第11話 これからどうするか

Aさんと一戦を交えた後、 Aさんは「俺と付き合う?」と冗談めかして言ってきた。

「私、結婚してますよ」

「そうだよねー。でも、このまま別れるのも嫌だなあ」

私の心配事は、同じ会社の人とこういう関係になってしまって気まずくなってしまうことだった。もしも別れることになったら車内で顔を合わせるだけでも嫌だ。私はいつの間にかAさんのことが好きになっていることに気づいたから、思いを爆発させるのが怖かった。


「できるだけ冷静に、細く長い付き合いをしたいです」

と、私は正直に言った。

そうして私たちは、2週に1回だけ会うことにした。バレるから宿泊はナシ。

そして、Aさんは真っ直ぐな目で言った。

「5年後、仕事を辞める予定なんだよね。海外の大学院にいってMBAを取ろうかなって。その時までに仲が続いてたら、一緒にいく?」

Aさんに抱かれたいと思っていた気持ちが、恋心なのか、それとも夫で満足しない欲求不満さからきたのかわからなかった私は、いきなり熱い告白をされてびっくりした。

と同時に、ヤリモクではなくて真剣に考えてくれていることが誠実なAさんっぽいなあと思いながら、少し申し訳なく感じた。


これは本当の不倫だと思った。

始まってしまうのがドキドキしたけど、こんなに幸せなセックスは久しぶりだった。

昔、夫が不倫をしたことがあったので「お互い様だ」と自分を言い聞かせた。


「そういえばAさん、私が『Aさんにセクハラされた』って告発したらどうしたんですか?だって私、上司を懲戒処分にした女って社内で思われてるし」

冷静になって聞くと、Aさんの答えは予想外だった。

「そうしたら、会社辞めるよ。だって俺、5年後には会社を辞める予定だもん」

そこまでの覚悟を持ってくれたんだなと思った。今まで健全なデートを重ねていたAさんの誠実さが身に染みた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る