第699話 セナ姉ちゃんの意見も同じ?

 ケンゴとリンカの告白が終わった後、喫煙ブースを貸し切ったまま、皆で食事を取っていた。席の組み合わせは、


 セナ、エイ、カレン。

 リンカ、ヒカリ、ダイキ。

 ケンゴ、哲章。


 と言った形である。






 ――ママさんチームの卓――


「やはり、“家族”のパワーバランスは重要だと私は考えているのだが。二人はどう思う?」

「それって男女比の事言ってる?」


 カレンはドリアを食べながらエイの疑問に応じる。


「ああ。今回の件でケンゴが正式に私達の輪に入るだろう? それでもまだ、女子の方が多い」


 男女比5対3。エイは今後に決める重要な決断が女性陣の意見に流れる事を危惧していた。


「私は気にする必要は無いと思うけどね~」

「セナの言う通り、こうやって全員集合ってのが珍しいからねー」

「甘いぞ! 二人とも!」


 重要視していないセナとカレンにエイは告げる。


「家族は公平であるべきだ! ワンマンや、一方の意見に流されてしまったら軋轢が生まれるやもしれん! そして、気づかぬ内に取り返しがつかない状況に陥る可能性もある!」

「大袈裟な……」

「カレン! お前は再婚とかは考えて無いのか!?」


 エイの質問にカレンは、んー、と少し考える。


「最近、ちょいちょい連絡を取ってる人は居るけど」

「あら~」

「ほう!」

「でも、その人の情報開示はここまで。二人に余計な茶々入れられると拗れそうだから」

「個々の恋愛に過剰には干渉はしない! 皆で集まるのは要望があった時のみだ!」

「私の場合は二人みたいに心から望んだ恋愛じゃ無かったからねぇ。ダイキは世界で一番愛してるけど、あのクズには愛情は欠片もないかな」


 カレンは血縁上はダイキの父親となる人物の事を思い出し、眉をしかめる。


「人生はね~幸せだと思える人と一緒に居るのが一番よ~」

「ホント、私にとって二人と知り合えたのが一番の幸運だったよ」

「ありがと~」

「ふっ、照れるぞ!」

「おー、照れろ照れろ。後セナ、有無を言わさずに抱き寄せるの止めなって」

「カレンちゃんが可愛くてつい~」

「私は子供じゃないんだけどね」


 カレンは、汚れるから食事中の抱き寄せは無し、とセナから離れる。


「ああ。私達は対等だ! しかし、強いて言うなら……この中でカレンは三女と行った所か!」

「まぁ、年齢的にもそうなるかね。そんじゃ、長女はどっちがやんの?」


 その言葉にセナは細目を少し開け、エイと視線を合わせる。


「私~」

「セナだな」

「およ?」


 意外にも両者の考えは一致していたらしい。


「私はてっきりエイが“私が長女トップだ!”って言い出すかと思った」

「私は~それでもいいんだけどね~」

「ふっ……『超芸術家』として! 歩みを止め続ける事は出来ん! 私は二番に甘んじよう!」

「『超芸術家』のエイ姉ちゃんは死ぬまでアクセル全開らしいです。セナ姉ちゃんの意見も同じ?」


 カレンは妹ムーヴでセナの意見を尋ねる。


「エイちゃんも~カレンちゃんも~今足を止めるのは窮屈でしょ~。リンちゃんとケンゴ君も落ち着いたし~私は~後は待つだけだから~」


 ひと足先に落ち着く事を考えたセナはまだまだ動きたがりの皆を一歩引いて見守る選択肢を取ったのである。


「まぁ、前からセナは落ち着いてたからね。形になったってトコか」

「適材適所だな! 嫌になったらいつでも変わるぞ!」

「お構い無く~」


 ある意味、ママさんチームの中で一番、全体を見れるのがセナだと言う事は前々から二人も感じていた。


「結局、男女比に関してはスルーで良いの?」

「セナの夫が帰ってきたら少しはイーブンになるだろう! セナ! いつ帰ってくるんだ?」

「ん~その内帰ってくると思う~」


 マイペースなセナらしい返答。しかし、どこか嬉しそうな様子に二人は、その件に関しては心配は要らない、と感じた。


 セナが行った今回の全員集合は、夫に対してリンカとケンゴの告白を伝える為の隠れ蓑だった事は最後まで誰にも悟られなかった。





――未成年の卓――


 ヒカリは運ばれてきた料理を食べながら今回の主役を引き立てていた。


「はい。ってことで、リンとケン兄は晴れてゴールテープを切ったのでした」

「ヒカリそれ、結婚した時の表現だから」

「どうせ、成人したら結婚するでしょ? 変わらないって」

「そんな事になってたんだ……なんか、僕だけ蚊帳の外みたい……」


 少し落ち込むダイキにヒカリが告げる。


「仕方ないでしょ。ダイキは私達と学校が違くて寮生活なんだし」

「ダイキを仲間外れにしたつもりは無いよ。あたし達は野球を頑張ってるってことも知ってるから」

「そーそー、撮影が被らない時は練習試合は観に行ってるのよ? 気づいてた?」

「それは気づいてたよ」


 リンカとケンゴもヒカリに誘われて時間が合えばダイキの練習試合を観に行っていた。


「無事にレギュラーを取れたみたいじゃない。相変わらず一番を打ってたし」

「まだ仮だよ。春の大会直前まで変わる事も十分あるから」


 そう言うダイキの顔つきは幼い弟の雰囲気が抜けて高校球児の顔になる。


「でも……一番とショートを狙う人は上手い人も多いし……」


 しかしすぐに、ふにゃっ、と可愛いたがりな弟の様子に戻った。


「これが超高校生球児の素ね」

「あはは。ダイキはカレンさん譲りで美形だし女の子から告白とかも多いんじゃない?」

「え!? そ、そんな事……」

「高校生球児界隈では時の人の一人だもんねぇ。今、ここで校内での生活を赤裸々にしなさいよ~」

「う、うん……」


 と、二人の前では特に弟となってしまうダイキは少し恥ずかしそうに語り出す。

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