「わたし、旭晴さんのことが気になっています!」

 わたし、石宮日菜子には気になる人がいます。気になる人というか……正確には、仲良くなりたい人ですが。


「旭晴さんと弘香さん、お元気にしてますかね……」


 授業中。窓越しの雲を見つめながら呟く。


 楓旭晴さんと西堂弘香さん。クラスは別ですがわたしと同じ1年生。


 出会いは、わたしがメイド喫茶の店員さんと話し合っていた時でした。


 高校生なら働けると張り紙に書いてあるはずなのに、中々首を縦に振らない店員さんとの間に、旭晴さんが仲介役をかってでてくれました。

 結果的に、身長が足りないと断れてしまいましたが、旭晴さんはわたしのことを迷子や小学生扱いしない人でびっくりしました。


 弘香さんは、新入生代表挨拶の際にとても綺麗な人だと見惚れてしまいました。中でも大きなお胸が凄くて、頼んだら触らせてくれました。ふかふかでずっと触っていたかったです。

 わたしも毎日牛乳飲んでるんだけどなぁ……。

 

 そんな旭晴さんと弘香さんとは、学校ではクラスが別なことも関係して、中々会えずにいます。


 お話した中とはいえ、まだ仲良くなる途中……。


 学校でもお会いして、早く友達になりたいです。




「日本史の先生。いつも5分前で終わってくれるの、神だよね〜」

「ほんとよ。大体45分授業を6回も頑張っているんだから、どの教科の先生も午前最後の4限くらいは早く終わらせてほしいものよね」

「まあまあ2人とも。お勉強は大切だから頑張らないと」


 わたしは友達の早苗さなえちゃんと美月みつきちゃんと学食にきていた。

 わたしはお弁当だけど持ち込み可能なので、お弁当を一緒に食べている。


 学食はいつも多くの生徒で溢れかえっていて、5分遅れただけで座る席が無くなるほどだけど……今日は授業が早く終わったこともあり、3人分の席を無事確保できた。良かったぁ。


「はいはい。ヒナ先生のいい通りです〜。ってヒナ、またそんなちっちゃい弁当なの?」

「そんなに小さいかな?」

 

 両端に止め具がついたタイプのお弁当箱。仕切りがあって、おにぎり一つとおかずがあってちょうどいいけどなぁ。


「アタシその弁当箱なら白米で埋まるんだけど」

「早苗は食べすぎ。でもこれじゃあ放課後はお腹空いちゃうんじゃない?」

「うーん、お腹は空くけどその分夜ご飯が美味しく感じるからいいもん」


 それに食べすぎちゃうと授業中眠くなっちゃうから。


 今日は昨日から仕込んでおいたビーフシチューなんだよね。楽しみだなぁ〜。


 考えていると自然と笑みが溢れる。


「うわっ、天使……」

「この笑顔守りたいわ」


 ん? 2人が食べる手を止めてわたしのことを微笑ましそうに見つめているのは何故だろう?


 その後もお話していると、


「ところで……いい男見つけた?」


 早苗ちゃんが言う。


「いい男? 今のところいないわね」

「アタシは一つ上のサッカー部の先輩とかいいと思うんだけど」

「あー、2年生にしてエースとかいう人? 私あの人はなんか危ない気がする」

「危ないってどう言うことよ」

「なんというか……女の勘?」

「女の勘ってw ヒナはどうなの?」

「んー、わたしは……」


 男の人……クラスの男子はみんなお菓子くれるからいい人なのかな?


「うん、この子は絶対いい人と危ない人の区別がついてないわ」

「ヒナの前だと基本みんないい人になるでしょ。ヒナ、安心して。ヒナのことは私たちが守るから?」

「そうそう。悪い男の魔の手からね」


 早苗ちゃんと美月ちゃんがやけに真面目な顔で言う。 


 わたしのことを心配してくれているのかな。だとしたらとても嬉しいな。


「ありがとう2人ともともっ」

「か、かわ……」

「これは悪い子にはなれないわ」


 嬉しくなって笑うと、2人の顔がちょっとだけ赤くなった。




 わたしはお弁当を片付けると席を立つ。


「図書室に行ってくるね」

「もうそんな時間! もうちょっとゆっくりしていきなよー。せっかくの昼休みなのに」

「決まった時間に行くのがルーティーンになってるから」

「図書委員の仕事も大変だね」

「んー、意外とやってみる楽しいよ?」

「そう? アタシは本は読まないし、静かなところに長時間いるとか無理」

「確かに早苗には無理そうね。というか、早苗が図書委員とか……ぷっ、あはあはw」

「美月アンタなに笑ってるんだよっ! このやろ〜」

「2人とも仲良くね〜ふふ。じゃあ行ってくるね〜」


 仲良く戯れ合う2人を尻目にわたしは学食を出た。




「ん? これ何?」

「何って……なんかのキャラクターのキーホルダーじゃない。この席ってことはヒナの忘れ物?」

「ほーん。んじゃあとで届けてあげよっ」




 図書室に着き、鍵を開ける。もちろん中には人はいない。いたら……怖い。


 お化けさん、どうかヒナの前には現れないでください。現れちゃったら従姉妹のナノちゃんに添い寝してもらわないと夜は眠れませんっ。


 周囲を見渡しながらカウンターに荷物を置く。


 図書委員の仕事は色々あるが、主な仕事は図書室の受付係。


 でも昼休みの時間は利用者が少ないから……


「さて、今日もお勉強頑張りますか!」


 教材を広げ、気合を入れる。

 図書室は静かだし、ここだと落ち着いて勉強が捗る。


 シャーペンの芯を入れていざ勉強をしようという時だった。

 

 ガラガラ、と扉を開ける音がした。


「この時間に人がくるなんて……」


 珍しいな、と入口に視線を向けていると、その人物が現れた。


「あ、日菜子ちゃんいたいた」

「旭晴さん!? んっ」

「ん?」


 咄嗟に手で口を抑えた。

 図書室ではお静かに……図書委員のわたしが気をつけないとダメだっ。


「あー、もしかして……」


 旭晴さんが口の前で人差し指を立て、しー、とジェスチャー。わたしはこくこく、と頷く。

 旭晴さんはすぐに察してくれて小声で話すようにしてくれた。

 

「驚かせてごめんね」

「いえ。意外な方だったのでちょっとびっくりしちゃいました」

「日菜子ちゃん、もしかして図書委員なの?」

「はい」

「なるほど、だから……」


 何やら納得している旭晴さん。


 そういえば、わたしのことを探していたような発言を……。


 ふと、思った。

 これはチャンスなのかもしれない。


 旭晴さんとはお話するのは3回目だし、今は2人っきり……。


 言ってみるべきではないのか。


 ——わたし、旭晴さんともっと仲良くなりたいです。


 と。


 それから友達になりましょう、と。


「あ、旭晴さん」

「なに、日菜子ちゃん?」


 旭晴さんは優しいし、きっと仲良くなってくれるはず……!

 

「わたし、旭晴さんのことが気になっています!」

「へ?」


 いい終わり、顔をみると旭晴さんが驚いた表情をしていた。


(もしかしてわたしと仲良くなるのは嫌、なのかな……?)


 不安な気持ちでいると旭晴さんがおずおず聞いてきた。


「あのー、日菜子ちゃん? 僕のことが気になるとは……どういう……?」

「ふぇ?」


 旭晴さんのことが気になる? そんなこと言って……。


 自分の言ったことをよく思い出してみる。


『わたし、旭晴さんのことが気になっています!』


「あ……」


 わたしのばかっ! なんで思ったことと違うことを言っちゃったのっ!








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