「まな板じゃなくて貧乳なんです!」
「私を中学生……いや、小学生扱いしないでくださいっ。私はちゃんとした高校生です!」
次に、そんな言葉が聞こえてきた。
女子高校生の方が男性に何やら迫っているようで……ん?
(高校生……? 高校生……??)
声の主の姿を確認して、二度見してしまった。
まず目につくのが150センチはないであろ低身長。そして華奢な体に銀髪の髪をハーフテールにしていて、見た目だけで言えば可愛らしい小学生……。
しかし、違うと断言できる。
何故なら彼女は、僕たちと同じ制服を着ているから。
制服は……真新しい。同じ1年生の可能性が高い。
「あの子、うちと同じ制服ね」
「しかも、同じ1年生だと思う」
「どうして分かるの?」
「制服の素材が新しい」
「………」
弘香ちゃんが若干引いた目をしている……!
とりあえず困っているようなので、
「あの、すいません」
「はい?」
「?」
声を掛けると、店員さんとロリちゃんがこちらを見る。怪しい人ではありませんからね〜。
「彼女と同級生の者なのですが、どうされましたか?」
そう言うと、エプロンを付けた男性は女の子を見る。一方、ロ……女の子は……もうロリちゃんと呼ばせて頂こう。ロリちゃんも僕と後ろにいる弘香ちゃんが同じ制服を着ていることに気づいたようで……。「怪しい人じゃないです」とばかりにうんうん、と頷いてくれた。
店員さんは僕たちに向けて、
「彼女がうちでバイトしたいって言ってくれたんだけど……ねぇ……」
「高校生はバイトできるはずです。募集の紙に書いてありましたっ」
「それはそうなんだけどねぇ……。君が高校生……かぁ。見た目じゃ中学生……いや、小学生くらいにしか……」
「だから違いますっ。私は高校生ですっ」
なるほど。これの永遠ループとみた。
「とにかく君はうちじゃあ無理かな……可愛らしいんだけどね」
「うぅ〜〜」
「なにか理由はあるんですか?」
男性は気まずそうに視線をずらし、
「うちはそこの学生さんくらいないと……」
僕の後ろにいる弘香ちゃんの方を見た。
あー、なるほど。男性が手に持っているチラシと気まずさ具合から察するに……。
いや、一応もう少し探ってみよう。
「上、下どっちが不足しているのですか」
「……上ですね」
初対面だというのに、こういう系になると男って変に敏感になるよね。
僕は首を傾げるロリちゃんに言う。
「店員さんが言うには"身長"が足りないからだってさ」
男性は僕の話に乗っかるのように凄い頷いている。そりゃ、女の子に向かって上(胸が足りない)なんて言えないですよね。
「身長が足りないなんてからってそんな……。まさか……」
勘づいたであろう、弘香ちゃんに目を細めガン見されたまま、その場を収めたのだった。
あっ、1つ言わせてもらいたい。
メイド喫茶だからといって、巨乳ばかりではどうかと思うぞ! 世の中にはまな板派もいるんだからなっ!!
◆
「高校生になったからバイトできると思ったのにぃ……むぅ」
近くのベンチ。ロリちゃんが悲しそに眉を下げる。
「バイトなら他にもあると思うよ。元気だして。ちなみに入学早々、バイトを探してたか聞いても?」
「バイトしたお金でお父さんとお母さんにプレゼントを買いたいんです!」
偉いっ。お兄さんお小遣いあげちゃう……!!
「旭晴キモい顔してるわよ」
「ハッ!」
ロリちゃんの可愛さに、顔と財布の紐を緩めてしまうところだった。
「メイト喫茶は諦めて、バイトはまた違うところを探します」
「そうするといいよ」
ロリちゃんのメイド服ならこれから文化祭で見れる可能性もあるしね。おっと、メイド服を着れる可能性だった。
「遅れましたが、先ほどはありがとうございました。それにしても、わたしのことを学生扱いしてくれたのは、貴方が始めてかもしれません! いつもは『お嬢ちゃん迷子なの?』とか『飴玉あげるよ』とか『お兄さんがいい事教えてあげるよ、ゲフフ……』って言われるのにっ」
最後のは通報案件だと思うけど。
「同じ制服着てるんだから同級生か先輩かなって思うよ」
「そ、そうですよね!」
ロリちゃんが感心したような眼差しで見る。うん、見た目じゃなくて制服で判断したの、分かってない様子だね。
一方、後ろでは視線が突き刺さる。
……弘香ちゃん、そんなジト目で見ないでよ。そりゃ僕だって最初は小学生かな、って思っちゃったよ。でもカッコつけたいじゃん。
「あ、自己紹介しないと……っ。わたし、石宮
「ご丁寧にどうも。僕は楓旭晴」
「西堂弘香よ」
「西堂弘香さん……新入生代表の挨拶をしていた人ですよね! スピーチとても良かったです……!」
「ふふ、ありがとう」
やはりここでも弘香ちゃんの方へいくか。才色兼備+巨乳、つよーい。
それにしてもロリちゃ……日菜子ちゃんを見ていると中学生の頃の弘香ちゃんを思い出す。そう、胸の部分。
改めて見ると、やっぱりまな板もいい——
「私はまな板じゃなくて貧乳なんです!」
「へ……?」
いきなり言われた。
「貧乳だからまだ成長するんですっ」
「えと……」
思考を読まれたのかと、僕は冷や汗がドバドバ……。苦笑いしていると日菜子ちゃんがハッとした表情で、
「わわっ、すいませんっ! そういう視線を感じて……。中学時代はみんなに『ヒナはまな板のままでいいからね。ね!ね!!』っていじられてきたので」
それはイジるじゃなくて割とガチの懇願では?
「謝らなくてもいいわよ、日菜子。旭晴は絶対まな板とか思ってたから」
「そうなのですか?」
「別に日菜子ちゃんのことだけをまな板だとは思ってなかったよ……!」
「へぇ……じゃあ昔の私のこともかしら?」
やばい、墓穴掘った……っ。
「それにしても弘香さんのは大きいです!」
日菜子ちゃんがナイスタイミングで言ってくれた! 弘香ちゃんの怖い笑顔が和らぐ。
そういえば、日菜子はさっきからチラチラと弘香ちゃんの胸を見ていたなぁ。
「あ、あの……」
「うん? どうしたのかしら」
日菜子ちゃんが急にもじもじし始めた。相手は弘香ちゃん。
なんだ。僕は空気になった方がいいかな?
「その……触ってみてもいいですか?」
「ええ。良いわよ」
おっと、女の子の胸揉みタイム。ここは僕は存在感自体を消した方がいいね。
3歩後ろに下がり、黙る。これで存在は消せただろう。なら、観察してもいいよね。
日菜子ちゃんの小さな手が、弘香ちゃんの巨乳に触れた。
「ふわぁ! 柔らかいです〜〜」
「もっと遠慮せずに触っていいのよ」
「じゃ、じゃあ……。ふぁ! ふわふわでおっきいです〜〜!」
揺れる胸と揺れない胸のコラボレーション。素晴らしい。やはり人類、両方愛するべぎっ。
「弘香さん!」
「うん?」
「どうやったらこんなにお胸がおっきくなれますか!」
「………」
弘香ちゃんが笑顔のまま固まった。
彼女には別に悪気はないのだ。ただ純粋に、胸が大きくなる方法を知りたいだけ。
日菜子ちゃんはキラキラした瞳で続ける。
「ヒナもお胸おっきくなりたいです!」
「そ、そうよね」
「はい!」
「………」
凄く動揺している弘香ちゃん。
さすがに幼馴染に胸を揉まれて大きくなりましたなんて、人前じゃ言えないもんね。
「……やっぱり、きぎょー秘密とかなのですか?」
「え、あ、そんなことはないけれど……」
「けれど?」
「その……ね」
珍しい、あの弘香ちゃんが押されている……!
企業秘密か……そうだね。なんたって弘香ちゃんのお胸が大きくなったのに、僕が揉み続けたというのが一役買っているからね!
「旭晴っ」
「え、はい! おっと……」
存在感消してたから話しかけられてビックリした。
弘香ちゃんがうつむいたまま僕の背中にぐりぐりと頭を押し付け始める。
久しぶりに見た、この行動。
弘香ちゃんは処理できないことに直面すると、僕の後ろに隠れるようにきて、頭をぐりぐりしてくる。そして、大抵僕がどうにかしろという合図も含まれている。
「弘香さん?」
「あー、そのぉ……弘香ちゃんも大きくなった理由を説明するには時間が欲しいってさ。あと、僕個人の意見としては、まな——んんっ。貧乳でもいいと思うよ。人の良さは胸だけじゃ決まらないと思うから」
ただ、胸は揉めるか、揉めないか、揺れるか、揺れないか……人それぞれの好みだし。
「旭晴さん……!」
日菜子ちゃんの感心したような瞳が僕の心に突き刺さる……。
中学時代はまな板ランキングとか作って楽しんでいた人間ですいません……。
〜〜〜〜♪
ふと、誰かの着信音が鳴り響く。
僕でもないし、弘香ちゃんは頭ぐりぐりしてスマホ取り出す様子はないし……。
「あっ、私ですね」
日菜子ちゃんのようだ。
「パパからお迎えの電話がかかってきました。私は失礼しますね。今日はありがとうございました旭晴さん、弘香さんっ! また学校で!」
ああ、天使みたいないい子だったなぁ。
◆
(日菜子ちゃん、初対面なのに気さくで話しかけやすかったな……これはぜひともお友達になりたいっ)
そんなことを思いながら歩いていると、弘香ちゃんの足が止まった。
「弘香ちゃん。公園ならもう目と鼻の先だよ? 頑張って。ほら一歩一歩、初めの一歩」
「おばあちゃん扱いしないでくれるかしら? まだ歩けるわよ」
「冗談だよー」
僕が冗談を言って弘香ちゃんがツッコむ。そう、いつも通りの会話で……
「……ねぇ旭晴」
「ん?」
弘香ちゃんが間を空けて……告げた。
「私たちってどんな関係なのかしら」
なんでいきなりそんなことを聞くの?
と、聞き返そうとしたけど……聞き返すのは良くないって感じがして心の中に留める。
どんな関係?
それなら10年以上変わらぬ関係性が表している。
しかし、わざわざ問いかけてきた。
なら、違う答えを求めているかもしれない。
少なくとも胸を揉んで、揉んでもらった関係……などという冗談を言える瞳じゃない。
もう一度、自分に問いかけみる。
「弘香ちゃんは……大切な幼馴染だよ」
それでも出た答えは変わらない。
下手な嘘をつけば弘香ちゃんに気づかれ逆に怒られるかもしれないから、本心を言う。
「そう……。ただの気まぐれの質問に答えてくれてありがとう」
何事もなかったように足を進める弘香ちゃん。
幼馴染だから分かる。
これは気まぐれではない質問。
でも理由が分からないから……僕は何も言わず話を終わらせ、隣を歩く。
そう、いつも通り。
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