健司の初装備【後】

投稿時間ミスしました。ですので気付いたタイミングで投稿しちゃいます。

中途半端な時間でごめんなさい。

――――――――――――――――――――

 店の奥に連れてこられると、そこは広い倉庫のような場所になっていた。

 中には武器や防具が所狭しと置かれている。


「それで? おめぇ、防御のステータスはどんなもんだ? ああ、具体的な数値は言わなくていいぞ。高いか低いかぐらいで十分だ」


「ああ~、えっと~……めっちゃ低い。文字通りの紙装甲だよ」


「なるほどな。てことは動き易さ重視にした方がいいか……」


「うん? 防御が薄いなら防御力重視の装備にするんじゃないのか?」


 俺のステータスを聞いておやっさんが持ってきたのは、体の要所のみを守るタイプの防具だった。


「馬鹿野郎。防具でどんな攻撃でも防げると思ったら大間違いだ。そう言うのはよっぽど高性能のダンジョン産防具でもなきゃ不可能だぞ。だったら大事なところだけは守って受けるんじゃなくて、回避を優先した方がいい。それに相手の攻撃を避ける立ち回りも自然と身に着くしな」


「そういうことか……」


「まあパーティー組んでタンクをするとか、役割が決まってればその限りじゃねえが――あぁ、今はそれはいいだろう」


「そうだな。暫くはパーティーを組むつもりは無いし」


 これは冒険者になる直前まで迷っていたことだった。

 ソロでダンジョンを攻略していくか、パーティーを組んで進んで行くか……


 決め手になったのは、俺の特殊なステータスだ。


 愛華に指摘されたように、同レベル帯の中でも最底辺と言っても過言ではない程のステータスの低さ。それに加えて、使い方のハッキリしないユニークスキルまで所持している。

 これでパーティーを組もうものなら、仲間の足を引っ張るのは火を見るよりも明らかだろう……

 

 だから少なくとも自分の力をきちんと理解し、扱えるようになるまではパーティーを組まないと決めた。


「最初の防具だからなぁ……あまり防御力が高すぎても低すぎても意味が無い。かつ動き易さを重視するとなれば――ここら辺がいいな」


 おやっさんは武器の時と同じようにいくつかの防具を集めて、長机の上に並べる。

 そのどれもが、最初に持ってきたのと同じ体の要所のみを保護するようなタイプだった。

 全身を覆うタイプの鎧を持ってきていないのは、やっぱりさっき言ったことが理由だろうな。

 かく言う俺も、いきなり全身鎧を纏って思った通りに動けるとは想像できないし。

 武器のときもそうだったけど、おやっさんの見立てなら大丈夫だろう。


 するとおやっさんは、その中の一つを手に取って俺に着るように言ってくる。


「これどうやって着るんだ?」


「ああ?……そういえば防具を付けるのも始めてか。教えてやるから同じようにやってみろ」


 おやっさんに指示された通りに身体の各部への取り付けや、留め具の確認などを行っていく。

 

 ようやく着ることが出来たけど、防具を着るのって中々大変だな……

 ただ着るだけで一苦労だった。何回か続ければ慣れるとは思うけど、やっぱり普段は着ないものを着るのって大変なんだなあ。

 コスプレとかも似たような感覚なのかな? したこと無いけど。


 それはともかく、防具を身に着けた感覚としては――やっぱり普段着とは全然違うなって感じだ。


 着慣れてないってのもあるけど、違和感を凄い感じる。


「どうだ? ちょっとその場で動いてみろ」


「よっ! ほっ!――うん、何が正しいのか分からん!!」


「そうじゃねぇよ!? 普通に着たまんまを言えばいいんだよ!!」


「えぇ~……そうだな。やっぱり、ちょっと身体が重いかな。着てないときほど機敏に動けるって感じはしないな。それになんか、間接周りが固くて、異物感? が凄いっていうか……」


「ふむ、なるほどな。てことはここら辺はダメだな」


 俺が言えたのは着心地というか、ほぼ素人の感想みたいなもんだった。

 しかしおやっさんは、そんな俺の言葉から何かを理解したのか持ってきた防具の中の幾つかを片付けて新しい防具を持ってくる。


「今のでなんか分かったのか?」


「ああ、ある程度はな。おめぇの場合は、柔軟性のある素材を使った防具の方があってるみてえだ。ここにあるのは、そういう特徴から選んできた防具だからこの中から選んでいくぞ」


「おう! 頼んだぜ、おやっさん!」


 そうして武器のときと同様に試着と、その着心地の感想報告を繰り返しながら自分にあった防具を見繕っていく。


 その過程で何着も着ていくうちに分かったことがある。


 防具も武器と同じように一つ一つかなりの違いがあるってことだ。

 それはもちろん見た目が似たような装備でも同じことが言える。細かい話になるけど、例えば動いてみた感じ。

 さっきは腕を上げてみたとき、今着ているものとさっき着ていたもので、ほんの数㎝ぐらいの違和感とも言えないような違いがあったりとか。


 防具の方は不思議としっくりくるって感覚は無かったので、そう言った細部の違いから自分にとって動き易いと思えるものを探していく。


「よしっ、ここまで絞れたな。後は単純に見た目とかの好みの問題だ。おめぇならどっちを選ぶ?」


 最後に残ったのは二つの防具。


 一つは、モンスターの皮を使ったレザーアーマー。

 何のモンスターの皮かは教えてくれなかったけど、表面に鱗っぽいのが見て取れるのでリザード系のモンスターだと思う。

 さすがにドラゴン系ではないだろ。初心者の俺にそんな装備を持ってくるはずも無いしな。

 全体的に赤のカラーリングをされていて、着ていると三倍速く動けそうな気分にさせてくれる装備である。


 もう一つは、金属が使われた形はレザーアーマーの方と同じ鎧。

 こちらも何の金属かは教えてくれなかった。どっちにしろなんで秘密にするんだろう? という疑問はあるもののさほど気になるわけでもないので置いておく。

 おやっさんはどちらも防御力という面では似たり寄ったりだって言ってるけど、何となく金属の方が堅そうな気がしてしまう。

 ただこっちには、金属の部分に何かの文様が施されていて、それが何と言うかこう――格好いい。


 そんな二つの装備のどちらを選ぶか……


 性能的にはそんなに差は無いそうなので、本当に選ぶ基準は俺の好みになる。

 さてどちらがいいか……


「……よし、決めたぞ! こっちのレザーアーマーにする!!」


「こっちだな。ふん、中々見る目があるじゃねえか」


「えっ、こっちってなんかあんの?」


「大したことじゃねえから気にすんな。それじゃあサイズの調製をするからもう一度これを着てくれ」


「あいよ」


 そうして自分で選んだレザーアーマーを身に着ける。

 何度も脱いで着てを繰り返しただけあって、最初よりかは幾分かスムーズに着る事が出来るようになった。


 おやっさんは洋服の仕立て屋のようにあちこちのサイズを計ったりしながら少しづつ防具の調製を進めていく。


「――ああ。そう言えば聞いてなかったが、今日の予算はどれぐらいなんだ?」


「それ、選び終わった後に聞くのか……?」


「久しぶりの客だったら、うっかりしてたんだ。少しぐらい割引してやるからいよ」


「おっ、そりゃあ有難い! 他にも回復ポーションとか必要な道具も揃えなくちゃいけないからな! 一応予算としては――十万円で考えてるぜ!」


 冒険者になりたいと決めた日からコツコツ貯め続けてきた、俺のほぼ全財産!

 全部じゃないのは、他にも揃える必要がある道具などがあるから。それでも全体の九割以上をこの武器防具の予算に当てている。


 これだけあれば、一般的に良い装備は無理でも無難な装備ぐらいは揃えることが出来るだろう。

 そんな風に考えて少し自慢げにすら言った金額だったけど、おやっさんの反応は俺の想像とは全く異なるものだった。


「お、おい。装備を整えるの必要な予算はちゃんと調べてきたんだろうな……?」


 顔は見えないけど、何故か声を震わせながらそんなことを言い始めるおやっさん。


「ああ~、特に調べてないぜ? 大体これぐらいあれば足りるかなって思ってさ」


 すると作業を進めていたおやっさんの手が止まる。


「おやっさん? どうかしたか?」


「どうかしたか、だって……?」


「あ、あれ……?」


 何故かおやっさんから噴火する直前の火山のような気配を感じるんだけど。

 するとカッと目を見開いたおやっさんが噴火した。


「全然足らねぇよ、この馬鹿!? さっき選んだショートソードだけでも予算ギリギリの値段はするんだぞ!? それでどうやって武器と防具の両方を揃えるんだ!!」


「はぁ!? あの剣ってそんなに高かったのか!?」


「対して高くなんざねぇよ!! あれぐらいならむしろ適正価格よりも安いぐらいだ!!」


 そ、そんな……俺が苦労して貯めたほぼ全財産でも全く足りないなんて……


「ちなみに、一番安い装備で揃えようとしたら予算内でも足りる……?」


「無理だな。両方揃えようとするなら、どうしても予算はオーバーしちまう。現状の予算内だったら、どっちか片方を諦める他ねえ」


「ま、マジでか……」


 そういえば、思い返すと何度か両親や愛華に聞かれたことがあったな。冒険者活動の為の資金はちゃんと作ってあるのかって。

 その度に大丈夫って返事してたけど、全然大丈夫じゃないじゃん……

 むしろ何をもって大丈夫だと考えてたんだよ、あの時の俺……


「それで? どうする気なんだ?」


 本当にどうするか。


 予算内で買おうとするんだったら、どちらか片方しか買えない。

 だけど、予算を増やそうとしても現状がほぼ全財産なんだから難しい。となればやっぱり今ある中でやりくりするしかない。


 ……となれば、一先ずどっちか片方をかってまた資金を貯めるしかないか?


 買うとすれば、やっぱり武器だろうか。 

 武器ナシ、防具ナシのどっちも無茶だろうが、攻撃が通らない事にはモンスターを倒しようがない。

 モンスターが倒せなければ冒険者としても稼ぎも得る事が出来ない。


 だとすれば、やっぱり優先すべきは武器か――


「おめぇ、まさかどっちか片方無しでダンジョンに行こうなんて考えてねぇよな?」


「えっ!? そ、そんなことないが!?」


「なら、いいんだけどよ。モンスター相手じゃ人間なんて無力もいいところだ。だからこそ武器にも、防具にも身に着ける意味がある。どっちかを蔑ろにしてダンジョンに行こうとするなんて甘えが通る場所だと思うなよ」


 おやっさん、俺が防具ナシでダンジョンに行こうって考えてたのほぼ確信してるな。


 まあ、確かにその通りだから反論なんて出来ないんだけどな。

 というか桃木さんにもダンジョンで怪我をして帰ってくる人が多いって聞いたばっかりじゃん。

 きっとそういう人たちも、装備を適当にしてダンジョンに行った人が多いんだろう。


 でも……じゃあ、どうする?

 大元の予算をどうにかしない限り両方を揃えるなんて不可能だ。でも予算も動かしようがない以上、もう手詰まりとしか……


 俺がどうするか頭を抱えていると、そんな様子を見かねたのか、おやっさんが溜息を吐きつつある提案をする。


「仕方ねぇな……ちょっと待ってろ」


「……?」


 倉庫の奥のほうにある箱を開けると、その中から一本の武器を取り出して持ってくる。

 それは完全に『刀』であり、さっき選んだショートソードよりも形状は少し長い。


「コイツはちょっと訳アリの中古品でな。安心しろ整備はちゃんとしてあるからその点は心配いらねえ」


「お、おう。なるほどな……ちなみに訳アリって?」


「な~に、ちょっと持ち主が立て続けに不審死を遂げてるだけだ。気にすんな」


「――いやいやいやいや、無理だから!? それを気にするなって無理だから!! 立て続けって、絶対死んでるの一人とかじゃないよね!? もっと沢山いる感じだよね、今の言い方だと!!」


 こ、こいつ呪いの装備を持ってきやがった!?


「大丈夫だ。俺も徹底的に調べたがこの防具に呪いの類はかかっちゃいねえ。念のために解呪や浄化も試して貰ってるから猶更だ。だが由来が由来なもんだから店にも置けなくて不良在庫になってたんだが――これなら、その防具と合わせて十万でいいぜ」


「い、いや、おやっさん。確かにそれは有難いんだけど、その刀本当に大丈夫なのかよ……?」


「ふむ、切れ味について気にしてんなら無用な心配だ。こいつは斬れば斬るほどに切れ味を増していくようと――面白れぇ刀でな。しかもものすごく丈夫で、滅多な事でもないと刃こぼれすらしない代物だ」


「今アンタ『妖刀』って言おうとしたよな!?」


 性能が完全に妖刀のそれだもんっ!

 敵を斬るほどに切れ味が上がるって完全に妖刀の説明じゃねえかよ!!


「うるせえ! 元はと言えば値段の下調べを行ったお前が悪いんだろうが! どうするんだ、買うのか買わねえのか!? どっちにするんだ!!」


「――分かったよ! 買うよ! 買えばいいんだろ!!」


 こうして俺の初装備が決まった。


 推定リザード系の皮が使われている真っ赤なレザーアーマー。

 そして何人か呪い殺してるかもしれない妖刀。


 うん……どうしてこうなった?

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