閑話 新宿ギルドのトップたち

 遅くなってすみません! 

 閑話の為、少し短くなっております。次回から本編に戻りますが、この閑話にも重要なお話も入っていますので是非とも読んでみて下さい。

――――――――――――――――――――

 賑わっている新宿ギルドの中でも人気が少ない場所を歩く男の姿があった。

 

 一階部分は、買い取りや依頼を受けに来た冒険者で賑わっている。

 しかし二階以上は、その賑わいに反してほとんど職員の姿も無くひっそりとしていた。

 その為、廊下を歩く足音が良く響いている。


 男は、ひょろりと高い身長をしているが体格は細い体つきをしている。

 顔には日々の疲れが浮かんだような目元の隈があり、伸ばしている無精ひげも相まって「おじさん」という言葉がよく似合うような人物だった。

 

 もし、このように人気の無い場所でなければ特に気にも留めないような気配の薄さを持っている。

 その男はついさっきまで健司と話していた『副支部長』と呼ばれた男だった。


 廊下を迷いなく進んで行き、突き当りにある部屋の前で立ち止まる。

 その部屋に扉には支部長室と書かれた表札が張られている。


 副支部長の男が扉をノックすると、中から女性の声で入室を許可する返事があった。


「失礼します」


 部屋は来客に対応できる為なのか、それなりの広さとソファーなどが置かれていた。

 その奥にある執務机では、この部屋の主が待ち受けていた。


「待っていたよ、来道らいどう。急な頼みごとになって悪かったね?」


 言葉ではそう言いつつも、そこまで悪いとは思っていないような声音で詫びる。

 すると、副支部長来道は大きな溜息を吐いた。


「そう思っているのなら、本当に勘弁して下さいよ。僕にだってと仕事があるんですから」


「まあ、そう言うなよ。何といっても我が支部始まって以来の『ユニークスキル保持者』が出たんだぞ? そっちの方の対応が優先されるのも仕方ないだろう」


「確かにそうなんですけどねぇ……お陰で暫くは残業が続きそうですよ。これって特別手当とか出ませんかね? 滅茶苦茶面倒臭いんですけど?」


「前向きに検討しよう」


「……はぁ」


 来道の疲れたような表情の原因は、この支部長に大いにありそうなことが分かるやり取りだった。

 これで今日何度目なのか分からない溜息を吐いて「こうして幸せって逃げていくのかな……」などと全く関係の無いことを考えている。


「さて、それじゃあ早速だけど件のユニークスキルの子についての報告を聞こうかな。確か名前は――」


「安藤健司くんですね。いい加減自分で調査を頼んだ相手の名前ぐらい覚えてください。さっきご自分でも言っていたように、この支部始まって以来の貴重なユニークスキル保持者なんですよ?」


「分かってる分かってる。それで彼の様子はどうだった? スキルに関しては何か分かったかい?」


「一応、今日のダンジョンの中での様子からですが――」


 来道はその場で今日、健司のダンジョンでの行動や戦闘の様子などを少佐意に支部長に報告し始める。


 健司は気付いていなかったが、新宿ダンジョンに来てから。もっと言えば、新宿ダンジョンの敷地内に入った段階からギルドに戻ってくるまで、ずっとされていたのだ。

 

 その監視役として選ばれたの人物こそ、副支部長であるこの来道だった。

 

 この監視、というより調査には様々な理由がある。

 しかしその中でも最も大きいのは、やはり健司の所持するユニークスキルの調査だ。それだけユニークスキルの希少価値と、それが及ぼす影響には凄まじいものがある。

 伊達に所持者が全員、世界レベルと強者という訳ではないのだ。


 来道の報告を、支部長は面白そうに口元をにやけさせながら聞いている。


「――と、まあこんなところですかね。スキルに関しては本人があまり使わなかったので、確認できた情報は少なかったです。戦闘評価としては凡人の素人で、お世辞にも強いとは言えません」


「ふむふむ、なるほどね。その点に関しては彼の戦闘風景に少しだけ立ち合った、桃木も同じ評価だったよ」


「……じゃあ、僕が確認する必要無かったんじゃないですか?」


「いやいや、それは必要だろう。今回は、自分で揃えた装備で一人だけの本当の意味での戦闘だったんだから。それに……実際に見てみないと分からない部分は多いからね?――で、実際どうだったかな? 来道から見て安藤健司という人物は?」


 支部長にそう問われた来道は少しの間、沈黙する。

 考えを纏めようとしているのか、それとも言葉を選んでいるのか。

 口を開いた来道は、自分の目で見てきた健司に対してこう言葉にした。


「そうですね……近年稀に見るまさに『冒険者』と言えるような少年だと思いました。戦いとか金儲けとかそういうのじゃなく、純粋にダンジョンを楽しんでいる。不思議と応援したくなるというか、見ていてそんな気持ちにさせられました」


「――あはははっ!! 君からそんな評価を貰えるとは、彼も中々見所があるじゃないか!! いいねぇ、増々興味が湧いてきたよ~!」


「それは、安藤くんも可哀そうだ。あなたに目を付けられるなんて碌なことになりませんよ」


「それは経験則かい?」


「自覚があるような言い方ですね?」


「「……」」


 お互いに気まずい沈黙が流れる。


「と、とにかくだ! 彼の持つユニークスキルは、ユニーク種の中でも猶のこと特異なスキルと言える。そもそも使い方が分からないという時点でおかしな話だからね」


 支部長の言っていること……


 それは、スキルとは使ものなのだ。

 そこに種別による差は無く、全てのスキルにおいてそれが言える。


 しかし健司の場合は、それが無かった。

 だからあまりにも使い方、というかスキルで何が出来るのかということが『ふわっと』しているのだ。

 ある意味、雑過ぎるとも言える。


「つまりアンドウくんが持っているスキルはユニークの中でも――いや、これまでに確認された全スキルの中とは何か違う可能性があるということだ! これは実に面白いとは思わないかね!?」


「面白いかどうかは置いておくとして、興味深いのは同意ですね。聞いたところによると、何の消費も無しにお菓子を作り放題らしいじゃないです。質量保存の法則はどこにいったんですかね……」


「いいよね~、お菓子作り放題ってことは食べ放題ってことだろ? うん、その点だけとっても私の秘書に欲しいところだ。一家に一台って感じだな!」


「支部長のお菓子製造機になるのは、安藤くんも勘弁して欲しいと思いますよ」


「それは追々交渉でもしてみよう!――じゃあ来道、アンドウくんの動向に関する報告は引き続き頼むよ。もうそろそろ『』だからね。彼が有用かどうかの判断も併せて頼む」


「ああ、そういえばもうそんな時期でしたか……」


 支部長の言葉を聞き、非常に面倒くさそうな表情をする来道。


「それにしても来道~……君、アンドウくんに幽霊に間違えられたんだって?」


「ちっ……もうご存知でしたか」


「ああ知っているともさ! それにしても傑作だね! そんなゾンビだか死霊だか分からないような顔してるから間違われるのさ! あはははははは!!」


「だ、誰のせいでこんな顔してると思ってるんだ!! 元はと言えばアンタがトンデモない量の仕事を割り振るせいだろうが!? お陰で最近は家にも帰れてないし、また子どもに「おじちゃんだれ……?」とか言われたら一生恨むぞ!!?」


「ぶわっはははは! またってことは少なくとも一度は言われたんだ! ねえ、そん時の録画とか録音とか無い? めちゃくちゃ聞きたいんだけど??」


「おまえぇ、ぶっ潰す!!」


 新宿ギルドの支部長室が異常なまでに頑丈に作られているその理由の、一端を垣間みたようだった。

 ちなみに防音に関しても優れているとか、いないとか。


 上階での騒ぎは、冒険者がごった返す一階では全く気にも留められていなかった。

 そして職員たちは気付いていたものの、いつものことかとこちらも特に気に留めていなかった。

 

 色々な意味で破天荒な支部長と、苦労人である来道。

 

 その二人と健司が本当の意味で対面することになるまで、さほど時間は掛からないのかもしれない。

 何せ支部長が言っていた『あの時期』というものが、そう遠くない内にやって来るのだから……

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