第5話 はじめてのサシ飲みと紳士ムーブ
Aさんと会ったのは、向こうから指定があった日本酒居酒屋だった。
夫には「友達と呑んでくるね」と嘘をついた。
19時ぴったりに店に入ると、すでに座っているAさんがいた。
私を見るや否や、Aさんは
「おう、来たか、お騒がせ娘」
とおどけて、右手をあげた。
私は、上司のハラスメントの懲戒処分と私の件が関係あるのか?周りの人からは私が告発したと思われていないか?と悩みを打ち明けた。
Aさんの口からは、何年も前から他の社員にもハラスメントの常習犯だと言われていて、今回は総合的な判断だろうと冷静な意見をもらった。
そして、ハラスメントを数々起こした人を新卒の私の直属の上司にしたのは配慮がなかったと人事を責めてくれた。
私があれほど怖いと思っていた上司も、Aさんよりも年下だったので、Aさんからしてみると「困った・バカな・後輩」という口ぶりだったので拍子抜けしてしまった。
日本酒をグビグビ飲む私に、Aさんは「ちゃんとご飯も食べな?空腹だとすぐ酔っ払うから」と注意して、フードメニューを追加で注文した。
私はというと、酔いが回って気持ちがよくなっていた。
夫はお酒が飲めないので、飲食店でアルコールを飲むのは久しぶりだった。
どうしてAさんはこんなに私に優しいのだろう?
Aさんは私のことが好きなのかな?
そんなことを思って、Aさんに「恋人はいるんですか?」と尋ねた。
Aさんは、大学時代からずっと一人のことが好きで、現在34歳になるその人は、シングルマザーをしているからいつか迎えに行きたいという話をしてくれた。
終電が近づいた。
Aさんは私のことを持ち帰ろうとしないのかな?と少し期待した。
しかし、Aさんはスタスタと駅に向かっていった。
私は結構酔っ払っていて、「酔っ払いました」と正直に言うと、「その辺に転がして俺は勝手に帰るからな」と軽いデコピンをしてきた。
とはいえ、Aさんはきっちり私を駅のホームまで送り、さっと自分の帰路に立った。
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