Draw 3:ホビアニの敵キャラって意外と重い事情を抱えてたりするよね。
「はぁ……おい、義賊。貴様の伴侶を止めろ。俺は魔法少女を止める」
「じゃれついてるだけだろ? セレが気を許せる友人は少ない。メアとの言い合いくらいは好きにさせてやってくれないか、魔王様?」
「だとしても。新人が困惑している。程々にするべきだろう」
「……む。それは不味いな。了解した」
誰もが好き勝手に喚く混沌とした状況に陥ったが、そこで1
「魔王様」と呼ばれたカードが、セレモアさんの近くに置かれたカードに声をかける。
対象は、「義賊」と呼ばれたカード。描かれているのは、紫紺の髪と金の瞳を有した青年のイラスト。顔の下半分は隠され、カードの上部には「月夜の義賊/ロイバー・クリステフ」と名前が刻まれている。
彼がセレモアさんに話しかけると、セレモアさんは直ぐに大人しくなった。……間違いなく、アレはデキてるな。
魔法少女メアの方へと目を向ければ、彼女もいつの間にか大人しくなっていた。「魔王様」……「
そして、次に。
その、黒髪と黒目、右に紅の瞳を有した男は。
全てのカードに向けて告げた。
「――静まれ」
その言葉は決して大きくは無い。だというのに、部屋中に響き渡った。
騒ぎ続けたカードが全て、瞬時のうちに大人しくなる。
「ホルダー暮らしが嫌なのであれば、後ほど
え、何このカード格好良い。正直、めっちゃ助かった。
俺の精神は(多分)男だけど、惚れるレベル。
「さて、醜い姿を見せたな。申し訳ない。……む?貴様の種族……「イミタシオン」か。成程な」
ん?成程って何が?
確かに、俺のカードの「種族欄」は「イミタシオン/カオス・パペット/スペルビア/アヴェンジ・クローバー」ということで、「イミタシオン」なる種族が含まれているけども。
それがどうしたんだろう?
「少し、俺の話に付き合ってはくれぬか?――あの少女、死世神 偽華についてだ」
それは願ったり叶ったりだ。俺は偽華ちゃんの暗い顔を見て彼女の下へと飛んだ。彼女を笑顔にしたいと思った結果、「ティティム・クルデーレ」になった。
彼女の事情を知れるのなら、それを断る理由なんて無い。
頷きで肯定の意を示せば、彼はゆっくりと話し始めた。
「偽華は憐れな少女なのだ。彼女は――」
◇◇◇
死世神。それは、この世界において有数の巨大企業『
この「日本」に蘇った「財閥」とも称される一族。
かつて解体された財閥が蘇ったかのようだ――そんな意味を込めて、その急速な発展の歴史は「不死鳥」のようだと評される。一方で、成り上がるためには手段を選ばないやり方は、「死神」のようだと評す者も少なくない。
そんな死世神の現当主「死世神
「死世神 真華」は完璧な少女だった。容姿端麗、頭脳明晰、人格も非の打ちどころがなく、TCG『
だが、彼女は亡くなった。13歳という若さで世を去った。
その悲劇に際し、深い悲しみに暮れた彼女の母親は、死世神の財力と技術力を用いて秘密裏に真華のクローンを創り出してしまう。
しかし、それは犯罪。クローン人間を造り出すことは、法で罪と定められた禁忌。
CPX社を背負う真贋にとって、これは大き過ぎる不祥事。そもそも、愛娘のクローンと言うのが彼には受け入れられなかった。
故に。彼は隠蔽・根回しを徹底し、そのクローンを自らの3女であると戸籍を偽造する。
そして、金と豪邸を与えて、使用人を差し向けるだけの存在とした。
真贋および「死世神」にとって、「死世神 偽華」は大きすぎる爆弾であり、触れてはならぬタブーとなったのである。
こうした経緯を経て。
偽華は、「愛」の一切を受け取らずに育つこととなった。
◇◇◇
「――偽物の花、「偽華」。断じて親が子に愛をもって与える名では無い」
辛く重たい話だった。俺は、偽華ちゃんが抱え苦しみ続けたモノを知った。
……あんなに騒がしかったカードたちが、偽華ちゃんの話の間はずっと黙っていたのも、理由は明らか。みんな、偽華ちゃんの境遇に思う所があったのだろう。
だって。俺たちカードは誰かを笑顔にする「玩具」なのだから。
「ティティム・クルデーレよ。お前は「
聞けば、そういった特別なカードは世界に幾つか存在しているのだという。
それらは、「
なんで、そんな特殊カードが公式大会とかで使えるのか、とかは突っ込んだら駄目なのだろうな。
「しかし。鏡はただ己を映すモノではない。己を客観的に観測し、変革を促すモノでもある。故に――」
なるほど。
鏡を見ながら化粧をする。衣服を整える。髪をセットする。
これらは己を磨く行為。「今」を映す像が、「先」へ導くモノともなる。
「――貴様であれば、或いは。あの少女の救いとなれるかもしれぬ。決して同族の舐め合いではなく、お互いを支え高め合う存在……比翼の片割れとして、な」
そうか。
それが「俺」が転生した意味か。
カードとして。性転換までして。
よりにもよって、TCG世界に転生して。
――そして、彼女と出逢った。
――笑顔にしたいと思った。
「あの少女の道行を照らすためならば、俺も助力は惜しまぬ。力が必要であれば声を掛けよ」
これは「俺」の。
否。「俺たち」が彼女を笑顔にするための物語なのだろう。
「――デッキ完成よ! これで全部ぶっ壊せるわ!」
……それはそれとして。
手段がラスボスルートってのが問題ありまくりな気がするけども。
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