第11話 小学校入学と欲の巣窟

 事件から二年が過ぎた。


私はこのアパートで変わらない日々を過ごしていた。


変わった事は和夫がパチンコを控えて祖父の会社に通い始めたことだった。


右隣の家族は引っ越して行った。


彼女はもうすぐ高校卒業で就職先も決まり、2Kでは手狭になった為だった。


私も意識を飛ばせる範囲が半径100mになったが、怒りとか欲とかは有象無象あり集中出来なく、自分の廻りだけに限定した。


私は500m位先の小学校に入学した。


入学式には母親だけ出席した。


私は暫く6年生のお姉ちゃんと登校をしていた。


学校に行く途中に欲の巣窟のような処があった。


その前に行くとお姉ちゃんは私の手を引きそこから走るように離れた。


3階建てのビルで一階が駐車場だった。


右端が階段で駐車場の入口の上に大きな看板があり。


金色で○○会と書いてあった。


たまに若い男の人が階段の前を掃除していた。


ある時、その若者と目が合い「琢魔ちゃん!」と呼ばれた。


暫く見つめていたが、誰だか分からなかった。


お姉ちゃんが急いで私を連れていったので確認できなかった。


授業が終わり一人で帰って来た時に、巣窟の手前で立ち止り意識を飛ばした。


2階の事務所の奥で若者は洗い物をしていた。


十代の若者で顔を見て面影で気が付いた。


右隣にいた彼女の弟だった。


彼の意識に入ろう。やはり前に感じた悲しみは苛めによるものだった。


中学一年から苛めにあっている。


要因は貧乏で、最初は父親が轢き逃げされた可哀そうな家族だと同情されていたが、母親と姉が働かないと生活できない貧乏人とからかわれ、孤独死した老人の部屋を半額で借りたことが拍車を掛けた。


3年生になった頃から学校には行かなくなった。


7時近くまで母も姉も帰って来なく、街をぶらぶらしていた。


巣窟も高齢化して、人出不足になっていた。


必死で若者を捜していたが、見つけることは出来なかった。


弟と○○会の出会いは必然だった。


あれ? 黄色い球体が幾つも薄く見えていた。


事務所にいる他の人間に纏わり付いていて溢れ出る見栄と欲を収集している。


確かあれは魔人シップの家来達だ。見栄、優越感などを集めているが。今回はライフが目的だろう? ライフが取りやすい環境だから、何かありそうだな。


よし意識の範囲を狭くして弟に意識の糸を付けよう、何時までも大きいランドセルを背負い、黄色い帽子を被って此処にはいられない。


「おーい、○○、会長が戻って来たからお茶を用意しろ」

兄貴分に命令され弟は「はい!」とお茶をもってきたが、少し零してしまった。


「こら! なにをやっているのだ!」


「まあまあ、そんなに怒るな、貴重な人材だ、逃げられたら困る」


「へい、これから気をつけろよ」


「はい、すみません」と弟は奥にさがった。


「さっき○○組の頭と話したが、最近○○商事に人が入った。武闘派で関西から流れて来たらしい。ついこの前に○○組の縄張りの飲み屋街に現れ難癖を付けたらしい。気を付けろと言われた」


「今日、うちの島の集金に小頭と行くので様子を見てみます」


「頼むぞ、それから何時も二人だが、今日は用心のためもう1人連れて行け」


「では○○を連れて行きます」


「大丈夫か? まだ入ったばかりで」


「早く、色々経験させた方が良いと思います」


「分かった、気をつけろよ」


「おーい、○○、今日の夜、集金に行くから付いて来い」


「わかりました」弟は不安になった。


気が弱くこの世界には向いていなかったが、優しくされて、期待されて入ってしまった。

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