第5話 おじさんの希望
「ゼノン様、魔の国の門を仮設で閉めてあるが、大丈夫かな? と中神のシュリエ様が心配していましたが?」と紫髪の小神は伝えた。
「大丈夫だ、魔王の素一個で封印してある。ただ、魔王オルゴンの素があれば2か所が埋まり完璧だったが?」
「中神のシュリエ様の話では魔の国の中から不穏な気配がするそうです。魔王ライオキシンが復活すると魔の住人が騒いでいるようです」
「ライオキシンも捕まえたが、オルゴンと同じ様に素には逃げられた。素は魔の国にあるのだな?」
「はいそうです」
「では心配ない、ライオキシンの皮はライフだ、魔の国には人間がいない。死んだ人間の命つまり、ライフを纏うことは出来ない」
「シュリエ様の話ではライオキシンの部下の魔人、魔女が人間界でライフを集めているそうです」
「そうか、部下は取り逃がしたからな、魔気センサーで見つけて調査隊を出そう」
「魔人、魔女は邪教師セイニチの教区に潜んでいるので今は無理です。ただライフが1万を超えればセンサーに反応します」
「ライオキシンが私と対等に戦うのにライフは幾つ必要か?」
「今のゼノン様は体力が落ちているので5万ライフで十分だと思います」
「ライオキシンの最終目的は神の国か?」
「そうです。神に替って人間界を支配することです。そしてライフを自由に収集します」
「神の国も昔に比べると弱くなった。いま大神は外回りの私と、内回りのポリリップしかいない。困ったものだ」
「それから、オルゴンの部下の魔女のシカーナがセイニチの教区に潜んでいると情報がありましたが?」
「それも心配ないだろう。彼女は悲しみだけを収集している。私は最初から魔女に指定するのには反対した。オルゴンと接触しても問題ないだろう」
土曜日の夜、おじさんが珍しく遅く帰って来た。
明日休みだから何処かで飲んで来ただろう。
おじさんは建築の内装工事の手元をしていた。
薄い金属の骨組みやボードを運び、切屑を片付けるのが主な仕事だった。
朝晩、意識を飛ばしていたが、朝は生きていても意味がないので死にたいなどと悲壮感が漂っていた。
晩はそれでも、食事とか好きなテレビ番組が見られたので悲観的なものはなかった。
それに母が時々調理したものを持っていくのでその時は嬉しそうだった。
今日は悲壮感が酷いので、意識の中に入った。
内装会社の仕事が薄くなり、人員整理のためおじさんが解雇になり、今日は最後の日で送別会を兼ねて飲んで来たらしい。
(死にたくない、金が欲しい欲はまだ小さい、もう少し育つのを待とう)
誰かいる気配を感じる。
「誰、何処から意識を送っているの?」と聞こえて来た。
(聞いた声だ、シカーナだ)
「俺だ、オルゴンだ」
「オルゴン様! 無事だったのですね」
「無事じゃない、体は拘束されたが、運よく素だけは此処に落した。何故此処にいる?」
「強い悲壮感を感じたので惹きつけられてきました」
「私とゼノンが戦っている時に魔の国に逃げたと思ったが?」
「魔の国はゼノンにより仮設ですが封鎖されていました。そこでこの教区に来ました」
「それで、おじさんの悲壮感を取りに来たのか?」
「オルゴン様が欲の皮を取るなら私は遠慮します」
「良いよ、おじさんの欲は小さすぎるから」
「そうですか? おじさんの悲壮感はかなり大きいです。では遠慮なく頂きます」とおじさんから悲壮感を抜き気配を消した。
おじさんは顔色が良くなり、動きも活気が出て来たようだった。
浴室へ行ってシャワーを浴びた。
着替えて寝るのかと思ったが、スラックスとシャツに着替えていた。
まだ十一時だから又飲みに行くのか? すっかり元気になった。
悲壮感を抜くだけでこんなにも変わるのか?
おじさんは台所に行ってパックを持った。そして玄関を出て行った。
トントンと玄関のドアを叩く音がして、母がドアを開けるとおじさんが立っていた。
「何時もすみません。美味しかったです。パックをお返しします」
「返さなくてもいいのに」と言いながら母はパックを受け取った。
「ちょっと、お話したい事がありますが良いですか?」
「良いですよ、どうぞ」と母はおじさんを居間にあげた。
そして、隅にある布団で寝ている私を覗いて「可愛いですね。奥さんに似ているのかな?」と言って座った。
(おおー 欲が大きくなっているぞ)
母が座るとおじさんは話し始めた。
「奥さんには何時も良くして貰って感謝しています。いつも見ていますが、今の奥さんは幸せそうに見えない」
「えっ、今の生活で幸せです」
「いや嘘です! 何時も帰って来ると旦那さんが化粧の濃い中年女性と出掛ける処を見ています」
「あの人は麻雀仲間ですから」
「旦那さんは昼間からパチンコをしていて働いていない。奥さんのパートのお金だけでは大変でしょう」
母は和夫の家柄、自分の家柄、自分の辛い生い立ちと、和夫の両親に良く思われていない事、籍も入れて無い事を話した。
その話を聞いたおじさんは「旦那さんと別れて私と暮らして下さい。歳ですけれど頑張ります」
「でも・・・・」と母の断われない性格が拍車を掛けた。
おじさんは酒の勢いもあり、母に抱きついて行った。
「止めて下さい」と小さい声で抵抗していた。
(よし、欲が大きくなっているもう少しだ)
「奥さん、愛している」と言いながら母のスカートに手も掛けた時に欲を抜いた。
(よし、しっかり大きくなっていた)
仰向けになって拒んでいる母からおじさんは体を離し立ち上がり、一瞬呆然として、状況を把握して「すみません!」と言い玄関から飛び出していった。
それ以来、母は気不味いのか? おじさんには調理したものは届けなくなった。
私もおじさんの欲には期待が持てなく、暫くの間意識はおじさんには飛ばさなくなった。
それよりも上質の欲が左隣の部屋から感じられ意識はそちらに集中した。
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