第3話 軌跡

 太古の海で生命の誕生は起きた。


 “ひとつ”は後に地球に繁栄するものたち。

 “もうひとつ”は3.5次元の領域に生まれた。


 はいわゆる鏡越しで対になるもの。交わることはないはずだが、時として宇宙の“歪み”でぶつかることがあった。


 いつしか“もうひとつ”は『怪物』『妖怪』

『幽霊』『怪異』』などと呼ばれるようになり、実態は違っても人類にその存在を知られるようになっていく。


 19世紀の終わり、太陽フレアが地球に降り注ぎ、その影響で“歪み”は増して常態化。

 相対するはずのが同じ次元に存在し始めた。


 “もつひとつ”の存在はおおやけにはならなかったが、有識者の間では認知されだしていた。本や新聞で仄めかす者もいれば地下で学会を創設して研究する者も現れだす。


 この時、世は石油産業が盛んになっていた。排気汚染の影響を受けやすかった“もうひとつ”は体が溶けてヘドロのような醜い見た目をしていた。そのおどろおどろしい容姿から『魔物』と呼称され、蠢く有機物でしかない非力な彼らは様々な実験材料に使われた。


 しかし魔物は人類と同等の知能や価値観を得ていた。さらに個の意識はネットワーク化されていて人類よりも遥かに優れた共感性を持つ共有意識生命体であり、種族としての結束力は人類を凌いでいたのだ。


 20世紀初頭、魔物の中でも空気汚染に抗体を持ち始め、ヘドロから獣の姿へと進化するものが出てきた。“物を破壊することが出来る“爪”と生物を噛み殺すことが出来る“牙”を得た魔物は人類へのを密かに開始。地球での繁栄を求めた。


 しかし、彼らの進化と同時期、世界のいろいろなどこかで少女が粒子を放って、夜な夜な街に飛び出す事態がこっそりと起きていた。


 彼女らは『魔法少女』と名乗り、正義の名の下に超自然的な力を振るい、魔物狩りを使命とした。


 月夜の下、魔法少女による魔物狩りは100年以上も続き、ついに魔物は絶滅した。


 ——わけではなかった。


 廃墟やゴミ山の隙間でじっと息を潜めていたヘドロ体の魔物が残っていのだ。彼らは長い年月の間に抗体を生成し、形を成して今度は獣ではなく“人”に進化することを選んだ。


 性別、個性、社会性、言語、人としての概念を理解し、人間社会に溶け込んだ。


 生き残りの魔物のほとんどが人としての生活に満足し、人として生きていこうとしていた。


 しかし魔法少女に虐げられたトラウマは消えない。共有意識生命体である彼らのトラウマは人間とは違う、鮮明なとして残る。


 魔法少女への復讐——それを果たさなければ純粋な人生を歩むことができない。


 その意思に導かれ、生き残りの魔物たちは日本のある街に集い、巨大生物の骨格みたいな工業地帯の廃墟で決起の機会を窺っていた。


 人として生きている彼らは当然名前を持ち、その由来は元々生息していた地域からなる。

 佐倉市という街で棲んでいた二体の魔物はそれぞれ人間の男女に成っていたことから、『佐倉姉』『佐倉弟』として街へとやって来た。


 必死に人間社会に適応しながら生きてきたが、佐倉姉が誘拐された日から、悲劇が始まる。


 魔物の復活を察知、それから佐倉姉を誘拐して拷問・殺害したのは赤髪の魔法少女サラ。


 ついに彼女は魔物たちを突き止め、街ごとした。


 運良く生き延び、地球上で最後の魔物となった佐倉。


 太古の海、生命が誕生した日から紡がれた遺志が佐倉に収縮していく。


 そして魔法少女たちへの報復が始まろうとしていた。




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