新世界への序章

岸亜里沙

新世界への序章

『地球上の生物は絶滅するかもしれない』


そんなニュースが9月18日に流れた。

研究者たちが警鐘を鳴らした論文を発表し、世界中の報道機関が一斉に報じた為、世界の人々は大混乱に陥った。


巨大彗星の衝突。


数十年前から研究者たちが、その彗星の軌道を追っていたが、最近の調査の結果、このままでは3年後に地球へ衝突する可能性が94.2%にも達する事が判明したのだ。


インタビューに答えた研究者の一人は、こう語る。


「この彗星への対応は極めて困難かと考えます。我々の計算では、例えばこの彗星の軌道を変える為に、ミサイルを撃ち込むと仮定した場合、現在、地球上に存在する全ての核爆弾の数百倍もの力が必要だからです」


ただ死を待つしかないと知った人々は、終末論の話題で盛り上がり始めていた。


地球最後の日、何処で過ごすか。

誰と過ごすか。

何をしたいか。


しかし各国政府は、対応に苦慮していた。

地球が滅亡するとなれば、法律は機能しなくなる。誰も働かなくなれば、日常の生活維持も困難になってしまう。

電気やガス、水道といったインフラを初め、警察や消防なども機能しなくなる。

そうなればこの地球上は、無法地帯と化すだろう。


アメリカや中国などは、巨大地下シェルターの建設を急ピッチで始めたらしいが、あまりにも無謀な計画としか言えなかった。


絶望を前に人間は、どう生きるかではなく、どう死ぬかを考えるようになっていたのだ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




月日は流れ、3年後。


地球は運命の日を刻一刻と迎えようとしていた。


半ば生を諦めかけていた人類だが、人々の祈りが通じたのかもしれない。


最新の調査で、この巨大彗星は、地球から約16万km離れた地点を通過する事が判明したのだ。

およそ、地球から月までの距離の中間地点だが、直撃の可能性はほぼ0%になった。


世界中の国々で、このニュースが報道されると、人々は歓喜に満ち溢れた。


これは新世界への序章なのだ。

人類はここから生まれ変わるのだと。

国籍や人種、宗教、性別の枠を越え、人類はひとつに団結しなくてはならないと、誰もが声を上げ始めた。


争いを無くし、本当の平和を手に入れる為に。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




巨大彗星が通過して数ヶ月後、この巨大彗星を追跡していた研究者たちは目を疑った。

予想だにしなかったデータを受信したからだ。


「まさか、戻ってきているのか?」


「そんな事はあり得ない」


「だが、軌道がズレ始めている」


「なあ、これを見てくれ」


一人の研究者が、パソコンのシュミレーションを見せ始めた。

その結果に研究者たちは唖然とした。


「こんな事が・・・」


「囚われたのか?」


「そのようですね。この彗星は地球の引力に捕まったようです。このシュミレーションでは数年後には軌道も安定し、月に次ぐ、地球の第二衛星になる事が予想されます」





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新世界への序章 岸亜里沙 @kishiarisa

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