今朝の二人との再遭遇
その後、入学式はつつがなく終わった。この後の予定は自分のクラスに行って、授業で使うあれこれを持ち帰るのと明日以降の予定を確認するだけだ。
自分のクラスについては合格通知を貰った時に一緒に伝えられている。
「それにして校長先生が居なかったのは残念だったよなあ。実物を見るの楽しみにしてたのにさー」
そんなことを言いながら隣を歩くのはタイチである。
何と偶然にも俺とタイチは同じクラスだったのだ。それで折角なら一緒に教室に行こうとなって、こうして歩いている。
「ああ、それは俺もだわ。何と言ってもこの学校の校長は元Sランク冒険者なんだからな! 冒険者になりたいなら皆が憧れる人だぜ!」
そう、何を隠そうこの学校の校長は元は冒険者だった。
そして現役を引退した後にこの冒険者育成校の校長として就任したのである。
冒険者だった当時、引退する直前のランクは『Sランク』――それは冒険者における最高の高みにして、栄誉でもある最上級のランクだ。
このランクに至ることが出来るのは冒険者の中でもほんの一握りだけ。
世界中の冒険者を集めてきたとしても、Sランクを名乗ることを許されているのは百人もいなかったと思う。
全冒険者の中のたった百人前後……その位置に立っていたのが、今はここの校長だて訳だ。
むしろ会いたくない訳がないだろ!?
「お前ってほんと冒険者好きな。俺も一目見てみたいとは思ってたけど、精々有名人に会いたい程度の気持ちだったし」
「お前ぇ、それは冒険者に成りたい人間としては志が低すぎるんじゃないか~? そもそもタイチはどうしてここに入学したってか、冒険者になりたいと思ったんだよ?」
「まあ、もちろん冒険者に成りたいからだな! 理由は――まあ色々あるけど一番は超有名は冒険者になって彼女をつくることだ!!」
「……あっそ」
コイツと会ってからまだ半日も経ってないけど、何となくコイツのことが分かってきたような気がする……
まあ冒険者になる理由なんて人それぞれだし。俺の考えというか価値観を押し付けるのも良くないよな。
うん、そういう人もいるんだと認識しておこう。
別にそれが悪いって訳じゃないしな。俺はあくまで俺の目標の為に頑張ればいいだけだ。
「それにしても今年のクラスには可愛い子いるかな~。やっぱり高校といったら恋愛と恋とラブだろ!」
「いやそれ全部同じだろ……そう言えば入学式前に変な生徒に絡まれたんだっけ」
「変な生徒?」
「ああ。多分俺達と同じ新入生だと思うんだけど会ったことも無いのに俺の顔とか名前を知ってたんだよ」
それだけでも怖いってのに、加えてスキルまで知っていたから猶のこと怖かった。
「なんだそれ? ヤバいストーカーなんじゃねえの? どんな奴等だったんだよ」
「う~ん、まあ端的に言って美少女が二人――」
「ガッデム!!!! 何が変な連中だよ!!! 美少女に絡まれるなんてご褒美以外の何者でも無いだろうが!!!」
突然、大声でそんなことをほざき始めるタイチがうざい。
「いやいや、考えてもみろよ。本当に顔も名前も知らないような奴から「あなたは安藤健司ですね?」って言われるんだぞ? 幾ら相手が美少女だったからって手放しで喜べるわけ無いだろうが!」
「そんな些末事は美少女というご褒美の前には意味をなさんっ!!」
「うん、この話題を振った俺が間違いだった。もうこの話は止めよう」
タイチのウザさがどんどん増してきたので強制的にこの話題を打ち切る。
「もっと聞かせろ!」とごねられたけど、そもそも俺だってあの二人が何者なのか知らないんだ。
そこまで話せることなんて無い。
そして辿り着いた教室――今日はほとほとついていないと思い知った。
「さっきぶりじゃない安藤健司。同じクラスだったとは奇遇ね」
教室に入って黒板に掲示されていた自分の座席を確認してそこに腰を下ろすと、それを待ってましたとばかりに近づいてきたのは今朝のツインテ美少女だった。
まさに噂をすれば何とやらと言えばいいのか。確かに同じ学校なんだからどこかで再会するタイミングはあるだろうと思ってはいたけど……まさか同じ教室だなんて。
「お、おい健司! この美少女と知り合いなのか!? ぜ、是非紹介してくれ!!」
馬鹿が何か喚いているが無視する。
第一、紹介出来る程知り合いでも無いし名前すら知らない。何ならこっちが紹介して欲しいぐらいなのにお前に紹介出来るような間柄でもないっつーの!
取り合えずタイチはどうでもいいとして、さすがに何も返さないのは失礼なので挨拶をしておく。
「あ、どうも。同じクラスだったのか! これからよろしくな!」
いたって無難に挨拶を返して視線を外そうとしたが、その方向に回り込まれて逃げ場を失う。
「あんた、放課後は空いてるわね?」
「……なんで?」
「今朝も言ったでしょ。あんたに話したいことがあるの。だから放課後ちょっと顔貸しなさい」
正直、俺のスキルのことについて知っていたり面倒な臭いがプンプンするからあまり関わり合いになりたくないんだが……
だからきっぱりと断ることにした。
「普通に無理。放課後は家族で俺の入学祝をするから予定がある。お前に付き合ってる余裕は無いんだ」
「だったら場所はこっちが提供するから家族全員呼ぶといいわ。うちの家族も来るから折角だし家族も含めて交流しましょう。じゃあ人数が増えることを連絡するから、そっちの人数を教えなさい」
「ふざけんなっ! どうしてお前のところと家族ぐるみの付き合いをしないといけないんだよ! そんなことお前が勝手に決めてうちの家族もそうだし、そっちの家族だって迷惑だろうが! 勝手に話を進めんな!」
「別に、うちはむしろ大歓迎だと思うから気にしなくてもいいわよ。まあでも確かにそっちに家族に迷惑が行くのは不本意ね。じゃあ何時なら予定が空きそうなの? 明日とか?」
「あのなあ、だからそうやって勝手に話を「そうですわね。安藤様は
ツインテ美少女と言い争いをしているところに別の声が割り込んできた。
聞き覚えのあるその声に視線を向けるとそこには、今朝話したもう一人の女生徒の一人七海さんが立っていた。
ただし今朝と違うのはその目に少しだけ敵対的な意志が見え隠れしているところだ。
その相手は俺では無く、ツインテ美少女の方に向けられている。
そして一方のツインテ美少女の方は、はっきりと分かり易く七海さんの方を睨みつけていた。
「七海、麗華……っ! なんでアンタが出てくるのよ! 大体なんでこの学校に入学してる訳! あんたは冒険者に興味なんて無いはずでしょ!」
「あらあら、何か勘違いを為さっているようですわね。私は別に冒険者に興味が無い訳ではないのですよ? むしろその逆――冒険者という存在に興味津々なんですの」
そういって流し目で視線をこちらに向ける七海さん。
何というか、きっと傍から見ていれば色っぽくて顔を赤くしていたのかもしれないけど、俺はそれよりも寒気を感じた……蛇に睨まれた蛙の気分と言ったらいいのか、何かそんな感じ。
という訳なのでさりげなく視線を逸らしておく。
それにしても口ぶり的にこの二人は知り合いなんだろうか?
仮にそうだったとしても、とてもじゃないが友好的な関係だとは言えないだろう。
だってもうバッチバチだもん。二人の背後に暗雲を背負った竜虎が幻視できるぐらいにはバチバチだもん。
突然乱入?してきた七海さんを睨みつけていたツインテ美少女は少ししてその表情を余裕ぶった顔に変える。
「……まあそんなこと今はどうでもいいわ。それよりもコイツとは今、私が話してるのよ! あんたは邪魔だから引っ込んでなさい!」
「先程の言葉が聞こえなかったんですか? この後安藤様とは大切なお話をする約束をしておりますの。ですから邪魔だと言うのならあなたの方こそお邪魔なんじゃないですか――『
「はっ? どうせあんたの事だから相手の話なんて聞かずに一方的に取り付けた約束なんでしょ? そんなの無効よ無効! 先に話しかけた私の方が優先に決まってるでしょ!」
え、人の話を聞かないとかそっちが言うの?
さっき勝手に人の予定を決めようとしたり、今朝だって一方的に喋りたいことだけ喋って去って行ったのは何処の誰だったでしょうか?
そんな抗議の視線をツインテ美少女に向けてみるが、もはや俺の存在は眼中に無いらしく全く気付いて貰えなかった。
じゃあ会話に入って行けばいいじゃんて?……嫌だよ。
だってなんか怖いし。
「何を言い出すかと思えば……決めつけは良くありませんわね。私はきちんと安藤様に対話の場を設けることを認めて貰っています。順番がどうのこうのなんて、あなたの方こそちゃんと約束も取り付けずに迷惑も考えず無理矢理迫ろうとしていたのであはありませんか?」
約束……果たしてアレを約束したと言えるのだろうか。
まあでも確かに式が終わってからまた話そうとか言ったのは――俺からだっけ。てことは七海さんが了承してれば約束したことになるのか。
「ちょっと、そうなの!? 安藤健司!!」
「え、まあ……確かに話の続きは式の後でって言った記憶があるかな?」
「……ふっ」
「~~!!」
ツインテ美少女改め、赤嶺さんはその場で地団太を踏みそうなぐらい顔を真っ赤にして怒りの様子を見せた。
そしてその怒りを煽った七海さんは完全に勝ち誇ったような顔で自分よりも背の低い赤嶺さんを見下ろしている。
それが余計に癪に障ったのだろう赤嶺さんがより一層額に青筋を浮かべて怒りを強くする。
「毎回毎回私の邪魔ばかりしてきて……麗華、今日こそどっちが上なのかはっきりさせてやるわ! 覚悟しなさい!!」
「あらあら、都合が悪くなるとそうやってすぐに暴力に走ろうとするところは変わりませんわね。いつもであれば望むところなのですが――今日は遠慮させてもらいますわ」
「なによ!? 逃げる気なの!?」
「いいえ、ただ時と場所を考えただけですわ。それから状況も」
「は? 何言ってんの――」
そう続けようとした赤嶺さんの頭を誰かの手が鷲掴みにする。
「ちょっと何人の頭を勝手に――いたたたた!!? いたっ、痛いんだけど!?!?」
「おいコラ、初日から揉め事とはあたしの仕事を増やすんじゃねえよ。ぴーきゃーぴーきゃー言ってないでさっさと席につけ」
俺も七海さんも少し前から気付いていたけど、ちょうど教壇の方を背にしていた赤嶺さんは気付かなかったらしい。
ちょうど七海さんが合流したほんの少し後に教室に入って来たのである。
俺は始めからそっちを向いていたからすぐに気付いたし、七海さんも横目で見ていたから入って来たのと同時に気付いていたと思う。
その人はパンツスタイルのスーツを少しよれっとした感じで来ていて、口にはたばこ?が咥えていた。
ああ、いやアレはたばこじゃ無いか。口に含んでいるほうにキャンディが付いているチュパチャップスみたいなお菓子だと思う。
特に力を入れている様子も無いのに、赤嶺さんは涙を流す程に滅茶苦茶痛がっている。
「分かったか?」
「いたあああい、わ、分かりましたーー!!」
赤嶺さんが返事をしたところで手を放すと、今度はその視線を七海さんの方に向ける。
「お前も、折角同じクラスになったんだから少しは仲良くするようにしろ。またコイツを煽って騒ぎを起こすようなら、お前も制裁の対象になるからな?」
「心得ておきますわ。お騒がせして申し訳ありませんでした」
「ふん……それじゃあホームルームを始めるから全員自分の席に座れ。自分の席が分からない奴は前の黒板に席順が書かれた紙があるからそれで確認しろ」
赤嶺さんは頭を押さえながらすごすごと、七海さんはその微笑を崩すこと無く優雅に一礼してそれぞれ自分の席に戻って行った。
二人と、それからタイチもそうだったが座席の距離は離れているので気軽に話せる場所にはいない。
まあ、タイチがいても五月蠅いだけだしあの二人が近くてもそれはそれで厄介そうだったからこれでいいとも思うけどな。
そうして全員が席に座ったところで、教壇に立っていたスーツの女性が呼びかけを行う。
「よし、全員揃ってるな。あたしがこのクラスの担任になった『
そうして、色々なことがありつつ冒険者育成校初日にして初となるクラスでの時間が開始された。
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