第4話 幼児期

そんな事を繰り返しながら3年たった。


その間、魔気は多少貯まったが、目標には程遠かった。


おばさんの性欲の皮が多く、戦闘の武器には向いていなかった。

とその時は思っていた。


和夫は相変わらず同じ生活をしていた。


その頃になると、私は歩きまわり、言葉も喋れて、オムツも取れたので母はパートに出る事を考え、私を連れて託児所に面接に行った。


目の前に責任者のおばさんが座った。


母は書類を提出して、それを見ながらおばさんは「可愛い子ですね。お母さんにそっくりですね。琢魔ちゃん、三才で女の子ですね」と話した。


(なにい! 女の子だと! 今まで気が付かなかった。名前から男と思い込んでいた。如何しよう? まあ、何れ離れることになるから、その時までの我慢だ)


又も変わらない生活が一年間程続いた。


四才になったので意識を半径5m程の範囲に飛ばせることが出来た。


二年前にアパートの右隣の部屋に六〇代前半のおじさんが越して来ていた。


家に挨拶に来た時に見たが、痩せていて真面目そうで眼鏡を掛けていた。


母は自分の父親と同じ様な年齢なので気にしていた。


六時半頃に隣のおじさんは何時も帰って来た。


このアパートの玄関にはチャイムやインターホーンは付いていなかった。


トントンと玄関のドアを叩く音がして、母親がドアを開けるとおじさんが立っていて「何時もおかずを貰っていて悪いから買って来た。食べて」とたこ焼一パックを差し出した。


「そんなに気を遣わなくてもいいのに」と母は礼を言い受け取った。


母は夕食のおかずを余分に造り度々おじさんにあげていたのでそのお礼だった。


隣のおじさんの部屋に意識を飛ばした。


コンビニで買って来た弁当と缶麦酒が小さいテーブルの上に置いてあった。


おじさんは壁に沿って置いてあるカラーボックスの上の小さい仏壇に手を合わせていた。


そこの写真立てには笑いかけている中年女性の写真があった。


おじさんの亡くなった奥さんだろう? 母の話だと十五年程前に奥さんに先立たれたらしい。子供はいないようだ。


(さて欲は? ある、ある。ん、私の母と一緒に暮らしたい。こんなに小さい消え入りそうな欲は価値がない。可哀そうだから取るのは止めよう)


(でも他の魔気が感じる、私の範ちゅうではないが、悲しみ、孤独感、後悔感が凄い。あれ、もう1つの写真立てに夫婦と一緒に写っている女の子は誰なのか?)


おじさんの意識に入って見よう。


悲しい、悲しい。妻と一緒に担当医に呼ばれて、妻が癌で余命三カ月と宣告された。


妻が病院嫌いで我慢をし続けて、救急車で病院に搬送された時は遅かった。


おじさんも会社を経営していて忙しくて気付いてやれなかった。

もっと早く気が付き病院に連れて行けばと後悔した。悔しい、悔しい。


妻を亡くした喪失感が大きく、暫く仕事も手に付かず会社は倒産して、おじさんは負債を負ってしまった。


結婚していた娘が一人いたが、負債で娘に迷惑を掛けられないと親子の縁を切った。寂しい、寂しい。


破産手続きをして姿を消した。そして、このアパートに引っ越して来た。


私が望んでいる欲がない、様子を見よう。


最近、左隣の部屋に二十代の男が入って来た。


大家と一緒に挨拶に来たが、一言も話さず気味が悪かったと母は和夫に話していた。


これは期待が出来ると早速、意識を飛ばした。


黒い服を着ている。他にも黒い服が掛けてあり、黒が好きなのか? 


そして、通帳を見ている。振込と引き出し金額が書いてある。


振込人が全て同じ名前で多分親からだ。働いていないのか? 闇がありそう。


欲は? ある、ある、今までで一番価値がある。


一人の女の子を欲しがっているが性欲の比率は小さい。


まだ欲は小さいが、ぎりぎりまで待てば大きな欲となる。


私はその時まで待つ事にした。

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