーっ、ひーっ……草食男子を揶揄うか面白ーい」

「早苗アンタね、そんなことしてるからビッチなんて噂が流れるのよ」

「コイツはある程度信用したからやってんの。それにビッチっていうのは、アタシの見た目がこんなんだからでしょ。クラスの男どもは、裏では誰とでもヤってるだの、頼めばヤらせてくれるだの噂してっけど……あれバレてないとでも思ってんのかなぁ。ぶっちゃけ、性欲の籠った視線向けられてもキモいだけなんだよね。……っと、この話はヒナの前では控えないと……」

「ヒナの耳ならちゃんと塞いでるわよ」

「?」

「さっすがわかってるじゃーん」


 最初は意外な組み合わせと思ってしまってが……固い絆を感じる。

 ギャルに挟まるロリの友情……いいじゃないか。やはり、人とおっぱいは見た目で判断してはいけない!!


「旭晴ってなんか堅苦しいからあだ名で呼んでもいい?」

「え、うん」


 急に話を振られてびっくりしたぁ。あと、そろそろ目も開けてもいいかな?


「あさはるだから……んー、あさっち?」

「あさっちってダサくない」

「えー、でもはるっちもなんかなー」

「じゃああさっちしかないか。あさっちよろしくね」

「ダサいあだ名のままなのね」


 ギャルにあだ名で呼んでもらえるだけで幸せか、うんうん。


「アンタらも下呼びでいいから」

「確か、早苗ちゃんと美月ちゃんだよね」

「呼び捨てでいいよ〜」

「僕は基本、女の子にはちゃん付けだから」

「何それ。もしかして親しい人……たとえば幼馴染とかにもちゃん付け?」

「うん、幼馴染にもちゃん付けだよ」


 弘香ちゃんもずっとちゃん付けだし。弘香ちゃんが初めてできた友達で、そこからずっと女の子にだけは、なんとなくちゃん付けするようにしている。


「旭晴さんの幼馴染……私もいつか会って仲良くしたいです!」

「僕の幼馴染ならこの学校に……ん!」

「?」


 慌てて自分の口を手で塞ぐ。


 危ない危ない……忘れてたけど、以前日菜子ちゃんには、幼馴染の胸が大きくなったって話をしたんだっけ。幼馴染が弘香ちゃんってことを言うと揉んで大きくしたことがバレる恐れが……。


「い、いやーその……幼馴染も近々紹介するよ、あはは……」

「はい、お願いします」


 なんだかんだで、日菜子ちゃん。その友達の早苗ちゃんと美月ちゃんと友達になれて良かった。



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