高校デビューは大成こ……ん??

 ——春です。


 新しい季節。真新しい制服。新たな出会いが待っている……


 ——春です。


「旭晴行くわよ」

「はーい!」

 

 玄関先で待ってくれている弘香ちゃんと駅に向かう。

 

 僕たちが通うことになる双丘学園は、最低でも家を2時間前に出なければならないほど遠い場所にある。

 

 何故そんな遠いところにしたって? そんなの決まっているじゃないか。知らない土地で高校デビューをかましてやるんだよっっ!!


 と、いう入学志望の8割は置いといて、双丘学園は設備もいいし、学費は入学試験の結果次第で割り引いてもらえるし、とにかく待遇がいい学園なのだ。その分倍率も凄かったけど、元々頭のいい弘香ちゃんは置いておき、僕はそんな弘香ちゃんの鬼の指導でなんとか合格した。


 入学式は、これからの練習として僕と弘香ちゃんは電車で向かうが、お互いの両親は車で向かうことになっている。


 朝の電車に乗り込むと車内は通学、通勤ラッシュとあり、混み合っていた。座ることなんて出来ないが、動きやすいようになんとかドアの隅にスペースを確保する。

 

 電車が動き出せば、ますます窮屈さを感じた。

  

(ちょっと苦しいかも……少し移動して……。おっと、後ろは女子高生ではありませんか)


 このご時世、たとえ偶然でも男が少し触れただけで痴漢や何やら騒がれることがある。なのに、うちの弘香ちゃんは揉めだなんて大胆なことを……。


「旭晴こっち」

「え、おっと!」


 突然手を引かれたと思えば、弘香ちゃん側に引き寄せられた。これならば、女子高生たちに身体が当たることないだろう。


「入学式前に幼馴染が痴漢騒ぎに巻き込まれるなんて勘弁だから」

「ありがとう、弘香ちゃん」

 

 ただ今度は弘香ちゃんと距離が近くなってしまった。

 このままでは。いくら中学時代は胸を揉んできたとはいえ、相手は女の子、美少女……。くれぐれも胸とかに身体が当たらないように配慮して……。

 あっ、ダメだ。どうしても当たるっっっっ。


 僕が脳内でたくさん考えているというのに、目の前の弘香ちゃんは何やら笑っていて、


「ふふ、どうかしら? 手を上げても、少し後ろに下がっても当たってしまう胸の感触は」

「これは……最高ですね」


 僕はもう、胸に触れないなんて馬鹿なことは諦めた。


 お腹付近に感じる2つの柔らかな感触……実に素晴らしい。


 言わずもがな、まな板ランキング1位だった幼馴染は、巨乳に進化したのだ。揉み続けたらまさか本当に巨乳なるなんて……っ。


「うわっ、あの子綺麗だな」

「しかもおっぱいもでけぇ……」


 弘香ちゃんをチラチラと見ている男子生徒が2人。

 さっそく見つけたか、このおっぱいハンター男子高校生めっ。そうだろう、そうだろう。ブラジャーである程度押さえているはずなのに、ジャケットから溢れんばかりの胸。これぞ巨乳! 巨乳最強!!


 弘香ちゃんに小声で話で話しかける。


「やったね、弘香ちゃん。男子の注目の的だよっ」

「……嬉しくないわよ」

「そうなの?」


 せっかく成長した胸に注目がいっているというのに……。


「はぁ……よく考えてみなさい。エロい目で全身ジロジロ見られて……嬉しい?」

「嫌だね」

「そういうのは1人で間に合ってるわ」


 その1人とはもしや僕のことでしょうか? 最近胸への視線は減らすように気をつけてるんだけどなぁ……。


「旭晴も成長したわよね。特に身長とか」

「成長期だったみたい」


 中学の時は、弘香ちゃんとほぼ変わらなかったが、今では172センチまで伸びた。こんなに伸びると、男の子って感じするよね。


「おまけに髪まで切っちゃって」

 

 耳までかかるほどの髪は、後ろは剃ってのマッシュショートにしてみた。家族にも似合ってるって言われたし、僕も気に入っている。


「弘香ちゃんが巨乳高校デビューするんだから、僕も見合うように整えないとね」


 巨乳を手に入れた弘香ちゃんは、もはや向かう所敵なしの完璧美人。そんな彼女の見届け人として、少しでも格好をつけないと。


「旭晴がカッコよくなったらダメじゃない……」

「え?」

「……ばか」


 ぷい、顔をと背けられてしまった。その際、胸がぷるっと揺れた。


 成長を感じる…………!!

 


 





『次は新入生代表挨拶です』


 スムーズに次々と進んでいく入学式。

 次は新入生代表挨拶か。確か入試で1位だった人が挨拶をするんだよねー。


『新入生代表、西堂弘香』

 

 YES、我らが幼馴染でした。


「あの子が入試1位……」

「めっちゃ美人だ……」


 教壇に上がっていく弘香ちゃんを見惚れるように見る。


『本日は私達新入生のためにこのような盛大な式を挙げて頂き誠にありがとうございます』


 話し始めるとザワザワした雰囲気がシーンと静かになった。みんな弘香ちゃんの声に聞き惚れているようだ。

 その後も一言も噛まず淡々と述べ終わると盛大な拍手が彼女を称えた。僕たちの方を向き、弘香ちゃんはお辞儀をする。 顔を上げた時にふと視線が合った気がして……微笑まれた。


「目が合った! 絶対俺と目が合った!」

「頼むからあの子と同じクラスになってくれぇぇ!」

 

 弘香ちゃんの評価が鰻登り。これは最高の高校デビューができたね!


 入学式が終わると各自、割り振られた教室に移動。クラスは弘香ちゃんと同じだった。


 さぁて、弘香ちゃんも満足しているはず———


「……はぁ」

 

 大きなため息をついている。しかもなんでそんなに不機嫌そうなの!?


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