【悲報】俺ステータスがクソ雑魚だった件について【中】

本来必要ないMPの表記が残ってしまっていたので、修正しました。

―――――――――――――――――――――――――


「安藤さんは自分のステータスの見方はご存知ですか?」


「えっ、あ、はい。一応知識としては……」


 あまりにもあっさりとしたステータスの取得に凹んでいる暇も無く……

 というか元々の目的は達成できたのだから、いつまでも落ち込んでいる場合じゃないか。


 という訳で、頑張って切り替えることにする。


 さて、桃木さんに言われた自分のステータスの確認方法だけどそんなに難しいものじゃない。

 何せ「ステータス、オープン」と口にすればいいだけなんだから。と言っても俺の身近な人に冒険者はいなかったから、実際見たことはないんだけど。あくまで知識として知っているだけだ。


「それでは、正常にステータスが付与されてるかご確認下さい。ああ、私は向うを向いていますので」


 他人のステータスは不用意に見ない、という冒険者間のマナー通りに桃木さんは俺に背を向ける。


「分かりました。それじゃあ『ステータス、オープン』」


 そう口にすると、俺の手元に半透明なスクリーンが現れた。イメージとしては空中投影された画面って感じ。もちろん映写機は無いけど。


 さて、もう色々と吹っ切れたからサクサク自分のステータスを確認していこうか。

 出来れば良いステータスが付与されていると良いんだけど、どうかなっと――


――――――――――――――――――――

名前:安藤 健司 レベル:0

攻撃:1

防御:1

敏捷:1

魔法:1

幸運:50

スキル:スイーツマジック

称号:甘党

――――――――――――――――――――


 ほうほう、これは……えっ? どうなの??


 付与されたばかりの初期ステータスではレベルが0になることは知っている。

 さらにステータスとは自分自身の力の増強ではなく、に近いらしい。

 これまでの冒険者の傾向から『1~10』の間だと一般人と同等の身体能力に含まれることが知られている。10になるとそれなりに鍛えている人と同レベルまで強化されるんだとか。


 そして、ステータス値が10を超えてくるといよいよ超人と呼ばれる領域に爪先を突っ込むことになる。そしてレベルアップを繰り返せば、10なんて数値あっという間に超えることが出来る。

 だからこそ冒険者という存在は冒険者以外の人間からを抱かれることになる。


 だってそうだろう? 幾度かのレベルアップを繰り返せば人間がどんなに鍛えても辿り着くことが出来ない力が手に入るんだから。


 でもさ……最初から全ステータス1って普通だっけ??


 あれ? 初期のステータス値がオール1になるなんて初めて聞いたんだけど??


 ……う~ん、悩んでもしょうがない。これは相談してみるしか、ないかな?


「あの~、桃木さん。ちょっといいですか?」


「あら、無事にステータスは確認できましたか?」


 桃木さんは向こうを向いた状態のまま返事をした。あくまで俺がこっちを向いて良いと言わない限り振り向かないつもりらしい。

 さすがギルド職員だけあってそこら辺は厳しく徹底されているんだろうな。


 ――とっ、今はそれよりもステータスの相談に乗ってくれるか聞いてみないと。


「ええ、まあ、はい。確認できたっちゃあ出来たんですけど――」


「……もしかして何かありましたか?」


「多分、説明するよりも見てもらった方が早いと思うんで俺のステータス見てもらってもいいですか?」


 本来であれば自分のステータスを他人に見せるような真似は冒険者として推奨されていない。

 何故ならステータスは冒険者としての自分の全てを表していると言っても過言ではないからだ。余程信頼しているパーティー内でも不用意に見せ合ったりはしない。


 俺の提案が想定外だったのか、桃木さんは眉間に皺を寄せて難しい顔になる。


「それは、よろしいのですか? 冒険者がステータスを相手に見せることの意味、安藤さんもご存知ですよね?」


「それは十分に分かってるつもりです。でも、その上でお願いします! 力を貸してくれませんか、桃木さん」


「……」


 ……まあ、そりゃあ困らせちゃうよな。


 会って一時間も経っていない人間が急にステータスを開示したいと言ってきたんだ。いくら俺の方からのお願いといえど、だ。


 だから俺は何も言わず、桃木さんの返答を待った。

 

 俺はあくまで頼み込む立場で、それを受けるかどうかは桃木さん次第だ。

 だからといって無理強いしようとは思っていない。それで桃木さんに負担をかけるのはダメだ。


 だったら最初から相談するなって話なんだけど……俺の周りにコレを相談できる人がいないんだよ。

 ひょっとすると俺のステータス普通がじゃないかもしれないし。

 ……それも悪い方に。


 だからギルド職員として、俺よりもずっと冒険者やステータスに詳しいだろう桃木さんの意見が聞きたいのだ。


 ――少しして、桃木さんは閉ざしていた口を開いた。


「何故、私にご自身のステータスを開示しようと思ったんですか?」


「それは、単純に俺のステータスについて相談にのってもらいたく「違います、そうではありません」――て……?」


 えっ、違うの? じゃあどういう意味?


「どうして私という他人に自分のステータスを開示しようと思ったのか、ということです」


「ああ、そんな事ですか」


「――いや、そんなことって。重要なことですよ?」


 まあ、確かにそうなんだろうけど……実際、ステータス開示に関連する注意みたいなのは耳にたこが出来るぐらい聞いてるし。


 でもなあ~……正直俺はあまり秘匿しようとは思ってない。必要とあればガンガン見せていく所存だ。

 もちろん誰にでもステータスを見せびらかそうとは思ってない。

 でも逆に絶対に秘匿しようっていう意識も無い。


「今回は俺自身が必要だと判断しました。隠して一人でうんうん悩むよりも桃木さんの意見が聞きたいって。それに――」


「それに……?」


「相手が桃木さんだからです」


「……はい?」


 いや、そんな何言ってるか分からないみたいな顔されても。


「だって登録の時もさっきも凄く親身になってくれましたし。本気で冒険者になろうとする俺を心配してくれたじゃないですか。人間を信用するのなんてそれで十分じゃないですか?」


 少なくとも、俺にとってはそうなんだけど。


「だから――って、あれ? どうしたんですか?」


 なんで増々理解できないみたいな顔に進化してんの?


 母さんが時々俺に向ける顔にそっくりだ。

 前に母さんにそれってどういう顔なのと聞いてみたら「あ~、清々しいバカを見た顔?」と答えていたのを思い出す。


 ……もしかして俺って桃木さんに馬鹿だと思われてる?


「はぁ~……なんか少しですけど、安藤さんのことが分かった気がします」


「は、はあ。それは良かった、です?」


「何もよくありません! 安藤さんはもっとしっかりしてください!!」


「はいっっっ!! すみませんっっっ!!」


 や、やっぱり馬鹿だと思われてるっぽい!? 

 はぁ、なんか今日は失敗ばかりしているような気がする。桃木さんが言ったようにもっとしっかりしないとなあ……


「まったく――分かりました。そのお話引き受けましょう」


「えっ? 今なんて……」


「ですから引き受けると言ったんです! 私、桃木桃香ももきももかが責任を持って安藤さんのステータスを確認させていただきます!」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」


「ただし!!」


「っ!?」


「今後、他の人にステータスを見せるときは私に報告してください! まあ安藤さんを信用しない訳じゃないですけど、私もその人に他意が無いか見極めますので!!」


 おおっ、それはむしろ願ったり叶ったりだ! 

 むしろこっちからお願いしたいところだぜ! 


「桃木さんが確認してくれるなら安心です! 是非ともよろしくお願いします!」


「だからそういう――はぁ~、もういいです。では早速ですが、安藤さんのステータスを確認します。『ステータス、リリース』と言ってください。それで安藤さんのステータスが安藤さん以外にも見えるようになるので」


「分かりました。『ステータス、リリース』」


「……はい。私の方でも視認出来るようになりました。では早速ですが拝見させていただきますね」


 自分では何か変化があったように見えなかったけど、ちゃんと桃木さんに見えるようになっていたらしい。

 横から覗き込むように俺のステータスを眺め始める。


 そして穴が開くほどじっくりとステータスを見て一言――


「これは……酷い」


「……やっぱり、俺のステータスって酷いですかね?」


「えっ!? あっ、いや、そんなことありませんよ!?」


 そんなに必死に誤魔化そうとしなくていいんだ、桃木さん。


 俺も薄々、何となくだけど「このステータスってヤバくね?」って思っていたところだから。

 だって数値が全部1なんだぜ? 1より下って0しかないんだぜ? 実質1が最小値みたいなもんだろう?


 ……まあ、小数点でもあれば別だけど。


「いいんです桃木さん。それよりも正直に言ってください――俺のステータスってどうですか?」


「……端的に申し上げると、ここまで『綺麗に』ステータスは初めて見ました」


「ちなみに1以下のステータスってありますか? 例えば0.1とか」


「いえ、その……ステータスに小数といった概念は存在しません。しかし、0というステータスは確認された事はあります! ですので決して最低値という訳ではありませんよ!」


 あっ、一応ステータス0って存在してたんだ。

 

 やったね! 俺よりも下がいたぞヒャッホイ!!……ってなるかーー!!?


「そうですね。一切の遠慮をせずに言うならば、現時点での安藤さんのステータスはあらゆる分野でほぼ最低値です。特に突出するものがある訳でもなく、逆に全ての水準が低い。まさに……。そう言っても過言ではないステータスです」


「っ……」


 正直な感想を求めたのは俺だけど、こうして実際に事実を突きつけられると――キッツイな。

 

 別に他の冒険者と比べて弱いというのは気にしていない。

 いや、全然気にしてないかと言われるとそうじゃ無いけど。俺が軽く絶望しているのはじゃないんだ。


 冒険者としての強さは、そのままその人が到達できる階層に比例する。


 つまり、強い冒険者であればより深い階層に潜る事が出来る。逆に言えば、弱い冒険者はそれ相応の階層までしか辿り着くことが出来ない。


 『ステータスによる補正が弱い』――たったそれだけの事で、俺の夢が断たれる可能性がある。


 そりゃあ軽く、どころか思いっきり目の前が真っ暗になる思いにもなる。

 そうか。俺のステータスはそこまでだったのか……


「安藤さん。まだ希望を捨てるには早いですよ」


 そんな俺に桃木さんが、まだ諦めるなと声をかける。

 俺はその声につられて顔を上げ視線を桃木さんに向けた。


「ステータスは成長します――レベルアップです。幸いにしてここはダンジョンの中、レベルアップの為の条件は揃っています」


 ……は? この人は何を言ってるんだ?


「待ってください! それってモンスターと戦闘するってことですよね!? 俺まだ装備すら持ってないんですよ!? そんな急にモンスターを倒してレベルを上げろって言われたって無茶ですよ!?」


「その点は安心してください。こういう場合の冒険者への配慮として、ギルド職員が最初のレベルアップをサポートすることが許可されています。それに装備も私の方から貸し出しますから」


「そうは言っても……」


 そんな風に躊躇する俺の背中を押すように桃木さんは続ける。


「レベルアップすれば、ステータスの成長、その方向性を確認する事が出来ます。これまでにも初期ステータスは低いけれど、成長幅がとんでもなく大きいステータスを持つ人だっていました」


「それはっ――」


「だから安藤さん。今ここでレベルを上げましょう!!!」


 そんな決まりというか制度があったなんて知らなかった。けど、きっと俺のステータスだと序盤に登場する弱いモンスターすら倒すのに苦労するかもしれない。

 だったら、桃木さんのサポートを受ける事が出来るこの機会を生かすべきじゃないか?

 

 そう考えれば俺の答えなんて一つに決まっていた。


「桃木さん……よろしくお願いします! 俺のレベル上げを手伝ってください

!!!」


「お任せ下さい。安藤さんにとって大切な第一歩、精一杯サポートさせていただきます」


 そんな頼もしい返事が返ってきた。

 そうして俺の人生初のレベルアップがこの場で行われることになった。

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