【悲報】俺ステータスがクソ雑魚だった件について【前】
健司のステータス開示にまで持って行けなかった為、サブタイトルを変更します。
混乱させてしまってごめんなさい!!
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冒険者にとって、ステータスは全てだ。
何故ならば取得するステータスによって今後の冒険者人生が大きく左右されることになるから。
しかし取得した瞬間に全て分かってしまう訳でもない。例えば伸びやすいステータスや、逆に伸びにくいステータスはその時になってみないと分からない。
ただそれも、初期ステータスの傾向からある程度は推測することは出来る。
よって、多くの冒険者に「これまでで最も緊張した瞬間は?」と聞いたとき、ステータス取得のときだったと答える冒険者は多いのだそうだ。
かくいう俺も緊張してるからな。
そしてステータスは、人間がダンジョンに足を踏み入れることで取得できる。
ただし、取得した時点で言えばその能力は一般人と大差ない。だって、ステータスを得ただけで誰でも超人になれる訳もないのだ。
例えばゲームの主人公だって、初期状態では最弱のモンスターにも苦戦するだろう? だが鍛えていけばラスボス魔王すらも倒せるようになる。
それと同じだ。要は鍛えなくちゃいけない。
ではステータスを鍛えるとはどういうことか?
それが『レベルアップ』である。
ダンジョンの中ではモンスターを倒すといわゆる経験値と言われるものが蓄積していく。もちろん目に見える形ではないので、本当のところは分からないけど。
ともかくその経験値が一定以上に溜まるとレベルアップが起きるのだ。
レベルが上がると、ステータス値が上昇する。
これにより冒険者は超人的な力を手に入れることが出来るのだ。
そしてこのステータスは、ダンジョンに踏み入った人間なら例外なく取得することが出来る。その点については一切心配していない。
だから不安がるとすれば……やはりステータスの中身だった。
個人のステータスは個人の冒険者としての才能を言い換えてもいい。普通は才能なんて目に見えないものだが、冒険者はステータスを通してそれを可視化出来る。
だがこの才能……傾向が掴めないのだ。
例えば走るのが得意な人物がステータスを手に入れたとしよう。しかし得意分野であるはずの速さに関するステータスが高くなかった。
あるいは、力自慢の筋肉モリモリマッチョマンがいたとして、その人ステータスの膂力に関するステータスの成長率が驚く程に低かったなどなど。
――ステータスの成長率が何に依存する者なのか?
――その傾向にはどういった法則が存在するのか?
それはダンジョン出現から20年以上たった現在でも分かっていない。ダンジョンに関する研究を行う人間たちの永遠のテーマともいえる問題なのだ。
これはスキルに関しても同じことが言える。どんな人がどんなスキルを初期スキルとして得ることが出来るのか。
それもまた不明であり、ほぼランダムと言えるのだ――言えてしまうのだ。
つまり……分かるだろ? 運ゲーの一発勝負。しかも結果は変えられない。
こんなの誰が冷静でいられるんだよ!? これからの俺の冒険者生命がこの後の一瞬で、しかも運で決まるんだぞ!?
本当にもう、このステータスというシステムを作った存在に会えるなら文句を言ってやりたいぐらいだ!!
「では安藤さんの案内は引き続き私が行います。あっ、申し遅れましたが私は『
「俺は、知ってると思いますけど
そんな挨拶を済ませてお姉さん――桃木さんの案内に従い、俺達はダンジョンに向かった。
ここ、新宿ダンジョンは都内に存在する唯一のダンジョンだ。
それ故に都内や関東に住む冒険者の多くはここに集まってくる。それは平日と言えども凄い人数だ。ダンジョンの周りにはライブイベントの帰りかってぐらい人が溢れかえっている。
平日なのにそんなに人が多いのかと思うかもしれないが、確かにひと昔前ならその通りだっただろう。
でも今は、ダンジョンから採れる素材を求めて民間、国営を問わず様々な企業が冒険者を派遣する時代だ。それに何処にも所属しない専業の冒険者も数多く存在している。
もちろん、だからと言って休日に人が減る訳じゃない。
休日は休日で学校のない学生や、週末だけダンジョンに潜る所謂『週末冒険者』と呼ばれる人たちもいる。
だから休日でも、やっぱりこれぐらいの混み具合は当たり前なのだ。
しかし、俺はそんなダンジョンへの入場待ちの彼らを横目にスルーして進んで行く。
冒険者登録時のダンジョン入場についてはギルド職員が出入りする専用通路を使うことが出来るのだ。
まあ、これっきりだけどね。大抵はさっきも言ったギルド職員の通路として。緊急時には救助隊や、重症人の出入りに使用される。
まあしかし……待たないで進むことが出来るのって、なんかいいよな?
テーマパークで優先チケットを買って長蛇の列をかっ飛ばしたときに近い感覚。
うん、気分だけでもVIPになったようだ。
「安藤さん……さっきからニヤニヤしてどうしたんですか?」
「えっ!? そ、そんなことありませんがっ!!?」
なんで俺はすぐに顔に出るんだよっ。この、この、締まりのない顔めっ!
ちょっとはポーカーフェイスをしやがれ! だからカードゲームの時はいつも『安パイ健司』なんて呼ばれるんだろうが!
「? まあいいですけど、着きましたよ。この扉の先に――ダンジョンがあります」
「っ……ここが」
なんか馬鹿なことを考えてしまっていたが、桃木さんの言葉を聞いてそんなの一気に吹き飛んだ。
目の前にあるのは人一人では開けるのにも苦労しそうな、大きな扉。大きさだけじゃなく重厚感を放つ金属で作られているのも、苦労しそうだと思った理由だ。
「ここから先が、ダンジョン」
ごくり、と唾を飲む。
この扉から一歩踏み出せば、俺はステータスを取得することになる。
それはつまり、俺の冒険者としての運命を決定付ける瞬間が目の前にやってきたということ。
心臓がバクバクバクバクと、口から出そうな勢いで高鳴っている。
「それでは扉を開けますので――少々お待ちを」
そう言うと桃木さんは扉の横に備え付けられたボタンを押し扉を開いた。
扉の隙間から、この世の物ではない空気が流れ込んできたように感じたのは俺の気のせいだろうか……
いや、この先に広がるのは正真正銘にこの世ならざる空間だ。人を襲うモンスターが潜み、入って来た人間を飲み込んでしまう
「この線よりも内側に踏み込めば、安藤さんはステータスを取得することが出来ます」
桃木さんの言葉の一つ一つが、頭に染みこんでいく。
「もし……引き返すならここが最後です。ステータスを取得してしまったら、もう後戻りは出来ません」
「そう、ですね」
「あまり言いたくありませんが……最近ではステータス欲しさだけに冒険者登録をしに来る人もいるんです。そしてそういった人に限って覚悟も出来ないままに魔物と戦い、命を落とします」
「っ!」
ギルド職員として、俺なんかよりもずっと深くダンジョンと関わって来た桃木さんの言葉はとても重く、圧力にも似た何かを伴っていた。
すると俺の緊張感を感じ取ったの、緊迫していた空気を弛緩させるように「すみません」と苦笑しながらに言葉を続けた。
「少し脅かし過ぎましたね。近年では救助隊の運用もスムーズになり、死者に関しては確かに減っています。重症すら回復スキルを使える方に頼めば例えば腕の再生ぐらい可能です」
「それは、聞いた事があります」
「……ですが、そうなった人間はそのほとんどが冒険者を辞めてしまうんです。ですから確かに死者は減っていますが、その代わりに冒険者を引退する人が増えただけなんです」
「……」
「分かりますよね? 一度刻まれた恐怖はそう簡単には癒せません。方法はただ一つ時間の経過だけ。暫くは日常生活にすら支障が出る人だっています」
PTSD、いわゆる『トラウマ』ってやつだ。
冒険者を引退する、なんて言うと聞こえはいいがその実態は桃木さんの言ったような心に傷を負って続けられなくなったということ。
そう、続けないのではなく続けられなくなったである。
それほどまでにダンジョンという場所は、そしてモンスターとの戦闘は心をすり減らすのだ。
もちろん前向きな理由で引退する人がいない訳じゃないだろう。でもそれを踏まえても尚、心に傷を負って引退する冒険者が多いというだけで。
きっと桃木さんはそんな冒険者を数多く見てきたんだと思う。
そして冒険者を増やしたいというギルド職員の立場でありながら、俺に最後の逃げ道を作ってくれているのだ。
うん、この人は優しいんだということがしっかりと伝わってくる。
俺を侮ってこんな発言をしているんじゃないということも、分かっている。
「だからもし、覚悟が定まっていないのであれば「大丈夫です」――えっ?」
――だから俺は、桃木さんの言葉を遮ってはっきりと言葉を紡いだ。
自分でも少しだけ声が低くなってしまっているのが分かる。
きっと俺は怒っているんだと思う。
もちろんそれは桃木さんに対して、では無い。敢えていうなら、その程度の覚悟も出来ていないと思わせてしまった俺自身に対してだろうか。
「心配してくれてありがとうございます、桃木さん。でも俺はそんな甘い気持ちで冒険者になりに来たんじゃないです。自分の……俺の人生の全てを賭けてもいいという覚悟を持って今日、ここに来ました」
確かに切っ掛けは好奇心。面白そうだと思った程度だった。
でも今となって、冒険者になる事は俺の人生における欠かせないピースになっているんだ。それだけは断言することが出来る。
「他の人がどうかは知らない。でも俺の目指すところはさっき桃木さんに言った通りです――本当の意味でダンジョンを攻略する。最奥まで辿り着き、ダンジョンを完全踏破する。その為に冒険者になりに来ました!!」
まだ冒険者になったばかりのペーペーが言っていい言葉じゃないんだろうな、なんてことを思いつつも。
俺は、俺の覚悟を言葉にせずにはいられなかった。
……ちょっと生意気過ぎたか?
俺の覚悟を聞いた桃木さんは驚いたように瞠目した後、ゆっくりと目を伏せてなんと頭を下げたのだ。
「……ギルド職員として失格なことを申しました。安藤さんの覚悟を侮辱するようなことを言ってしまったことを深く謝罪します」
桃木さんは腰を90度に曲げて俺に謝罪した。
「そ、そんなよして下さい! 馬鹿にする意図が無かったのは分かってますから! だからそんな謝罪なんてっ――!!」
「いえ、これは安藤さんの覚悟を計りきれなかった未熟な私が悪いのです。最近、冒険者登録に来た人に本当にそういう人が多かったものですから……いえ、これも言い訳ですね」
「と、とにかく頭を上げてください! 自分で言うのもあれですけど、ちょっと生意気なこと言ったなと思いましたし!? だからもう頭を上げてくださいって!!」
こんなに丁寧に人に謝られたことなんて無いからどう対応して良いか分からないんだよ!?
な、なんだどうすればいい? こういう時は場を和ませるためにギャグでも言えばいいのか?
よ、よし……こうなったら俺の渾身の一発ギャグで……
「も、桃木さんちょっと見て「安藤さんの覚悟受け取りました。では、サクッと入ってステータスを取得してしまいましょう! こんな所でモタモタしていられません!」――へっ?」
「安藤さんなら例えどんなステータスを取得しようとも、その覚悟が揺らぐことはないと私は思いました。ですからこんな瑣末ごと、さっさと済ませてしまいましょう!」
「えっ、瑣末ってステータス取得は冒険者の一大イベントで――」
「それじゃあ行きましょう!!」
「あっ――」
桃木さんに腕を引っ張られた俺は、さもあっさりとダンジョンに足を踏み入れてしまった。
【人類種のダンジョンへの入場を確認。ステータス未取得の人類種の存在を確認しました。対象にステータスの付与と、初期スキルの付与を行います】
そして聞こえてくる謎の声。
「えっ、うそ……」
【ステータス、並びに初期スキルの付与を完了しました】
「……」
「どうですか、安藤さん。ステータスと初期スキルは獲得できましたか?」
なんて言えばいいんだろう……嬉しいんだけど、悲しい……
頬を伝っている涙が歓喜の涙なのか、悲しみの涙なのか分からないけど、俺は静かに泣いていた。
「無事に獲得出来たようですね。それでは続けてステータスを確認してみましょう!」
「はい~~……」
俺の運命の瞬間。ステータスの取得は、覚悟もくそもなく。
腕を引っ張られてダンジョンに入り、獲得しました。
……ついでに俺渾身の一発ギャグの出番も無かったです。
ねぇ、俺泣いていいよね……?
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