特に変わり映えしない姉弟

「ハル。夕食はなんでそんなに軽いの?」

「昼間は弘香ちゃん家族も入れてバイキングに行ったから」


 軽めにお茶漬けを食べていると、今リビングに来た、ねーちゃんにツッコミを入れられた。

 ちなみ、元々はお姉ちゃん呼びだったが、「ねーちゃん呼びがいい」との要望があったので、ねーちゃん呼びにしている。


 昼間のバイキングで一度はお腹いっぱいになったけど、時間が経てばお腹が空くもので……。

 だから僕は今、お茶漬けを食べている。


 一方、姉の優捺ゆなつの席には、生姜焼きと味噌汁と白ごはんが置かれている。作ったのは僕である。


 すると、ねーちゃんが不機嫌そうに僕の前に座った。


「は〜? アタシ呼ばれてないんだけどー!?」

「ねーちゃん学校だったじゃん」


 3歳上のねーちゃんは、ただ今美容専門学校に通っている。

 容姿は僕と違って割と整っている。

 きりりとした女子にモテそうな顔つきで、竹を割ったみたいな性格。打たれ強く、曲がったことが大嫌い。学校ではそこそこモテているらしい。


 と……一旦回想をいれたものの、ねーちゃんはまだ不満そうだった。


「それでも一言連絡するってのが弟でしょうが!」

「連絡したら絶対学校サボってこっちにくるでしょ。それに母さんが連絡するなって言ってたし」

「あんのっ、オババ!!」


 女性にオババとか言っちゃダメだよ。


「その代わり、ねーちゃんお気に入りのお店の限定プリン、買ってきたから食べていいよって言ってた。冷蔵庫にあるよ」

「お母様愛してる〜〜」


 チョロすぎるね。

 ねーちゃんはルンルンスキップで冷蔵庫に行った。てか、ご飯前にプリン食べないでよ。


「そういえば、じぃは?」


 目の前の生姜焼きなんか見えてないと、席に座りプリンの蓋を開けて食べ始めたねーちゃんが聞く。


「弘香ちゃんのお父さんと二次会」

「ほーん」 

「というかなんで親父のことじぃって呼んでるの?」


 前から気になっていた。


「お・や・じ、だからじぃ」

「やっぱりそうなのね。一時期、ゴキブリのGかと思ってめっちゃショック受けてたよ、あの人」

「そんな訳ないじゃん〜〜〜っ。……この前、じぃが酔って帰ってきた時、アタシのブラジャーを頭に被ってた時は、ゴミって呼ぼうとしたけど」


 急に瞳に光がなくなるのと低音ボイスやめてよ。怖いよ。


「ご馳走様! 今日の夕食も美味しかったよ、ハルっ。さすがアタシの弟。将来は家政夫できるね〜」


 いつの間にねーちゃんは、生姜焼きを完食していた。

 食べるの早っ。なのに痩せてるとか栄養はどこにいくのさ。早食いは太るもととかいう教えはどうなってるんだ、教えはっ。


「それでどうだったの、学校? アタシがせっかく髪切ってあげたんだからそれなりに反響はあったでしょう?」


 ニヤニヤした表情で聞いてきた。髪を切ったのはこの人だからそりゃ気になるか。

  

 よし、現実というのを見せてやろう。


「教室では弘香ちゃん以外とは話さず、友達は1人もできなかった」

「………」


 リビングがシーンと静まり返った。浴室にいる母さんのシャワーの微かな水音が聞こえるほど。


(ねーちゃん……もしかかして僕が友達できてないことを一緒に悲しんでくれて……)


 と思えば3秒後にそのねーちゃんはぷっ、と笑い出した。


「し、身長170センチ以上で、細マッチョで、髪もバッチリ決めたのに誰にも話しかけられず、ぼっちとかハルっ。アンタやばすぎでしょ、あはははっっ!」

「やっぱり笑いやがった! 弟が高校デビューに失敗したのがそんなに面白いか!」

「いひー、あはっはっ……いや、そもそも髪切ったくらいで高校デビューじゃないでしょ」

   

 真顔で言われた。

 だからその、急な表情の変換やめてよ。


「やっぱり、中身が変わってないとダメね」

「中身? 弘香ちゃんだって同じだよ」

「ヒロは別。てか美人は別」


 ここでも不公平が……!!


「ハルもいつまでもヒロの後ろに金魚の糞みたいにくっついてないで変わりなよ。ほら、男らしくするとかさぁ」

「男らしくとは?」

「こう、ガツガツ?」

「ねーちゃんがご飯をかきこむ時じゃないんだから……」

「まあアンタの性格上、友達くらい作れると思うけど、もしできなかったらこの優しいお姉様が手を貸してあげても?」

「なにするのさ」

「うちの弟と友達になってくださいって言い回る」


 やめてよ、恥ずかしい!!


「まあそれは半分冗談として……」

「半分は本気なんだ」


 半分も本気が残ってるなんて……これは早く友達作らないと。


「明日って日曜日なんだし、アンタら休みよね? 家にいるわよね?」

「日曜日だからね。特に用事もないし僕は家でのんびりするつもり」

「ヒロも?」

「弘香ちゃんの家次第でしょ」

「まあそっか。しかし、おじさんは今日、おじぃと二次会に行っている時点で家族でお出かけはないと見たっ」

「弘香ちゃんと遊ぶの?」

「遊ぶというか、チェックというか……。ぐへへっ、ヒロのJKおっぱい揉まないとなぁ〜って思って」


 ねーちゃんが手をワキワキさせる。


 そう、この人も結構なおっぱい星人。

弘香ちゃんが中学の頃もよく揉んでいたような……。あれ? もしやねーちゃんの方がおっぱい成長させた説ある?


「ヒロはおっぱいを揉むと声を我慢するタイプだからそそるんだよね〜。へっへっ」

「………」


 おじさんより、おじさんしてる。

 僕のおっぱい好きはねーちゃんからの遺伝だと思う。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る