DAY■
「みっすずー。大丈夫? 今日は一段とクマが酷いよ。ちゃんと寝れてる?」
仕事の昼休み、菜々子がいつものように声をかけてきた。
「また一人で飲んでたの? 水くさいなあ。私も誘ってよ」
美鈴は菜々子の小言に付き合う元気すらなく、はいはいと適当にあしらった。それで引く菜々子ではなかったが。
「ところでさあ、美鈴。今日の私って私だと思う?」
菜々子が突然妙なことを言ってきた。
「急に何?」
「うん、だから、私って私?」
「菜々子は菜々子でしょ」
「例えばさあ、今日の私は昨日までの私とは違う人間になってても、きっと誰も気づかないよね」
「何の話?」
「他の誰かが私の代わりになっても、この『菜々子』という仮面で表面を取り繕ってれば誰も気づかないってこと」
「ああそう。そうかもしれないね。それで?」
「それだけ。ランチ行こ」
ここのところの寝不足がたたり、美鈴は仕事から帰るとすぐにベッドで死んだように眠ってしまった。
夢すら見ぬ深い眠りに落ちた後、唐突に目が覚めた。
部屋が暗い。今は何時だろうか。
美鈴は手探りで部屋の入り口に進み、廊下に出て明かりを点けた。
洗面所に行き、顔を洗おうとしたところではたと気づく。
音がしない。異様な静けさ。
そして美鈴は、鏡越しに自分の顔を見た。
鏡に映る彼女の顔は、のっぺらぼうだった。
美鈴は恐怖に顔を歪ませ叫び声を上げるが、鏡ののっぺりとした顔には何の変化も起きない。
背後に気配を感じた。何者かがすっと美鈴の後ろに忍び寄る。
鏡越しに見えてしまったあれは、美鈴の顔をしていた。
あれは美鈴の顔でこう言った。
「交代しましょ」
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