健司の初装備【前】
妹の
しかし、その他にも俺が冒険者になる為にしなくちゃいけないことがある!
その為に俺は『ある場所』に向かっていた。
そこに向かって歩く間にも、俺は自分のスキルの活用法について考えていた。
「――あとはどこまで応用が利くかだよなぁ……魔力だって無限にある訳じゃないんだし。出来るならコスパの良い使い方をある程度固めた方が絶対にいい」
傍から見れば、独り言をブツブツと呟きながら歩き続ける危ない人だろうが、あくまで気にしない。
気にしないったら、気にしない。そんなことよりも今は、スキルについて考えないと。
とにかく、愛華との会話でヒントは掴んだ。
問題はこのスキルをどういう形で利用するか、だ。
例えば、さっき使ったみたいに自分に対して作用するタイプか。
それとも相手に食べさせることで何か、デバフのような効果を発揮する使い方か。
はたまた、食べさせるという概念から離れて武器とかトラップとかのような使い方をすべきなのか。
……効果がザックリとしている分、使い方の方向性という点で迷ってしまう。
それなら全部に使えばいいだろうって?
残念ながら俺はそこまで器用じゃないのだ。例えば最初から複数の使い方を想定していたとして、いざ本番の戦闘になったときそれを使い分け出来る気がしない。
だって、この場面だったらこれを使ってあの場面だったらそれを使ってって……そんなの戦闘中に考えられると思うか? 少なくとも俺は自信が無い。
まあ、ダンジョンを攻略していくんだったらいずれはそこも鍛えなくちゃいけないだろう。
でも今は、使い方を限定してスキルの習熟に努めた方が賢明だと判断した――愛華が。
うん、さすが愛華だな! 俺のことをよく理解している! よっ、自慢の妹様!
……はい。俺もお兄ちゃんとしてもうちょっと頑張る。
と、ともかくだ。俺が持っている唯一のスキルのことなんだから、それだけは自分で考えて答えを出さなくちゃいけない。
これに関してまで誰かを頼るようになったらおしまいだろう。他で色々頼ってしまってるんだからこれに関してだけは頑張りたい。
例えば自分に対して使う場合はどうだろうか?
主な使い方としてはデバフの逆、自分に対するバフをかけるようなお菓子を作って食べるって感じになるだろうな。
俺としてはこれが第一候補だなと思っていたりする。
次に相手にデバフを与えるパターン。
これは相手にお菓子を食べさせる必要がある。単純に投げつければいいんじゃなくて、口に放り込む必要が出てくる訳だ。
ちなみにこれを考えたとき真っ先に思い浮かんだのがポイズ◯クッキングなんだが……わざわざ毒にすることにちょっと抵抗感。
かなり難易度が上がる気がするが、これが第二候補。
そして、自分でも相手でもなく道具として使用するパターン。
俺の中ではこれが一番『無い』と思っている。だって考えてもみろ。
お菓子が武器や防具になるか? そもそも食べ物を食べる方法以外で使用するのが間違ってる。
という訳でこれは第三候補だ。
だから俺としては、メインでは自分に対するバフの役割として使っていければと考えている。
将来的には第二候補である相手へのデバフと組み合わせやすそうだと思ったのもあるけど。
さて、そこまで考えたところで自分に対するバフとは? という考えに行き当たる。
スキルとは面白いもので、感覚的にそれが出来そうかどうかが分かるのだ。
だから俺が使いこなせるかどうかはともかくとして、単純に使えるかどうかの判断ならその場ですぐに可能なのである。
筋力だったり、自分の基礎能力を増強するようなことだったら出来そうな気はする。
基礎ステータスが低い俺にとっては、この力を使うことが出来ればかなりの助けとなることが予想出来る。
他には……そうだなあ。
例えば――
そこまで考えたところで、いつの間にか目的地に到着していたことに気が付いた。
「――あれ? もう着いたのか。考え事してるとあっという間だったな」
辿り着いた目の前の建物が今日の目的地にして、冒険者活動に欠かせないものを揃える為の場所。
表に出ている看板には『鈴木冒険者専門店』と、簡単なイラストと共に描かれている。
ただし特に凝ったデザインをしているでもなく、何というか気持ち程度につけたような……良くいえば職人気質で無骨な感じか?
そのような外観のせいもあってなのか、休日である今日も客入りは殆ど無い。
というか全く無い。そもそも店の周辺には人っ子一人いない。
まあ立地が立地って問題もあるんだろうけどな。
大通りから外れて細い路地を通った先にあるのがこの鈴木冒険者専門店なのだ。
まず、見つけ難いという障害を乗り越えないと客は来ない。
「こんにちは~。おやっさんいるか~?」
店の中に入り声をかけると、返事は無かったが奥の方でガサゴソと人が動いたような気配がする。
そしてのっそりと出てきたのは、身長2mはありそうな大男だった。
「でけぇ声出すんじゃねえ。聞こえてるっての……」
低く野太い声は機嫌悪そうで、聞きなれない人であればどこぞの組の組長だとか言われることだろう。
しかも筋肉質な身体も相まって威圧感が半端ない。
あ、それとただでさえ目つきが悪いのにそれが細められていて余計に怖く見える。
「いや、絶対奥で寝てただろ? 今何時だと思ってるんだよ」
「あぁ? おめぇにそんなこと関係ねえだろう。どうせ客なんてこねえんだ。寝てようが起きてようが変わらねえよ」
「ほぉ~……そんなこと言ってもいいのか? 今言ったことそっくりそのまま
「あぁん!?……それは勘弁してくれ」
この人は見た目とは裏腹に自分の娘である菖蒲にこれっぽっちも頭が上がらない。だからちょっと名前を出せば、これこの通り。
「ったく……それで? 今日は何の用できたんだ?」
「ふふん! まずはこれを見てくれ!!」
俺はおやっさんに昨日発行したばかりの冒険者カードを見せつける。
「ほぅ、ようやくおめぇも冒険者になったか。早いもんだな。冒険者になるんだって粋がってた小さかったガキが、いっちょ前に冒険者になったか……」
「や、止めてくれよ!? そんな年寄臭いこと言うなんておやっさんらしくないぜ!?」
「誰がジジィだこの野郎!!……まあいい。それを持ってきたってことは用件は大体分かる。装備を揃えにきたんだろ?」
「……さすがおやっさん。察しがいいな」
そう、今日俺がここに来た目的は――自分の装備を揃えることだ。
ここ鈴木冒険者専門店には、その名の通り冒険者に必要な大体のものが揃っている。そう言うと雑貨店のようなイメージかもしれないが、そういう訳でもない。
おやっさんの本職はあくまで鍛冶屋である。他の道具類に関しては店内のスペースを埋めるために売っているんだとかなんとか……
ただ、おやっさんの目が確かなのもあり質や使い勝手のいいものが揃っているのも美点であり利点だと思う。
「おめえさん、メインにする武器は決めてあんのか?」
「それがさぁ、俺のステータス何が高いとか低いとか関係ないぐらいに酷いんだよ。それに加えてスキルも戦闘向きじゃ無いし。だから初心者――というか武術の経験が無い奴でも比較的扱いやすい武器ってあるか?」
「ふん、なるほどな。ちょっと待ってろ」
そう言い残すと、おやっさんは店の奥に引っ込んで何かをガチャガチャとする。
少しして、いくつかの武器が入った箱を持って戻って来た。
「まず大前提として、素人でもそれなりに扱える武器なんてもんは存在しねえ。んなもんあったら武術なんて意味がねえからな」
「ああ、まあそうだろうな……」
「だが、どの武器にも扱いやすさってのはある。持ってきたのはうちの店にある武器の中でもお前の注文通り、扱いやすいっていう点に特化してる武器だ」
「おぉ~……」
「近接武器ってのは基本的に『斬る・突く・叩く』のいずれかを選択することになる。健司、この中で一番使いやすいのはどれだと思う?」
その三つだったら、叩くだろ。
斬るのも突くのもそれなりの技術が必要そうな気がするし、その点叩くなら殴りつければいいだけだからシンプルな使い方が出来る。
「叩くだな!」
「まっ、そう思う奴が多いよな。だが残念、答えは斬るだ」
「えっ? 叩くって一番簡単そうじゃん?」
「確かに言う分には簡単だ。だが叩くことに特化した所謂打撃武器ってやつは、重量が重いのが多い。じゃないと斬るや突くと違ってまともなダメージにならないからな。そして重い武器ってのはそれだけで扱いが難しいんだ」
「言われてみれば……」
「突くに関しても一点を狙う武器だから、おめえが言った通りそれなりに技術がいる。だから正解は、斬るだ」
さすが、おやっさんだな。鍛冶屋をやっているだけあって武器に関してめちゃめちゃ詳しい。
やっぱり武器の相談におやっさんのところに来て正解だったぜ。
「だが一概に斬る武器といっても種類は沢山ある。ちなみに武器を振ったことはあるか?」
「ああ、一応あるぞ。冒険者登録のときに少しだけどな。えっと、多分サーベルってタイプの片手剣だったと思う」
「それを使ったときに何か感じたことはあったか?」
「う~ん……あのとき、スライムと戦ったんだよ。それで核を狙って斬ろうとしたんだけど、なかなか当たらなくてさ。俺が素人ってのもあるんだけど、狙いが付けにくいってのは感じたかも」
「なるほど。確かにそりゃあおめえが素人なせいが九割九分だろうな」
うぐっ、分かってはいたことだけどもっと武器の扱いとかも練習しておけばよかった……
「サーベルってのは長さはこれぐらいか?」
おやっさんが適当に手に取った剣を突き出して聞いてくる。
「大体そんなぐらいだったと思う。もしかすると、もう少し長かったかもしれないけど……悪いけどちょっと自信ない」
「かまわねえよ。だとしたらショートソードの方がいいか……」
するとおやっさんは箱の中から一本の剣を取り出す。
それは今さっき見せた剣よりも一回りぐらい小さく短い剣だった。だけどサーベルと同じように片刃の剣で、若干刀に見た目が似ているかもしれないと感じた。
「コイツは種類としてはショートソードになる。特別な性能とかは無いが、丈夫で長持ちな上に切れ味も落ちにくくなってる。ちょっとコイツを振ってみろ」
――手渡された剣を握ると、不思議としっくりくるような感覚があった。
桃木さんにサーベルを渡されたときとは、全く別の感覚だ。何というか、手に吸い付くような握っていることが自然と思えるというか。
――その感覚に身を任せるように軽く振ってみる。
「おっ!?」
「どうだ?」
「すげぇ……すげぇよ、おやっさん!! なんかしっくりくる!!」
「そうか。じゃあ次はこっちだ――」
その後、何度も剣を交換して軽く振るということを繰り返す。
最初に振ったショートソード、短剣、曲刀、刀、サーベル、もはや俺の知識では追い付かないような形状の剣などなど……
ただそのどれもが自分に合うような感覚があったのが面白かった。
「今ので最後だが……どの剣が一番しっくりきた? こればっかりはおめえの感覚に頼るしかないから感じたまんまを正直に言え」
「そうだな……やっぱり一番最初に振ったヤツかな。あれが凄い使いやすかった」
「よし。じゃあ武器は決まりだな。じゃあ次は防具選びに行くぞ」
「えっ!? そ、そんなあっさり決めるのかよ!?」
「なんだぁ? 自分で一番しっくりくるって言ったんじゃねえかよ」
「いや、そりゃそうなんだけどさ……?」
「だったら、ゴチャゴチャ言わずにそれに決めろ。ほら行くぞ」
こういう強引に決めるところも客が寄り付かない原因なんじゃないかと思ったり思わなかったり。
まあでもおやっさんの目利きなら心配いらないか。
きっとこの店で一番あの剣が俺にあってるんだろう。
うん、こういうのはプロの任せるの限るからな!
そんな訳で思ったよりもあっさり決まった武器選びを終えて、次に防具を選びにおやっさんに連れられて店の奥に入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます