第9話 引越して来た家族

 相変わらず和夫は同じ生活を繰り返していた。


時々中年のおばさんを連れてくるので、おばさんの性欲は溜まっていた。


トントンと玄関のドアを叩く音がして、好奇心が強い私の体が玄関に向かうと、母が私の横をすり抜けドアを開けた。


そこには中年の女性と女子高生と少年が立っていた。


女性が「今度隣に引っ越して来た○○です。宜しくお願いします」と言い挨拶代わりのタオルを差し出した。


母は受け取りながら「こちらこそ、宜しくお願いします」と答えた。


すると女子高生が玄関の中に入って来て私の前に座り込み、顔を覗き「可愛い!」と言って頭を撫ぜた。


(自分こそ可愛らしい顔をしているのに? それにこの子には恨み、妬み、欲が無い、珍しいほど純粋な子だ。でも何処かで見た事がある? 何処だ? あっ、左隣の若者の意識の中だ! 狙われている女の子だ。何故引っ越して来た? そうか生活が苦しいので半額の家賃を選んだのだ)


「○○ちゃん、勝手に入っては迷惑ですよ」


「良いですよ、可愛い娘さんですね」の会話が聞こえた。


これで右隣にも意識が飛ばせるが、余り魔気が取れそうもないけど。ちょっと様子を見に行こう。


このアパートは2Kだから、部屋が二つしかない、1つは居間として使っていて、そこにおばさんは寝るらしい、もう1つの部屋に2段ベッドが置いてあり、机が二つ並んであった。あれ! ガス警報機の二又コンセントを持ってきている。



 「だだいま!」隣の彼女が帰って来た。


「あれ、今日は早いね」


「店長が賞味期限の切れたお弁当があるから持って帰れと、それで30分早く帰して貰った」


「丁度良かった。今から支度をしようとしていたから、○○ちゃんお腹すいたでしょう」


「うん、腹減った!」弟が食堂の椅子に座って待ちきれないように答えた。


「でも優しい店長さんだね、独身? 何歳位?」


「独身だよ、確か来年30歳になっちゃうとおどけていたよ」


「残念、私が後十年若かったらチャンスがあったのに」


「嫌だ、何を言っているの、お母さん!」


「他に社員の人は居ないの?」


「あー いるよ、私と同じでバイトの大学生が」

ちょっとテンション下がり気味に答えた。


「何処の大学?」


「私立の○○大学と言っていた」


「へえー 名門のお金持ちしか行けない学校でしょう? お金に不自由してないのに?」


「お金じゃなくて色々経験をしたいらしい」


「お前、そんなことまで話し合っているの?」


「違う! 暇になった時に偶々話しただけ」と関わりを否定した。


家族団欒で結構だが、おばさんに少しのお金の欲と性欲があるだけで、息子は欲が何もなかった。が少し悲しみがある。


でも私の範疇でない。おっと、左隣から凄い怒りと欲を感じる。そうかこの会話を盗聴していたか?

 

部屋の中で彼女の情報が分かるようになり、益々理想の展開になって来た。


一カ月位過ぎた頃、娘が嬉しそうにバイトから帰って来た。


「嬉しそうだけど、何かあったの?」


「彼から、付き合って下さいといわれた」


「彼って、例の大学生?」


「そう」


「でも、あんたはまだ16歳でしょう。それに相手は金持の子でしょう。将来結婚となると家柄とかで反対されるよ」


「違うの、友達みたいなものから始めるの」


「そう、分かった。でも軽率なことはしないで」


「軽率なことって?」


「男女の関係、せめて高校を卒業するまでは大事にして」


「分かっている、彼も真面目だから」


そうか彼氏が出来たか? よし凄い修羅場が期待できそう。


やはり、左隣から凄い怒りが伝わって来る。意識を飛ばそう。


(くそー バイトなんかに行くから他の男に取られた! 何故あんな男が良いのか? 分からない? まだ彼女の体は純潔だ、他の男に触らせたくない。如何しよう、如何しよう、如何しよう・・・・・・彼女を純潔のまま私の記憶に永遠に残すしかない・・・・死んで貰うしかない)


凄い怒りが伝わって来た。とうとう来たか! 寸前まで待てば凄いだろう。で何時だ? 


(何時やろう? 何時やろう? 何時やろう? 早くやらないと心がもたない、そうだ! 明日はバイトが休みで16時半頃帰って来るその時に・・・・)


そうか、明日か、側に待機しなければ魔気は取れない、如何しよう? そうだ!


次の日の16時頃、私は買って貰ったばかりの三輪車を玄関から外廊下に出そうとしていた。


「琢魔ちゃん、託児所から帰ったばかりでしょ? まだ遊び足りないの?」


「うん、ちょっとだけ」と答えると、母は三輪車を廊下に出してくれた。


私はそれに乗りながら様子を見ていた。


おじさんとおばさんが一人ずつ私の横をすり抜けた。


普通なら邪魔で嫌な顔をされるが私が可愛いので、ニコっと笑い頭を撫ぜて行った。


鉄骨の階段を上る音がして制服の彼女が見えた。


三輪車に乗っている私を見つけると、嬉しそうに駆けて来た。


するとドアが開き黒い服の男が出て来た。


体つきは細く父親の和夫と変わらなかった。


手にはナイフが光っていた。


彼女は私の前に座り「今度、お姉ちゃんと公園に行こうね」と話した。


その後に凄い形相の若者がナイフを振り上げている。


「うん」を答え、若者から欲を引き抜こうとした時、「待て、オルゴン!」と聞こえた。取合えず時間を止めた。


その方向を見ると魔人トスポが浮いていた。


緑色の丸い体をして、手には剣と盾を持っていた。


「呼び捨てとはいい度胸だ、トスポ! それに待てと命令したな何故だ!」


「オルゴン! お前なんか怖くない、素に少しの欲を纏っただけだ! 彼女のライフを貰いに来た。彼女のライフは貴重で2000はある」


「そうはさせない! 彼女を出汁にこの男からまだまだ欲をとる積りだ」


「ええーい、うるさい、倒してやる!」向かって来たので戦闘形体に変身した。


「アハハハー なんだ、その細い体の女の子は、鎧とマントだけは黒くて魔王だが、もう消えな!」


言われて腕と足を見たが言う通りだったが、宿主が女の子でその人間の最上形体状態となるので高校生か? 消える訳には行かない。


手には剣と楯を持っていて構えた。


「覚悟しろ、女子高生もどき!」と投剣をして来た。


最初の一本は剣で落ちしたが、次の3本は盾で受けた。


「うっ」「うっ」「うっ」と投剣から声がして、盾からは「あっ」「あっ」「あっ」と声が聞こえ投剣は吸い込まれた。


盾はおばさんの性欲で出来ていて、投剣は初老のおじさんの溢れる性欲で出来ていたので全て吸い込んだ。


私は空中高く舞い上がり、トスポめがけて剣を振り下ろした。


トスポはそれを盾で受けた。


カキーン、カキーンと何回も叩きつけた。盾は半分に割れた。


おじさんの性欲の盾ではおじさんの生きる欲の剣には敵わなかった。


「くそー」と叫んでトスポは消えた。


私は戦闘形体と時を解除した。


そして若者の欲を引き抜いた。(かなり上質だ、いいぞ、いいぞ!)


カシャンとナイフを落とす音がした。彼女が振り返ると、黒い服を着た男が呆然として立ち尽くしていた。


彼女は驚いて咄嗟に私を守るように抱きしめた。


髪の毛が私の顔に纏わりつき、シャンプーの良い臭いがした。


私は事が大きくならないように彼女の恐怖心も抜いた。


その時には若者はナイフを拾い部屋に戻っていた。


彼女は立ち上がり私の頭を撫ぜて部屋に入った。

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