第7話 はじめてのキス(前編)

はじめてのサシ飲みで醜態を晒した後、Aさんには「昨日は飲みすぎてすみませんでした」とラインを送った。

Aさんからはうさぎが飛んでいるスタンプが送られた。


淡白な反応だと思ったが、私はAさんのことをもっと好きになった。

酔っ払っても無事に家に帰してくれるAさん。

お互いの信頼関係ができた気がする。

それから、私たちは月に1回飲みに行くようになった。

終電が過ぎた日もあったけど、Aさんはタクシーで帰ったし、私をタクシーで送り届けてくれた。

時々、「Aさんは女に興味がないのでは?」と思う瞬間もあったけど、私からするとそんなのはどちらでもよくて、時々あってはお酒を飲んで、仕事の話や生活の話をたくさんするのが楽しかった。


そんな年齢差10歳の奇妙な友情が芽生えて数ヶ月。

休日に友達と美術館に行き、17時解散で暇になった。

ふと、この駅にAさんが住んでいたことを思い出し「今から飲めますか?」と連絡すると、Aさんは快くOKをしてくれた。


私が行きたかったおでん屋さんに行った。

おでんの盛り合わせを頼み、Aさんとシェアしながら、バクバクと食べた。

がんもどきを半分にしようと箸で割ろうとするも、滑ってどうもうまくいかない。見かねたAさんが加勢してくれて、「二人の共同作業ですね」と冗談を言った。


おでん屋さんを出ると、あたりはまだ薄明るく「二軒目いく?」とAさんは言った。

「えー、明日仕事ですからねえ」

「じゃあ帰ろっか」

「Aさんと飲めたから明日も仕事頑張る気がします!」

「お前は本当に俺のことが好きだなあ」

Aさんは私の頭をぽんぽんとした。

その手が本当に兄が妹を撫でるような手だったので、嬉しいと思った。頭上の手を掴んだ。

「好きですよ」

Aさんはあまりびっくりしてないようだった。

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