TURN 3:大会開始篇

Draw 1:「開催宣言を聞く者たち」シーンのワクワク感は凄い。


『Attention, everybody!』


 現代に蘇りし、巨大なコロッセウム。

 蒼天に光るは、白き太陽唯一つ。


『待ち遠しかったよな、fighters! この日が遂にやって来た!』


 楕円のスタジアムのメインスタンドとバックスタンドにはアーチ形の橋が架かり、その側面から2つのサイドスタンドへ向け、開閉式の天井が開け放たれている。

 そして、アーチの中央から吊るされ、空中に浮かぶように存在する特大LEDビジョン。360度どこからでも視認できるソレには、マイクを右手にハイテンションで言葉を紡ぐ男が映っている。


『知っている人はohisashiburi! 初めての人はnice to meet you! My name is コルネオ! 今日は俺が、偉大なbattlesをSpecially実況していくぜぃ!』


 ブロンドのアイビーカットに彫りの深い顔。マッチョな身体を真っ青パツパツのシャツで包む男。用意された椅子から立ち上がり、前のめりに身を乗り出す姿からは、溢れんばかりの楽しさが伝わってくる。

 ありありと伝わる喜びの感情と、聞き取りやすく面白い実況。それによって、数々のCOバトル大会を盛り上げてきた人気者だ。


『そして! 今日の最ッ高の仲間たちを紹介するぜぃ! まずは解説! CO battleを語らせれば日本一、いやさ世界一! CO battle研究の第一人者ぁ!』

『ほっほ。米戸こめと 明説めいせつじゃ。白日晴天、戦日和。本日は宜しくお願い致しますぞ』


 コルネオの言葉に、右に座っていた老人が応じる。

 御年90歳の白髪老人は、トレードマークの長い髭を撫でながら朗らかに言葉を紡ぐ。

 しかし、髭に負けず劣らずフサフサの眉毛の下からは、鋭い眼光がギラギラと見え隠れしている。


『ひゅ~! 天下分け目の戦日和! 痺れる言葉thank youだぜprofessor! そんでもってぇ、次の仲間……特別ゲストを紹介するぜぇ! さっきのopening ceremonyは最高だったよな、audience! CPX社公認! COアイドルぅ!』

『いぇ~い! みんな~! 盛り上がってる~? 舞姫として舞台で舞い、ファイターとして戦場を舞う。混沌歌姫とは私の事! COアイドル、舞歌まいうた マイカだよ! ――〝私の歌で救われなさい!〟……というわけで、よろしくお願いしま~す!』


 次に、老人の右に座っていた桃色ツインテールの少女が応じた。

 翠のクリクリとした目の右側を瞑ってウインク、右手をピースにして右目の前に置き、左手は左頬に添えるように……完全に「可愛く見られる姿」を熟知している振る舞いである。


『Yeaaaaaah! The ONE『ピエラ』の決め台詞で〆るのは流石だぜぇ! 参戦はしないのかい?』

『あはは。今回はアイドルとして呼ばれちゃったので~。本当に本当に残念です~。戦いたかったな~』


 しかし、彼女もまた一握りの強者。

 圧倒的実力を有し、「The ONEカード」に選ばれたCOファイターである。


『血を求めて彷徨う系アイドルの名は伊達じゃねぇぜ……』

『ちょっとお!? それ、どこの新聞社ですか!? それとも週刊誌!? ネット民!? ぶっ倒し……コホン。お倒ししちゃうぞ☆』

『ちっとも隠せてないぜ……っとと、どうやら主催者、死世神 偽華 CEOからの開会宣言が始まるようだ! 耳を傾けろ、audience! 画面切り替えろ、camera!』


 スタジアム中央。床が開き、そこから白黒メッシュの髪を有した少女が現れる。


「強さこそ全て。勝つことにこそ意味がある。勝者は全てを手に入れ、敗者には何も残らない。――それが道理。世の摂理」


 彼女の名は偽華。死世神 偽華。


「この混沌とした世界で、唯一無二の頂点になりなさい。他者を、限界を、運命を……立ちはだかる全てを打ち壊すの」


 年若い少女は、しかし、堂々と言葉を紡ぐ。

 そこに「幼さ」は微塵も見受けられない。


「それこそが、それだけが、己を証明する唯一の方法なのだから。――故に」


 有するは「狂気」。


「示しなさい!」


 或いは、「強さ」。

 

「己こそが! 最強なのだと!」


 少女は。

 良く通る声で、その場に集った者たちに……否。世界の全てに対して宣戦を布告するかのように。

 その言葉を紡いだ。


「――ここに、第1回『西東京CHAOSトーナメント』の開催を宣言するわ!」


 その瞬間、世界が震えた。

 集いしファイターの咆哮が。英雄たちの活躍を待ちわびる人々の声が。

 天へと轟き、大地を震わせる声、声、声。

 


◆◆◆



 その騒然たる諸声に混じって――

 


◆◆◆



「クスクス」

「ケラケラ」

「弱い奴ほどー」

「よく吼えるー」

「最強はー」

「ワタシたちー」

「なのにねー」

「ねー」


 ――水色髪の双子はケラケラと嘲りの笑みを浮かべ。



◆◆◆



「まー、頑張りますよー、そこそこにー」


 ――茶髪の少年は気怠げに伸びをして。



◆◆◆



「ふっ、まだまだ若造共には負けんよ」


 ――男は腕を組んで仁王立ち。



◆◆◆



『繝ッ繧ャ繝上う縺溘■縺ョ菴ソ蜻ス縺ッ繝ェ繧ォ繧、縺励※繧九↑?』

「繧、繧ィ繧ケ縲ゅ≠繧峨◆縺ェThe ONE“ティティム”縺翫h縺ウ“ノブナガ”縺ョ隱ソ譟サ」

『繧医m縺励>縲ゅ〒縺ッ縲∽ササ蜍咎幕蟋九□縲ら樟譎らせ繧医j縲∝渕譛ャ繧イ繝ウ隱槭Υ“日本語”縺ォ螟画峩縺帙h』

「了解。コードネーム「古考ここう 土乃つちの」。行動を開始します」


 ――怪しげな者達が暗躍を始め。



◆◆◆




「………………」


 ――黒い仮面の男はスタジアムの屋根から会場を見下ろし。



◆◆◆



「頑張ってね、唯一!」

「おう! ありがとうな、幾美! 行ってくるぜ!」


 ――赤い髪の少年は駆け出し。



◆◆◆



「もぐもぐ……美味しい。田中、これ追加で10個買って来て」

「流石に食べ過ぎですよ、ティティムさん」


 ――少女は経費で出店の食事を貪る。


 とにもかくにも。

 大会の幕は開けた。

 覆水が盆に返ることは無く。時は巻き戻せない。

 ならば。


 あとは雌雄を決するのみ。


 ここに、戦いの火蓋は切られた――――!



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