第10話 公園の変質者

 それから一年が過ぎた。


私は5歳になったので、託児所から保育園に替った。


意識は半径10mまで飛ばせた。


右隣の彼女は変わらずコンビニでバイトをしていた。


大学生の彼氏は大分前にバイトは止めていたが、交際は潔い形で続いていた。


母親と息子も変わらなかったが、息子の悲しみが少し大きくなった気がした。


左隣の若者も除序に欲を取り戻して来た。


彼女の体が純潔な事は状況を分析して分かっていたようだ。


家族の会話からも彼氏の真面目ぶりが伝わって来て、その点は安心しているようだった。


私の家は相変わらずだが、父親の和夫が一週間に一度は祖父の会社に顔を出すようになった。少し欲が出て来たようだった。


日曜日の10時頃、私はスコップとふるいが入っている黄色い玩具のバケツを持たされて玄関に立っていた。


トントンとドアを叩く音がしてドアが開き、隣の彼女が覗いてきた。


「おばさん、今から連れて行くから」


「ああ、お願いします」と母の声が居間から聞こえた。


「さあ、行こう」と私の手を引き公園に向かった。


もう何回目か? 月に一度はこの時間に遊んで貰っている。


公園はアパートから南へ道を挟んですぐ近くにあった。


広い砂場があり私の体はそこで遊ぶのが好きだった。


休日の公園には大勢の人がいた。


砂場で遊ぶ子供と親、遊具も沢山あり、遊具に群がる子供達、そして芝生が張ってある広い処があり、軽いスポーツをしたり、寝転んだりしていた。


私は真っすぐに砂場に向かった。


「琢魔ちゃん、気を付けてね」と後から彼女の声がした。


彼女は近くのベンチに座り持ってきた本を読み始めた。


私は砂場に座り込み、バケツの上にふるいを置き、スコップで砂をすくい入れて、揺らして残った石とかゴミを捨てていた。


何が面白いのか? 夢中になっているが、私には分からなかった。


バケツが一杯になると、ふるった砂を握り団子にして並べていた。


(おっと、何処からか上質の性欲を感じる。ん、なんだ?)


目の前に大きな顔があった。


卵のような形で、目は細くて吊り上がっていて鼻が大きかった。


40歳位のおじさんが私の前に座っていた。


急におじさんが下を向いた。


薄い頭で後頭部が禿げていた。


おじさんは私のおまたを覗いている。


お母さんからおまたを開いていると、知らないおじさんに持って行かれると聞いた。急いでおまたを閉じた。


おじさんは顔を上げて聞いてきた。


「お嬢ちゃん、誰と来た?」


「お姉ちゃん」


「お姉ちゃんは何処にいる?」


「あそこ」と指をさしたが彼女はいなかった。トイレに行ったようだ。


「あれ、いないね? お菓子は何が好き?」


「ケーキ!」とひと際大きい声で私の体が答えた。


「家にはケーキがたくさんあるから行こうか」


「うん」


(まだまだ欲が大きくなる、もう少し待とう)


変なところを触って来た! 


そして私の手を握り「さあ、行こうね」と立ち上がった。


私は連れられて歩き始めた時、トイレから戻って来た彼女がそれを見て焦って近寄って来た。


(今だ!)と私はおじさんの欲を抜いた。


おじさんは私の手を離しその場に呆然と立っていた。


「この子を何処に連れて行こうとしたのですか?」


彼女は私を後に隠して問い詰めた。


「うるさい!」とおじさんは彼女を突き飛ばし、彼女は仰向けに倒れた。


「このおじさん、変なとこ触った」と私の体は言った。


それを聞いた彼女は益々怒り「この人は変質者です。皆さん捕まえて下さい」その言葉でおじさんの顔が凄い形相になり、ポケットから折り畳みナイフを出した。


(あれ、おじさんの後に何かいる? それに丸い緑の球体が幾つも薄く見える。あれはトスポの家来達だ。誰かのライフを取りにきている? 誰だ? おじさんか? いや今の状況だと彼女だ。まだ彼女には生きていてもらわないと困る)


時間を止め戦闘形体に変身した。


「私です。オルゴン様」


「おー 魔女のマイナか」


「随分と可愛くなりましたね」


「それを言うな! で、おじさんを操っていたのはお前か?」


「はいそうです。ライオキシン様のライフの為にとトスポに頼まれたのですが、殺す相手が純粋な女の子で私は気のりしませんでした」


「そうか、悪いがこの場は取合えず引き揚げてくれ、でトスポの家来は大丈夫かな?」


「分かりましたが、状況の結末を確認してから引き揚げます。家来はただライフを持って行くか、捜すかが仕事で戦う能力はありません」


私は戦闘形体と時を解除した。


目の前のおじさんの怒りを抜いた。


おじさんは手からナイフを落とした。


その時おじさんに黒い物体が張り着いた。


(しまった! うっかりしていた。おじさんの欲で左隣の若者の気配が消されていて感じていなかった。せっかく育てて来たのに台無しだ!)


若者はおじさんから離れた。


おじさんの腹にナイフが刺さっていてその場に倒れた。


「キャー」と悲鳴が響きわたった。


(若者は私達の後を付けていた。その気配を感じないとはまだまだ未熟だった)


暫くして救急車が来ておじさんを連れて行ったが、トスポの家来達が

付き纏っていた。


パトカーが何台もサイレンを鳴らし集まって来た、警官達が降りて来て現場を

封鎖した。


母が血相を変えて来たが、私と彼女の無事を確認してその場に座り込んだ。


「おばさん、こんな事になってすみません」


「良いのよ、○○ちゃんは悪くないから、でも二人共無事で良かった」


私と母は事件と関わりが無さそうなのでアパートに帰して貰った。


若者は逮捕され、彼女は参考人として警察に連れて行かれた。


彼女は状況を聞かれた。


「おじさんと子供の会話は聞いていましたか?」


「聞こえていませんでしたが、ケーキと琢魔ちゃんが言ったのは遠くでも

聞こえました」


「やはり、おじさんが子供を誘う常套手段で、前もケーキだった」


「えっ、前にも同じことが?」


「あのおじさんは幼い子供相手の変質者で前が何回もある。危害を加えないので軽い刑で直ぐ刑務所から出てくるが、今回ナイフを持っていた事と、貴方を突き飛ばしたのも意外だった。本当にナイフを構えましたか?」


「はい、構えましたが直ぐ落しました」


「そうですか? あと刺した若者とは面識はありましたか?」


「いえ、見たことはありません」


若者がいくら思っても彼女の記憶に若者はいなかった。


おじさんは病院で亡くなった。


トスポの家来はライフを持って消えた。


若者は「誰でも良いから殺して見たかった」と無差別殺人を主張したが警察がアパートを調べた時、彼女のストーカーで彼女を守るためと分かった。


後に裁判で情状酌量になり懲役十五年となった。


若者の父親は辞表を出し官僚を辞めてビルから飛び降り自殺した。


姉も政治家の息子より離縁された。


暫くして警察の調べも終わり、母親と姉がアパートの部屋の片付けに来た。


かなりの怒り、恨みがあると思い意識を飛ばした。


姉は父の言うままに嫁に行ったが、相手の人格とか家柄に合わなく

悶々としていたらしい。


弟が事件を起こし、父親が自殺して、自分の意思で自由に生きることに気が付いた。


母親も同じだった。恨み、怒りなどなく、束縛から解放されて生き生きしていた。


二人共純粋な欲と言われる希望があった。


その希望と言う欲は私にはマイナスになるものだった。

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