Draw 2:優しい先輩がたくさんいるアットホームな職場death。


 遂に偽華ちゃんによるデッキ構築が始まった。

 あ、ちゃんと服は着ている。あの後、直ぐに服を着た。本当に良かった。主に俺の精神的に。

 ただ、直後に別の問題が俺の精神をガリガリと削るようになったのだけど。

 その問題とは。


「……あと5枚けずらなきゃ駄目ね」

『やだやだやだやだやだやだやだやだ!!』

『オノレ3枚入ってるやろ! 1枚キレや!』

『びえぇぇぇ!! 次のリストラ私だぁぁ!! 絶対そうだぁぁ!!』

『やめて! 真っ暗なホルダー暮らしはもう飽きたの!』


 ――この職場、地獄過ぎませんかね?



◇◇◇



 偽華ちゃんは几帳面な性格らしく、カードは見事に整理整頓されていた。

 大きな箱やバインダーなどを使って、綺麗に分類されている。

 ただ、その美しく並んだカードたちの実態は阿鼻叫喚の地獄絵図。互いを罵り合ったり、暴言を吐いたり、泣き叫んだり。目も当てられない惨状である。

 どうも、近くにあるカード同士はテレパシー的なモノが共有され、会話が可能になるようだ。会話だけで姿は見えない。

 ちなみに、これらの声は偽華ちゃんには聞こえていない、と思う。聞こえてないと信じたい。聞こえているのに容赦なく切り捨ててるのだったら怖すぎる。


『テメェは良いよなァ……。コネ入社だもんなァ……。心穏やかに見てられるよなァ……』


 俺の隣に置かれたカードが直接話しかけてきた。『嫉妬人形/エンビビ』さん。紫色の骸骨をデフォルメしたような人形のイラストだ。

 ……俺はカード界隈ではコネ入社になるのか?

 てか入社?会社なの?給料出るの?

 まぁ、良く分からんけど。1つだけ。


 心穏やかな訳ねぇだろ、ばぁぁぁか!!!

 

 周りの奴、ほぼ全員が俺のこと恨めしそうに見てるんだぞ!リストラされた奴の断末魔が響いてるんだぞ!呪詛とか呟いてるんだぞ!「闇」のカードの呪詛とか絶対効果あるヤツでしょ!止めろ!

 

 ……でも、賢明な俺は何も言わない。余計な発言で火に油を注がないよう、黙ってジッとしてる。

 小心者だからビクビクしてるだけじゃないよ。ちゃんと意味があるんだよ。ホントだよ?


『キャハハハ! ウケる! どいつもこいつも僻んじゃって情けな~い! 自分が弱いのが悪いだけなのにね!』


 ……やめて。『傲慢の魔法少女/メア・スペルビア』さん。そんなキラーパス投げないで。周りを見なさい、超ヘイト稼いでるじゃん。

 メアのイラストは10代程度の少女だ。髪と瞳は紫紺に染まり、服は露出多めで際どい漆黒ドレス。手にはハート形の宝石が埋め込まれたステッキ……だが、その中心には亀裂のデザインが刻まれ、色は真っ黒。同じく漆黒のハイヒールとタイツで脚部をコーディネート。

 はい。どっからどう見ても闇堕ち魔法少女ですね。100パーセント主人公陣営じゃないですね。本当にありがとうございました。

 わからせ展開に進みたいのか知らないけど、俺を巻き込まないで欲しい。


『ティティムだっけ? アンタもそう思うでしょ?』


 マジで止めて!俺も同類って見られたくない!

 肯定したら周囲のヘイトがヤバいし、否定したら魔法少女ちゃんに目の敵にされそうだし。どう答えれば良いのか分からず、沈黙を貫くような形になってしまう。


『なに? 新人の癖に無視するわけ? ちょっと生意気じゃない?』


 誰か助けて!もう俺の胃は限界だ!

 すると、横から威厳を感じる女性の声が聞こえてきた。


『ふん。少しは大人しくせよ、魔法少女。強者には強者なりの振る舞いが求められるのだ』


 声の主は『吸血女王/セレモア・ニュクト・ガーネット』さん。漆黒の長髪と紅の瞳を有し、紅のドレスに身を包んだ美しい女性のイラストだ。

 名前とイラストを見る限り吸血鬼っぽいけど、俺には女神に見えた。助かった……!

 と、思ったのも束の間。


『キャハハハ! 年を取ると小言が多くなるのね! 老害年増は黙ってなさいよ!』

『貴様、言ってはならぬことを言ったな!』


 2人は周りのカードたちの喧騒を打ち消す程の派手な言い争いを始めてしまった。

 もう嫌だ!この職場!

 転職したい!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る