三章 接近
気になる
「遅刻したら旭晴のせいだからっ」
「え〜、今日は弘香ちゃんも一緒に寝坊したじゃ〜ん」
いつもより一本遅い電車に乗ってきた僕らは、走って学校に向かっていた。
………寝坊したのである。
僕は中学の同級生と夜ふかしでオンラインゲームをしていたからだけど、弘香ちゃんはなんだろう? しっかり者の弘香ちゃんが寝坊するなんて珍しい。
頑張って走った甲斐もあって、学校には5分前に着いた。
「大丈夫だったね」
「走ったおかげね……はぁ、疲れたわ」
弘香ちゃんはハンカチを取り出し、首元を拭く。その際、綺麗なうなじも見えた。
ん! 僕以外の視線も感じる……。
「……やっぱり可愛いなぁ」
「お前っ、諦め悪っ。何回も断られてるんだろ」
「そうだけど……今時、あんな可愛い子どこ探してもいないって」
そんな声が聞こえてきた。
(あれはたしか、弘香ちゃんにナンパしたというサッカー部のイケメン先輩。イケメンが可愛いという子……)
可愛いという言葉に反応して、イケメン先輩の視線の先を追うと……弘香ちゃんであった。
「入学式で弘香ちゃんをナンパしてたイケメン先輩、まだ諦めていないみたいだね」
そう言うと、弘香ちゃんの眉間にシワが寄った。
「……迷惑な話よ」
「というと、今も付き纏われているとか?」
「…………」
あ、顔がさらに険しくなった。
「……会うたびにウインクされるし、付き合わないなくていいから、せめてマネージャーになってとしつこく勧誘されるし……。もう断ったり、話をするのも疲れてきたわ。はぁ……」
漏れ出す重いため息。
弘香ちゃんが嫌々オーラ出せば大抵の人は離れるっていうのに、イケメン先輩は凄いな。人の嫌なことをするのはたとえイケメンでも許されないとはいえ、そのメンタルだけは見習いたい。
「でもまあ、言い寄られているだけならまだマシじゃない? 変なことにならなければいいね」
「その時は旭晴を使うわ」
「え、僕!?」
僕を身代わりにするってこと!? もしも、そのイケメン先輩が襲ってきたりでもしたらホモォ……になっちゃうよ!
「私のこと、大切な幼馴染なんでしょ。少しでも大切って思っているならちゃんと守ってよね」
「う、うん……」
弘香ちゃんの言葉に妙に重みがあり、僕は頷くしかなかった。
◆
昼休み。
斗樹と純矢と昼ごはんを食べて、今は完食して雑談中。
「そういえば、2人はなんの部活に入るか決めたか?」
斗樹が切り出した。
「ワシはボルダリング部と柔道部じゃのう」
「その通りって感じする」
純矢の逞しい体なら納得の部活である。
「旭晴はどうなんだ?」
「僕? 僕はそうだな……今のところは部活は考えてないかな」
中学の頃も帰宅部だったし、このままいけば高校でも帰宅部かな。特別運動神経がいいってわけでもないし。
「俺も俺も! 双丘学園って部活にめっちゃ力入れてるし、なんか中途半端な覚悟で入るの、申し訳なく感じてさ」
「あー、わかるー」
「そうか? 部活に入るためにこれから3年間頑張る決意と筋肉さえつけとけば大丈夫な気はするがのう。……あー、なんかお腹減ってきたわー」
純矢が途中までいいことっぽいことを言っていたのに、お腹空いた発言のあと、ぐぅぅぅぅ〜〜とお腹の音が鳴った。
「嘘でしょ。特大弁当二つ完食してたじゃん」
大きなタッパーに白米とおかずがぎっしり入ったもの。今や慣れたけど、最初は運動間のお弁当かと思ったよ。
耳をすませば、ぎゅるる〜、という音がまた聞こえてきた。
「うむ……腹の虫が悲鳴をあげてきた。次の時間の古文に備えて売店で何か買ってくる!」
「満腹で寝る気満々じゃん」
「俺もなんか飲み物買おっかな。旭晴はどうする?」
「僕は教室に残っておくよ」
2人を見送り、1人教室に残る。教室内はグループを作り各自弁当を食べながら楽しそうに会話していて、
(あれ? 弘香ちゃんの様子が見当たらない。どうしたんだろう?)
いつも女子に囲まれて弁当を食べている弘香ちゃんの姿がない。もしかしたら今日は外で食べているかもしれないな。
弘香ちゃんの他……
「そういえば、学校で日菜子ちゃん見ないな」
入学してだいぶ経つが、学校で日菜子ちゃんとはほとんど合わない。
(日菜子ちゃんとは何回か話したことはあるけど、友達になったかと言われれば怪しいところ……。よし、会いに行こう。友達になってくださいって言おう!)
友達は大事。前に体育で弘香ちゃんの胸を事故で揉んじゃって女子に嫌われている感じするし。
思い立ったが吉日。
時間に余裕があることを確認して僕は教室を出た。
◆
「日菜子ちゃんらしき人がいない……」
全部の教室を覗いたが、日菜子ちゃんらしき人物は見当たらなかった。どこかに出かけているのだろうか。
「あ、図書館」
ふと、思い出した。
弘香ちゃんに連れ出され、空き教室でご飯を食べた日。図書室へ向かう日菜子ちゃんを見た。
もしかしたら今日も図書室に……。
「よし、行ってみようかな」
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