ダンジョンでの発見【前】

 朝、今日は休日ということもあり家族全員が朝食に揃っている。

 うちの家族構成は母さんと父さん、そして俺と妹の愛華あいかの四人家族だ。


「そういえば健司、昨日ダンジョンに行ったんだろう? どうだった初の冒険者活動は?」


「う~ん、色々と大変だなって感じ。でも楽しかったぜ!!」


 大変だなって部分はやはり、あのマナーの悪い連中のこと。

 鳳に会ってなかったら他の冒険者に関する悪感情を持ったままだったかもしれない。

 もちろん完全に払拭できたとは言わない。だけど、中にはああいう連中もいるんだな程度までには自分の中で落とし込むことが出来た。


 それに何より、やっぱり冒険者活動は楽しかった!!

 

 モンスターと戦ったこともそうだし、ダンジョンの中を歩き回ったということそれだけでドキドキワクワクさせられた。

 加えて鳳に付き合った配信のお手伝いなんかも、普段はしない経験で面白かったと言える体験だった。


「そうか、まあそれなら良かったが怪我とかはしなかったか?」


「一先ず昨日は特に。まあ、まだ第一階層にしか行ってないし出てくるモンスターだってスライムだけだったからな――ああ、それでも一匹だけ無駄に固いスライムがいてさ! 色も形も他のスライムとは違うわ、こっちの攻撃は全然通じないわで大変だったけどさ! スキルを使って何とか倒したんだぜ!」


「固いスライム……? それはもしかして、希少レアスライムか? だとしたら兄はよほど運が良いのだな。始めてのダンジョン探索で希少スライムに出会えるなんて確率的には宝くじ当選レベルの話なのだぞ?」


「えっ!? あれってそんなにラッキーなことだったのか!?」

 

 希少スライムが名前だけに、珍しいことは知っていたけど……まさか愛華がそこまでいう程とは思いもしなかった。


「その希少スライムっていうのは珍しいモンスターなのか?」


「ああ、そうなのだ父。私も聞いた話になるが、何年も冒険者を続けているような人でも出会ったことの無い冒険者が半数以上と言える程に珍しいモンスターなのだ」


「ほぉ~、それは随分と幸先が良いじゃないか! それにしても健司の話を聞く限りそれなりに強かったんだろう? 初心者でも倒せるようなもんなのか?」


「それはもちろん希少スライムの種類にもよるな。兄もスキルを使って倒したと言っていたが、ちなみにどうやって倒したんだ?」


「うん、単純に毒殺した」


「「「……」」」


 俺の言葉を聞いて、何故か沈黙する家族たち。

 えっ、俺なんも変なこと言ってないよな……?


「健司、あんた毒殺って……中々えげつないことするわね?」


「「うんうん」」


「いや、だってしょうがなかったんだよ!? こっちの攻撃は一つも通じないし、だから俺だって多少抵抗はあったけど――でも、使える手段は全部使うって決めたんだ! だから後悔はしてないぞ!」


「おお~……何だか健司が一回り大きくなったように感じるなあ。これは俺達も年を取ったってことかな~、ねえ菊乃きくのさん?」


 菊乃とは、俺達の母さんの名前だ。

 ちなみに母さんは菊乃きくの、父さんはたけるという。


「ふざけんな。私はまだまだ若い――ぶん殴るわよ?」


「さーーせん!!」


 こうして父さんの不用意な発言で母さんがキレて父さんが全力謝罪するという流れはお決まりのように毎日見ることが出来る。

 ある意味で、うちの日常の風景とも言える。


 そんな、我が家のヒエラルキートップの確認作業を見ていると隣の愛華に声をかけられる。


「なあ兄、今日もダンジョンに行くのか?」


「ん? そうだな、その予定だぞ。それがどうかしたか?」


「いや、何がという訳じゃないのだが……」


「……?」


 愛華は何か言いたいことがあるのか、もじもじとしている。いつもさっぱり言い切るタイプのコイツにしては珍しいことだ。

 そんな風に思いつつどうしたのかと首を捻っていると、格付けを終えた母さんが愛華を促した。


「別に恥ずかしいことでもないでしょう? 心配なら心配だって言えばいいだけじゃない」


「母っ!? そう言うことはペラペラ喋らないで欲しいのだが――」


「なんだ愛華、俺のことが心配だったのか?」


「っ……ま、まあ、そうだ」


 うん、そうかそうか~……


「愛華はお兄ちゃんが心配だったのか~。まったく心配性な妹だな!」


「こ、こら!? 勝手に頭を撫でるんじゃない!? ほんの数歳しか違わないのに子ども扱いをするんじゃない!!」


 そう言って頭を撫でていた手を振り払われる。


「あはは、ごめんて。まあでも大丈夫だよ! 俺だって何も死に急ぐほど馬鹿じゃないさ。ちゃんと安全は確保して進んで行くから心配すんなって!」


「……確かに馬鹿では無いが、兄は阿呆だろう? だから心配なのだ」


「あれ、心配から一転して突然ディスられた?」


「でも愛華の言ってることも間違ってないわよ? あんたってば変なところで抜けてるから、簡単に罠とかに引っかかりそうだし」


「うん、確かにな。ダンジョンで気になるものを見かけたら迷わずに突っ込んでいきそうな気がする」


「「ああ~……」」


「俺ってそんな認識なの!?」


 何故か家族全員からアホの子呼ばわりされてるんだけど!? 


 た、確かに興味があるものに対して一直線な気質があるところは否定しない。

 けどちゃんと時と場合は弁えてるぞ! 特にダンジョンみたいに危険と隣り合わせの場所では絶対にそんなことはしない!


「まあとにかくだ。冒険者活動は危険が付き物なんだから、より一層注意して行ってくるんだぞ」


「分かってるよ。ちゃんとは守るって!」


 約束―――俺がダンジョンに潜ることに反対していた両親を説得したとき。これだけは必ず守るようにと言われた約束がある。

 その約束とは、『必ず生きて帰ってくること』だ。例え歩けなくなるような重症を負っても、まるで助かる見込みが無いような事態に陥っても。

 必ず生きてこの家に帰ってくる。その意思だけは絶対に捨てないこと。


 それが、俺と両親が冒険者になる時に交わしたたった一つの約束だ。


「うん、分かってるならいい。しっかりな」


 俺の返事を聞いた父さんは満足そうに一つ頷く。


 説得していた当時は、母さんよりも特に父さんの方が猛反対していたのだ。

 それを言い合いしたり喧嘩したりしながら、ずっと時間を掛けて説得してきてようやく許可して貰えたのだ。

 だからこそ、父さんにも母さんにも、もちろん愛華にも心配をかけてしまっている自覚はある。

 

 冒険者になることを許してくれた家族の信頼を裏切らない為にも、俺もしっかりしないといけないな!


「時に兄よ。もし本当に希少スライムを倒したんだとしたら、何かしら普段とは違う変化があったんじゃないか?」


「えっ……?」


「希少スライムを倒すと、貴重なドロップアイテムを落としたり経験値がかなり多く入ったりと普通のスライムとは異なる恩恵があったはずなのだが……まさか確認してなかったのか?」


「ち、違うんだ!? ちょうど希少スライムを倒した後に人が寄って来て、そいつと色々喋っている間に確認するのを忘れていたというか何というか――」


「はぁ……こういう所が心配なのだ」


「……すみません」


 結局その後も言われるまで忘れていたから何も言えないっす……


 だ、大丈夫! この反省を次に生かせばそれでオーケーだ!


「と、とにかく! 朝飯食ったらダンジョン行ってきます! ちゃんと、ものすご~く気を付けて行ってきます!」


 そうして、朝食を食べ終えて俺は家族に見送られて新宿ダンジョンに向けて家を出た。





 昨日と同じように更衣室で着替えと、手荷物を預けてから入場の列に並ぶ。

 しかし今日は、列に並ぼうとしたところで意外な人と出会った。


「昨日ぶりですね、安藤さん」


「あ、副支部長さん、でしたよね? どうしてこんなところに?」


 ギルドの外、それもダンジョンの入り口にほど近い場所で副支部長さんに声をかけられた。


「いえ、少しダンジョンの方に用事がありまして。これから新宿ダンジョンに入ろうと思っていたところなんですよ」


「そうだったんですか。副支部長さんみたいにギルドの偉い人もダンジョンに潜ったりするんですね。あんまりそういうイメージありませんでした」


「ははは、確かにそうかもしれませんね。でも、ギルドの上層部って意外と元冒険者だったりとか武闘派が多いんですよ。そういう人達が、いざという時に戦闘勘を鈍らせないようにダンジョンに行くことも意外と多いんですよ?」


「てことは、副支部長さんもそういう目的で……?」


「いえいえ、先程も言いましたが今日はダンジョンに用事が、調べることがあるんですよ。ですので、決して僕は戦闘狂の類ではありませんからね? あんなのと同類にされたくありませんのでそこのところはお間違いないように!」


「は、はいっ!」


 ひょっとして、戦闘狂な人に何か恨みでもあるんだろうか?

 そうとしか思えないような苦々しい表情で念押ししてくるんだけど……


 そんな風なことを話した後、副支部長さんは以前俺がステータス取得に時に通った通路を使いダンジョンに入っていった。

 探索頑張って下さいって応援されてしまったけど、知り合ったばかりの俺に声をかけてくれるなんて優しいというか、まめな人だなあ。

 果たしてああいうところが、上の方の役職に付くのには必須のスキルなのかもしれない。


 それにしても、ギルドの副支部長が直々に調べるなんてダンジョンで何かあったのだろうか……?

 でなければ、わざわざ新宿ギルドのナンバー2が出張ってくるようなことはないと思うんだけど。


 でもダンジョンの周辺はいたって普通だった。


 特にこれといって騒ぎも起こっていなければ、冒険者の様子も変なところは無い。

 精々が昨日来たときよりも少し人が多くて騒がしいぐらいだ。それも休日だからという理由で片付けられる程度のことだろうし……何だろう?


 そんな事を考えているうちに、入場の順番が回って来たのでそこで一旦思考を打ち切る。

 でも騒ぎになってないってこと、それほど重要な事とかじゃないのかもしれない。

 例えば、ダンジョンの定期的な視察とか?


 考えても分からないので、俺も特に気にせず普段通りに行動するとしよう。


「さて、今日は――と、その前にステータスを確認しておくか。今朝も愛華に注意されたばっかりだもんな」


 結局昨日は一度も自分のステータスをチェックして無かったし。

 それに俺も希少スライムを倒した恩恵がどうなってるのか気になっていた。


 ドロップアイテムは、魔石以外特に変わったものは無かったからそれではないと思う。買い取りのときも、特に珍しい魔石とかそんな風でも無かったし。

 てことは経験値とか、ステータス方面に現れていると思うんだけど……

 

 そう思って二日ぶりに自分のステータスを確認する。

――――――――――――――――――――

名前:安藤 健司 レベル:20

攻撃:21

防御:21

敏捷:21

魔法:21

幸運:50

スキル:スイーツマジック 味変換テイストチェンジ

称号:甘党

――――――――――――――――――――


「おっ? これってもしかしなくても新しいスキルが増えてるよな!?」


 レベルに関しては昨日はスライムを三十匹以上倒したし、これぐらいだろう。

 ステータス値に関してもレベルと同じだけ上昇するという何の変化もない結果だった。 

 ちなみに幸運に関しては少し特殊なステータスで、レベルアップで上昇することは無いらしい。上げるには、そういう装備を使うか使い捨てのアイテムを使うなどの方法がある――と初日に桃木さんが言っていた。


 それより何より、増えているスキルに注目すべきだろう!!!


 まさかダンジョンに入り始めて二日目で新しいスキルが増えるとは……

 間違いなくこれが昨日の希少スライムを倒した恩恵だと考えるべきだよな? しかしまさかスキルが増えるなんてなあ。


「しかも何だこのスキル? なんか<スイーツマジック>と似たような気配がするんだが……」


 少し嫌な予感を抱えつつ、スキルの詳細を確認していく。

――――――――――――――――――――

スキル:味変換テイストチェンジ 種別:レア

効果:自身が作ったものの味を自由に変えることが出来る。

――――――――――――――――――――


「おっ?」


 それを確認した瞬間、自然とこのスキルの使い方を理解することが出来た。

 前の<スイーツマジック>の時はこんなこと無かったのにという疑問はありつつも、それよりスキルの使い方に思考が流れる。


「スキル名も説明も使い方も、本当に見たまんまって感じだな。なんだ、もしかして毒入りにして美味しく無かったからこんなスキルをくれたのか?」


 さすがに毒入りお菓子は食ってないので味に関しては分からない。

 もしかすると、激マズの可能性だってある。


 そう考えると、あの灰色スライムが「少しは味を考えやがれ!!」と文句を言っているような気がしなくもない。


「まあでも、面白そうな効果っぽいしいっか。にしてもなんか本当に、冒険者じゃなくて料理人、パティシエ? みたいなスキル構成になっていくな~……俺」


 よしっ、気を取り直してダンジョン探索を始めるとするか!


 気持ちを引き締め直した俺は、ステータスを閉じてダンジョン探索を再開したのだった。

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