飛べないまな板は、ただの可愛いロリ

 ぴょこぴょこ飛ぶ日菜子ちゃん。どんなに頑張ってもヤクルト一個分あるかないか、飛べてないのがまた可愛らしい。


 そして……ふむ。やはりまな板は飛べない……これこそが1番の長所!!


 と……眺めているままじゃただのロリまな好きの変態じゃないか。話しかけてみよう。


「日菜子ちゃん〜」

「ん、ふっ……あっ、旭晴さん!」


 遠くにいる日菜子ちゃんに声を掛けて駆けつける。


「どうしたの、ジャンプして。身長伸ばすための特訓?」

「ち、違いますよ!?」

「うん、知ってる」


 少し揶揄ってみた。

 日菜子ちゃんがぷくっ、と頬を膨らます。


「あはは、ごめんごめん。それで本当はどうしたの?」

「この子の風船が木に引っ掛かったみたいで……」

「この子……?」


 日菜子ちゃんの隣を見ると、小学生くらいの女の子が。こちらは本物の小学生だろう。小学生特有の名札とランドセルがあるから。

 先ほどまで泣いていたのか、目の端が薄ら赤くなっていた。


(風船は……ああ、あの木に引っ掛かっている……)


 木はそれなりに高い。これは僕でもジャンプでは到底届かない。少し登らないと。


「あかりの風船……」

「待っててね、お姉さんが絶対取ってあげるから」


 と、再びジャンプする日菜子ちゃん。しかし、いくらジャンプして手を伸ばすも絶対届かない距離。


 このまま見てても僕は苦ではないが、女の子は不安だろうし……。


 僕は腕まくりをして、


「日菜子ちゃん。僕が代わりに取るよ」

「いいのですか? わたしが取るって言ったのに……」

「選手交代ってことで。こういうのは男に任せておけばいいんだよ」

「お兄ちゃん……取ってくれるの……?」


 女の子がとても清らかな瞳で僕のことを見てきた。


 小さい子を助けるのは当たり前。

 ちなみに幼女にはなんの感情もない。ただの人助け、純粋な人助け。


「お兄ちゃんに任せてよ。日菜子ちゃん、ごめんだけど鞄預かっててくれないかな?」

「は、はいっ」


 木の下までいき、見上げると結構高いな。ゆっくりと登っていく。


 木登りなんて久しぶりだなぁ。小学生ぶりかな。


 昔は——


『あさはる! 早く登ってきてよー!』

『ひろかちゃん怖いよ〜。待ってよ〜〜』


 弘香ちゃんが器用に木をぐんぐん登っていくのにも関わらず、僕はというと、登ること自体が怖くて、ちょっと泣いていた。今は楽々登れるけどね。


 と思い返しているうちに風船の紐に届きそうな距離まできたので、掴んだ。


「よし。掴んだ」

「旭晴さんすごいです!」

「お兄ちゃんすごぉ〜い!」


 おお、下を見るとちょっと怖いな。

 だが、可愛らしい声のために僕は頑張るぞ。


 高さはそれほどでもなかったので、帰りは飛び降りた。僕は華麗な着地を決めたのだった。


「よっと……はい、どうぞ」

「ふぁ〜〜! お兄ちゃんありがとう!」


 女の子が明るい笑顔で風船を受け取った。うん、うん、良かった良かった。


「旭晴さん凄いです!」

「まあ男の子ですから」

「男の子……! やっぱり身長がないとこういうのは取れないですかね」

「これは身長というよりかは身体能力の問題だと思うけど……」


 身長があっても今みたいな状況だったら、木に登れなかったらダメだしね。

 それと、日菜子ちゃんはこういうのできなくても存在自体が癒しだからいいと思う。


「じゃあ気をつけて帰るんだよ」

「またね」


 手を振り女の子とお別れ……かと思いきや女の子はキョロキョロと見渡し、表情が悲しいものになった。


「ぱぱ、まま、いない……」

「「えっ」」


 そういえば、先ほどから両親らしき人が見当たらないと思いきや……。


 一件落着と思えば、今度は迷子問題……。

 日菜子ちゃんもあわあわしている。


「あらら……えっと……」

「パパとママ、どこ行っちゃったの……ううっ……」


 今にも泣き出しそう。やっぱりこんな時は——


「見て見て。べろべろぶっばぁぁぁぁ〜〜!!」

「………」

「………」


 変顔に限る。


 お、泣き止んだぞ。日菜子ちゃんまで静かになったのは謎だけど。


「う……」

「ん?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 あらら、大号泣。


「旭晴さん、泣かせちゃだめです!」

「ごめんなさい!!」


 どうやら僕には幼女ちゃんを泣かせる才能しかなかったらしい。


「今度はわたしの出番ですね。ねぇ、あかりちゃん。好きなお菓子とかあるかな」

「……おかし?」

「うんっ。お姉さんはシュークリームが好きかなぁ」

「……ン……」

「ん?」

「……プリン」

「プリン甘くて美味しいよね。お姉さんも好きだなぁ。じゃあ次は……」


 日菜子ちゃんが次々と質問をしていく。そうやっているうちに段々と女の子の表情が落ち着いてきた。


 そしてしばらく経つ頃には。


「あかりね、この前テストで100点取ったの!」

「凄い〜! 頑張って勉強したんだね」


 自分から話すようになった。 

 先程の泣いていた時が嘘のようだ。泣かせたの僕だけど。


「凄いね。あっという間に泣き止んじゃったよ」

「泣きそうになっている小さな子には、こうやってなに気ない質問とかしてあげると意識が逸れて、落ち着いてくれるらしいですよ。お母さんから教えてもらいました」


 日菜子ちゃんの母性力凄い!! ロリママ属性つよい!!


 その後、無事両親とも合流できた。


「本当にありがとうございました!」

「またねっ。お兄ちゃん、ヒナちゃん!」

 

 はっはっ、やっぱり子供は笑顔が一番だなぁー。


「ちゃん!? 姉さんが貧乳だからかなっ! お姉さんはちゃんとした高校生だからね〜。貧乳だからまだ成長するんだからね〜〜」


 もうお決まりのセリフみたいになってる。日菜子ちゃんの中学時代が気になるよ。


「はぁ、やっぱり胸がないと大人っぽく見られないんですかね」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「うぅ……旭晴さんは女の子じゃないから分からないんですよ〜」

「大丈夫大丈夫〜。胸は揉めば成長するって実証済みだし」

「え?」

「うん?」


 女の子を無事に見届けた安堵感からなんかどんでもないことを言ったような。


 あれ、僕今なんて言った………?


「胸は揉めば成長するって、実証済み……?」

「…………」


 ほぼ復唱されてるじゃん。


 この状態から入れる保険ってあるかな。それか、やり直したい。前世に戻ったりしない? 


 このままコンティ乳ーしたら僕、終わりな気がするよ?




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