Draw 4.5:謎の情報通キャラと、引退した強キャラってのも王道。

◆◆◆



「流斗さん。今、席空いてますか?」

「お、唯一か。ギリギリ空いてるぜ。今日もいつもと同じで良いのか?」


 ここは『銀河亭』。個人的に一番美味いと思うラーメン屋だ。

 今は10時30分という時間帯だから比較的マシだが、昼時になれば長い行列が出来る人気店。常連は混雑時間を避けて、少し早めの昼食にする傾向がある。

 店主は「星地ほしじ 流斗りゅうと」さん。黒髪黒目の青年。弱冠20歳で自分の店を切り盛りしている凄い人。

 ……7年前に失踪した兄さんと同級生だった人で、その繋がりで何度も世話になった。俺が、実の兄のように慕っている人物である。


「モチっス。地球ラーメン一丁。玉ねぎマシマシで」

「はいよ。座って待っててくれや」


 この店の人気メニュー「地球ラーメン」は醤油タレの醤油ラーメン。液状の透明なラードがスープの表面に浮き、トッピングに刻み玉ねぎが用いられていることが特徴。ラードは玉ねぎのシャキシャキとした触感そのままに、辛味を抑えて自然な甘さを引き出してくれる。

 辛うじてカウンター席が空いていたので、そこに座りながらラーメンが出来上がるのを待つ。

 すると、隣の席のオジサンが話しかけてきた。


「お、唯一か。随分と久しぶりじゃねぇか」

「先週の土日に来なかっただけじゃないですか」

「そうだっけか? 年を取ると、その辺が曖昧になるから困る。年は取りたくねぇもんだ」


 彼は食楽道しょくらくどう 情字じょうじさん。ここの常連の1人のオッサン。

 名前以外は年齢も職業も知らない。一応、40代くらいには見える。

 ちなみに。学校がある俺は土曜か日曜に昼食を食べに来るのだが、この時間帯だとほぼ100%彼が居る。

 平日でも毎日この時間帯に来店するらしく、謎の多いオッサンだ。午後に働く仕事をしているのかもしれない。特に興味も無いので聞くことはしないが。


「それで? 何があったんだ、先週に。何かよくない事があったんだろ?」


 突如。オッサンが妙な事を言いだした。

 図星ではある。確かに先週、俺は黒と白の髪の少女「ニセカ」にCOバトルで敗北。そして、水貝が俺の日常から居なくなってしまった。

 しかし、なぜ分かったんだろう?

 疑問に思っていれば。


「付き合いは浅いかもしれんが、ここで毎週顔を合わせてるんだ。顔を見りゃあ、多少の事は分かる。どうだ? 今は店も混んでるしな、ラーメンが来るまで話に付き合ってやるよ。道に迷う若者に手を差し伸べるのは、オジサンの特権だからな」


 下手糞なウインクをしながら、オッサンは言った。



◆◆◆



「……偽華。死世神 偽華か」

「知ってるんですか?」


 俺が「ニセカ」と名乗る少女に敗北した事を話し終えると、オッサンが何やら意味深に呟く。

 どうやら、オッサンは彼女について知っているようだ。


「死世神 偽華、13歳。死世神財閥当主、死世神 真贋の3女。現CPX西東京支社CEO。真贋の子供は何人か居るが、ほんの最近まで一切の情報が表に出てこなかった謎多き存在だな」


 尋ねれば、オッサンはゆっくりと話し始めた。

 そこまで詳しくは知らなかったが、CPX社くらいは俺も知っている。超巨大な会社で、COカードの販売も担っている会社だ。


「だが、分かっていることもある。……アイツは破壊者さ。COバトルでCPX西東京支社を完全に乗っ取っちまった。それから一か月。あらゆる既存のモノをぶっ壊し続けてやがる」

「破壊者……」

「あぁ。「壊す」という概念が人の形を取った少女。それが「死世神 偽華」さ。関わるのは絶対にオススメしねぇよ」


 そうなのかもしれない。

 不思議とストンと納得がいった。あの少女には「壊す」ことしか無いのだ。あの時のバトルを見て、そう感じた。

 間違いなく、危険な存在だ。

 それでも。


「それでも俺は彼女と戦って、勝ちます。COバトルは破壊のためにあるモノじゃない。それを教えてやります」

「覚悟は変わらねぇって感じか。なら、精々COバトルの腕を磨くことだぜ。仲の良い友達やライバルとばかりじゃなく、色んな奴と戦え。戦いの中で学ぶのさ」

「はい」


 そして。

 俺には、1つの確信がある。今この瞬間も、水貝は強くなるために邁進し続けているという確信だ。具体的な根拠なんて1つもないけれど、間違いない。

 だって、あいつは俺のライバル。俺が強くなろうと思っているのなら、あいつも同じことを考えているに違いないのだから。

 ならば、俺も止まるわけにはいかない。

 カードケースから一枚のカードを取り出す。

 The ONEカード「カオス・ノブナガ」。コイツと一緒に、俺は俺の限界を超える。

 偽華とティティム……2人の少女が今の俺の限界だというなら勝利する。新たな地平を切り拓く。

 そして、その拓かれた地で。俺は水貝との決着をつけるのだ。


「へぇ。13歳の女の子がCEOをやってるたぁ、驚きですね。……はいよ、地球ラーメンお待ち!」


 そんな事を考えていたら、注文していた地球ラーメンを流斗さんが目の前に置く。

 数は2つ。どうやら、オッサンも同じモノを頼んでいたようだ。

 透き通った琥珀色のスープには、テラテラとラードのコーティングが光る。中にはスープが良く絡む中細の縮れ麺。上には、これでもかと乗せられたチャーシューにメンマ、そして刻み玉ねぎ。

 これだけで大盛ご飯が食えると評判の絶品味玉1つと、磯の香が香る海苔を脇役に。

 もう見た目から美味い。

 早速食べようとしたところで……。


「店長さん。死世神の3女は長女にソックリだって話だぜ。何か思う所があったりするんじゃねぇか?」

「……いえ? 俺はただのラーメン屋ですからね。同じ経営者として、その若社長に負けねぇように頑張りたいなって思うくらいですよ」

「……そうかい。ま、今はそれでも構わねぇさ」


 ……なんだ? 2人の会話が少し奇妙な気がする。なんだろう?


「ほら、熱いうちに食ってくれ! そろそろ行列も出来始める時間だからな!」


 ま、いいか! 今はこのラーメンを食べる!

 まずは、レンゲでスープをすくって口に運ぶ。ふわりと香る煮干し出汁の香り、そこに野菜や豚骨の味が加わって、それら全てを包み込んだ醤油スープが一気に口の中で弾ける。

 やっぱ、美味ぇ!!



◆◆◆



「流斗さん! 今日も美味かった! 明日は特訓するから来れねぇけど、また来週来るぜ!」

「おう! 頑張れよ、唯一!」

「はい!」


 赤い髪の少年が店を出て行く。


「……火緒主の野郎、何を考えてやがるんだ? 唯一たちに何をやらせようとしてやがる?」


 すると。

 店主の青年は、少年が置いていった丼を片付けながら怪訝そうに呟いた。


「動くのか? 店長……いや、スターゲイザー・リュート」


 それに答えるのは、ラーメンを食べ終わった癖に、真昼間から餃子の特盛なんか頼んでいる食楽堂。

 この店はラーメン以外の料理も美味いので、何も不思議な事では無いが。


「それは昔の名前だよ。もう俺は引退したんだ。今回だって動く事は無いさ」

「そうかい。ま、それでも俺は賭けるぜ。店長の「銀河デッキ」が火を噴く時が来ることにな」

「はは、アンタ昨日も馬券外したんだろ?」

「おっと、こりゃ痛い所を突かれたぜ」


 店主はチラリと目線を横に向ける。

 そこにはデッキケースが1つと、隣には写真立てが1つ。


「お兄ちゃん! 混沌ラーメン2つ注文はいったよ!」

「はいよ!」


 店を手伝う妹の声に大きな声で返事をして。

 店主は、それきり興味を無くしたように仕事に戻っていった。


 写真立てには、黒い髪の少年と、赤い髪の少年と、白い髪の少女が写っていた。


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