二章 高校デビュー生活

傍から見れば、高嶺の花とモブ

「西堂さんって恋人いるの!」

「恋人……いないわよ」

「じゃあ気になっている人は!」

「いないけど……」


 弘香ちゃんが答えるごとに教室が湧き上がり、更なる質問攻め。


 今日も弘香ちゃんは大人気である。


「「はぁ………」」

 

 僕はため息をついている2人の男子に目を向けた。


「西堂さん、今日も凄いなー。俺たちのようなモブ男子が入る隙間も谷間もないな」

「全くじゃのう。教室の隅っこにいるワシらモブ男子には話しかけるチャンスもなさそうだ。ないのかぁ……」 

「まあまあ2人とも。いつか話せるよ」


 なんか落ち込んでいる2人を慰める。


 誰と話しているって? もちろん……友達だ! 友達だよ? ひとりで複数人を演じているとかじゃないから! ちゃんと人間だから!


 最初に呟いたのがマッシュヘアーの木ノ崎斗樹とき。次に、筋肉ゴリゴリの山男やまお純矢だ。

 

 僕が2人とどうやって友達になったかと言うと……


『友達になって!』


 僕は隣の男子に話しかけた。それが斗樹だ。


『うお!? いきなりだな』

『いや、ほんと。ぼっちは勘弁なんだっ。高校生活灰色まっしぐらは嫌だっ』

『まあ気持ちはわかるな』

『だから頼む! 僕と友達になって! 友達にしてくれればいい事あるし、いい思いさせてあげるし、友達友達友達なってぇーーー!!』

『お前はどこぞのメンヘラかよ! 落ち着け! 友達になるから!』


 と、本当にぼっちになりかねなかったので必死に頼み込んだ。

 というわけで高校最初の友達ができた。

 斗樹が優しい人で良かった。これが陽キャなら『あ? キモっ』で終わっていたかもしれない。それから中学からの友達だという、純矢も紹介してくれた。今ではこの3人でいるのが定位置だ。


「そういえば旭晴。入学式の日、西堂さんとクラスで話してただろ。知り合いなのか?」

「そうだったのう。最初見た時はワシらの敵だと思ったが」


 おっと、この質問。いつからされると思っていたが、友達なら冷静に答えられそうだ。


 澄ました顔で言ってみる。


「幼馴染だけど?」

「「おおおお、お、幼馴染!?!?」」


 案の定、2人とも口をあんぐりと開けていいリアクションをしてくれた。


「だから俺たちがガッカリする中、余裕ぶっていたのか!」

「なら、旭晴はあっちに行けるじゃろうに」

「いや、普通に女子に追い返された……」

「幼馴染なのに敗北したのか!?」


 幼馴染が絶対に負けないって誰が言ったんだろうね。

 キッ!って睨まれたんだよね……女の子怖い、おっぱいしゅごい……。

 まあそもそも、幼馴染であることは2人以外にはまた明かしてないんだけど。


「僕もそういえばの話なんだけど。あっ、斗樹には何もないから」

「おい!」


 ノリがいいなぁ、斗樹は。


「純矢ってすごい筋肉だよね。鍛えてるの?」

   

 斗樹に紹介される前から、すごいマッチョ体型がクラスにいるなぁ、と思っていた。

 胸から二の腕にかけて筋肉の盛り上がりが素晴らしく、はち切れんばかり。ブラウスのボタンパァン!するか、巨乳といい勝負だ。


「ふっ、筋肉がある男はモテると聞いてのう。なにより筋肉は裏切らないっ」

「よく聞くよね。それでそれで?」

「……………」



 筋肉はさっそく裏切ったの!?


「ま、まあ筋肉は恋愛には不要みたいだ……ぐはっ!」

「悲しい……」


 筋肉って恋愛においてこんなに裏切る肉の塊だったなんて……。

 なんかどんよりとした空気になってしまったので、話題を変えよう。


「2人から見て弘香ちゃんはどんな子だと思うの?」

「休日は映画巡りとかしてそう」

「意外と筋トレじゃないか?」

 

 よくバッティングセンターに行くよね。ストレス発散で。


「料理とかめっちゃ美味そう」

「意外と毎日プロテイン生活」


 よく料理上手そうなイメージ持たれるけど、実は料理は凄い下手なんだよね……。出来上がる料理はいつも紫だし、臭いから不味いし……。

 そもそも食事がめんどくさい時は栄養ゼリーで済ませてるという。食に彩りも特にこだわりもないのだ。


「あとは……努力家そうだな」

「家で身体を鍛えてそうだよな。無論、ワシは毎日鍛えているぞ。ハッハッハッ」

「純矢は置いといて、斗樹は美化しすぎじゃない?」

「お前は幼馴染だからなんでも知ってると思うが、俺たちモブ男子からすれば、西堂さんは高嶺の花! こうやって妄想せざるおえないんだよっ」

 

 ふむー。幼馴染だからだろうか。いまいちピンとこない。


 弘香ちゃんは高嶺の花……かぁ。


 


「そっかぁ。弘香ちゃん美人だもんな。高嶺の花だよなぁ」


 そんな当たり前のことを実感しながら、1人帰路に着く。弘香ちゃんは今日は一緒に帰れないらしい。学校で用事があるとか。


 今日も午前で終わったけど、弘香ちゃんと話せたのは結局、放課後のみ。それくらい、彼女の周りには人がいるのだ。


 また当たり前のことだが、高校は中学時代とは違う。新しい環境で、人間関係も最初から。

 

 誰もが僕と弘香ちゃんが幼馴染だとは知らない。


 お泊りをしたり、一緒にお風呂に入ったり、旅行に行ったり、胸を揉んだりと、家族と同じぐらいの時間を共に歩んでいた幼馴染だとは知らない。


 傍から見れば僕と彼女は——高嶺の花とモブ。


「………」


 あれ? そう考えたらなんか一気に距離ができた感じがする。なんだろう……成長した幼馴染は僕とは釣り合わない高嶺の花になってしまった、みたいな。


 ん? ん……ん〜〜〜?


 自分で思いついて、疑問を抱く。

 今日の僕は熱でもあるのだろうか。


 そんなことをぼんやりと考えていると、


「ふっ! ん! ふにゅ!」


 可愛らしい声が聞こえてきた。


 銀髪のハーフテールに小学生といい勝負ができそうな身長。ジャンプしても全く揺れない胸。


 彼女は………


「日菜子ちゃん?」  


 間違えるはずことのない女の子の名前を呟く。


 ところで……なんでジャンプしてるんだろう?


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