『ない』は『ある』に、変わる
「さぁ昨日の続きを始めましょうか」
ソファに腰掛けた弘香ちゃんが言う。
にこやかな表情は変わらない、うん。機嫌は変わらずよろしくない……。
「でも……」
恐る恐る弘香ちゃんの胸を見る。
まな板は揉めない。ない胸はどうしようもないし……。
「まな板は所詮揉めないって顔をしているわね」
「まあ、はい……」
「………」
弘香ちゃんは真顔になった。
「そう」
と思えば、すぐににこやかな表情に。
その表情の変わり方が一番怖い……! だって誤魔化してもしょうがないじゃん!!
「貴方はたったそれだけで諦めるのかしら」
「というと……?」
「……。旭晴は揉む側なんだし貴方が考えなさいよ」
理不尽……!
しかし、弘香ちゃんがここまでまな板からのバストアップに執着するということは、それなりに理由があってなのかもしれない。まな板ランキングのことを相当根に持ってるし、協力しないと怒るよなぁ……。
何かいい案……まな板を揉む方法……かぁ。
「"ある"ところまで脱ぐというのはどうでしょうか?」
「というと?」
「昨日は制服越しだったし、布が一枚でも無くなると揉みやすくなるのかなぁ……と」
「………」
弘香ちゃんは顎に指を添えて考えている。
やっぱりダメだよなぁ。昨日も制服の下に手を入れたら殺すとか言ってたし……。
「分かったわ」
「え、分かった!? え!? えっ!?」
驚きすぎて挙動不審に首を左右に振る僕を置き、弘香ちゃんはニットベストを脱いで、ブラウスのボタンに手を掛け始めた。
僕は紳士な男の子なので、急いで体ごと後ろを向く。
……こんなに躊躇なく脱ぐとは思わなかった。
「見てもいいわよ」
「はぁい……って」
どんな下着を付けてるのかなと内心ウキウキしていた健全な男の子な僕。
しかし、胸を隠していたのはブラジャーではなく……。
これって確か……。
「サラシ?」
白い布が胸に巻かれている。お祭りとかで見るやつだ。
でもなんでサラシ……?
「なんでサラシって顔しているわね。そりゃ合うブラジャーがなかったからよ。悪かったわね、まな板でっ!」
「…………」
もう、どうやって反応しても地雷を踏みそうなんだけど……!
胸の部分が完全にガードされているサラシ姿といえど、弘香ちゃんが露出した状態であることは変わらない。
肩も、お腹も綺麗な素肌が露わになっている。
さすがの弘香ちゃんも頬を染めていた。
「私も考えたんだけど……後ろから揉めばいいんじゃない? 持ち上げる感じで」
「なるほど」
反射的に言ったが、弘香ちゃんのサラシ姿に釘付けでよく聞いていなかった。
「旭晴? ねぇ旭晴ってば。ボーとしてないで、早く後ろに座って」
「え、あ、うん……」
後ろに回り、弘香ちゃんが僕の膝に乗るような体勢になる。そして言われた通り、持ち上げるように揉むと、確かに揉める。
揉める……揉めるよ!! 人差し指に微かな乳を感じるよ!!
「……ん」
弘香ちゃんから声が漏れた。
「……い、痛かった?」
「大丈夫……ちょっとくすぐっただけ」
「そ、そうなんだ……」
再び胸を揉むのに集中する。なんか心の中で声かけてとかした方がいいのかな? お、大きくなれ〜、大きくなれ〜……。
「ふふ、女の子の胸を揉むなんて変態ね♪」
頬を染めながらもなんだか楽しそうな弘香ちゃん。あと、今その言葉やめてくれません? ドキッとしちゃったじゃないですか。
さすがに永遠に揉むというわけではなく、10分後には終了した。
「すっごい冷静に考えて、幼馴染の胸を揉むってどうなの?」
「さあ? 女の子の胸にランキング付ける感じと同等じゃない」
「うっ、ごめんなさい……」
予想以上に根に持ってるよ……。
「弘香ちゃんの胸を揉んでるなんて、弘香ちゃんのお母さんやお父さんにバレたら間違いなく……ヤバいよね」
「ええ。責任取れって言われて、色々飛んで老後の資産運用の話までされると思うわ」
老後の資産運用!? 僕らまだ中学生なのに!?
「制服着たし、こっち向いていいわよ。放課後10分程度でいいでしょう」
「えっ、これからも揉むの?」
「当たり前。むしろ、まな板ランキング1位の幼馴染の胸を揉んで大きくするなんて、ご褒美でしょう?」
ご褒美をくれるのはありがたいんだけど……。
「僕でいいの?」
バストアップなら同性の方がいいような……。百合は犯罪にはならないし。
「…………。こういうのは逆に女の子の方が話しづらいのよ」
「なるほど?」
一瞬の間があったね。リアルだ。
同性の方が話しづらいなら仕方ないか。
それに僕らは中学生。まだ成長段階かもしれないし、さすがに中学卒業まで胸を揉むなんて事態はないと思う。
それから放課後は弘香ちゃんの胸を揉む謎の習慣が始まった。すぐには結果は出なかったが、半年経てば少しだけだが揉みやすくなり、成長してるなと
大きくなってきたからって別にやましい気持ちが生まれたなんてことはない。僕はただ、幼馴染として弘香ちゃんのバストアップに付き合っているだけで……。
『ねぇ、旭晴。女の子の柔らかいところはなにも胸だけじゃないのよ』
弘香ちゃんがブラウスのボタンを外しながら迫る。
『日頃のお礼として、触らせてあげる。私のこと、あとここも柔らかいのよ』
弘香ちゃんが僕の手を取り、自身の身体に触れさせようとしてきて――
…………あれ? こんな記憶あったっけ?
「ほんとだぁ……柔らかい………」
ふにっ、むにゅっと、左右それぞれに柔らかさを感じる。左手は柔らかくて温かいものを掴んでいる。右手も柔らかいが、少し感触は違うような……張りがある柔らかさだ。
あー、すごい凄い。弘香ちゃん、こんなに柔らかくなったんだね――
「あら。今は揉む時間じゃないんだけど……?」
「………ん?」
やけに声が近いような……。
目を開けると、ニコォォと笑顔を浮かべた弘香ちゃんの姿があった。そして感触もやけにリアルだなと思っていたら、胸とお尻を鷲掴みにしていた。
「何かいうことはあるかしら?」
「やっぱり胸とお尻もどちらも愛するべきですね……!」
あとは気絶するのを待つのみッ。しかし、今回は一向に痛みがこなかった。
「あれ……? 気絶してない……?」
「私をなんだと思ってるの。せっかくの始まりの日なんだから怒りたくないのよ」
「え、今日ってなんだっけ?」
「……本気で言ってるの? 今日は入学式だけど」
「!!」
そうだよ、入学式!! こんな大事な日に僕はなんて夢を見てるんだ! いや、こんな大事な日だから見たのかな。
なんたって……僕と弘香ちゃんは今日から高校生になるのだから。
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