第532話 私は知りませんよぉ!?
『ヘルシング卿』
その容姿は仮面を着け、貴族風のコートにハットを頭に被り杖を持つ。そして、戦闘時は浮遊すると言う演出が凝ったキャラだ。
『ストリートレジェンド』におけるラスボスであり、出てくるのはハルトのアーケードストーリーのラストだけ。
しかもそれは負けイベントと言われる程の圧倒的な能力で設定されており、プレイヤーは蹂躙される。
常に敬語で紳士的な性格。そのキャラクター性に魅了された『ストレジェ』プレイヤーは後を絶たず、キャラクターの中では1、2位を争う人気キャラとのこと。
(wiki調べ)
それが実装となれば、この界隈では話題も話題。この商店街は一種の穴場である事と番長が居たために、一部のプレイヤー以外は集まらなかったのである。番長のヤツは普通に営業妨害だな。
「ヘルシング卿を使えるのか!?」
「ハッタリだろ? 実装して半日も経ってないんだぞ」
「それなら何故、この場面で使うんだ?」
ゲー友たちは番長の選択に対する解答が得られない様だ。無論、俺もそうなんだが……先程の鬼灯のガイアを見て尚、選ぶ程のキャラだ。何か変なオーラも出てるし、ヤケクソになった様子もない。
「彼の中でヘルシング卿は最も深いキャラクターね」
「まともに戦えると思うか?」
「相当やると思うわ」
鬼灯は上部の情報に困惑している俺らとは違い、番長のヘルシング卿は“
「未知のキャラだ。能力も推測程度しかわかってないヤツだが……」
「見ててくれるだけていいわ」
「そうは言ってもだな……」
「見てて。それだけでいいから」
背後は任せた的なヤツか? まぁ、出来ることは何もないのでそれしか、やること無いんだけどな。
家庭用版のハルトのストーリーでも出てくるので、能力をある程度推測する事は可能だ。
ヘルシング卿は基本的には自分では戦わず、部下や兵器を召喚して攻撃する中遠距離キャラである。
確認できるゲージ技は『サテライト・レイン』と呼ばれるフィールド全体攻撃だ。
アーケードストーリーでは、時間か体力が一定量減ると強制で発動し、即死級の威力でプレイヤーは確定で敗北する。流石にソレを実装したらバランス崩壊のレベルではないので、マイルドになっているだろう。
「ヘルシング卿は中遠距離キャラだ。飛び道具が多く、カウンター技も持ってるなんて話もある」
「そう」
鬼灯の返答は重要に受け止めてくれてるのか、どうか分かりにくい“そう”だな。
「行きますよ、デューク・ヘルシング。貴方の力を世界に見せてやりましょう」
「…………」
番長の口調が変わってやがる。コイツは思った以上にヤベェ奴だった。
『ファイナルラウンド――』
その音声と共に画面に現れたヘルシング卿は浮遊し、ガイアはコキコキと首を鳴らしてファイティングポーズを取る。
『レディ……GO!』
最終戦の火蓋が切って落とされた。
ガイアは即座には攻めず、まずは相手の出方を待つ。当然っちゃ当然か。
「愚かな」
ヘルシング卿が動く。
三体の手下を時間差で召喚。それぞれは銃を撃ったり、ブレードで切りつけたり、殴りかかったりと、各々が一撃ずつ行動しては即座に引っ込む。
ガイアは必然と固められる事に。
「流石に削りは無いか」
手下の攻撃はガードしていれば無傷で済ませられる代物だ。安全に情報を集められそうだな。
「ふむ……やはり、USAか」
「?」
マスター・ナツがヘルシング卿の動きを見て何か言ってるな。
「…………」
ヘルシング卿の召喚弾幕は止まらない。召喚から行動までのラグが殆んど無いので攻撃の間隔が途切れないのだ。
無論、ガイアはガード。情報は集まるが、このままだとドローになるな。
『サテライト・レイン』
「!?」
「何!?」
今度は俺も驚いた。
ヘルシング卿がゲージ技を使ってきたのだ。他のキャラよりも明らかにゲージの貯まり具合が違う。手下を召喚して相手を固めてるだけでゲージ技を撃てるとか初見殺しも良い所だ。
ガイアは『サテライト・レイン』の削りによって体力が少し減る。これで時間切れになると敗けだ。
「これがヘルシング卿です。島国の貴方達では万に一つも勝ち目は無いのですよ」
固めて、ゲージ技、体力差で時間切れ勝利とか、ただのクソキャラじゃねぇか!
飛び道具を持たないガイアは、ヘルシング卿の行動を阻止出来ないので一方的に固められる。
しかし……
「やっぱり使いこなしてやがるな」
戦術はともあれ、鬼灯の読み通り番長のヘルシング卿への熟練度は相当高い。これはどういうカラクリだ?
「――やっぱりそうだ!」
すると、ゲー友が何かを調べていたらしく、納得したような声を上げる。
「今回のアプデは、海外だと半年前に先行で行われてる!」
「どういう事だ?」
俺は振り返り、内容を詳しく聞いた。
「『ストレジェ』は海外の格ゲーだから、アプデは本国のアメリカで先行されるんだ。それで、様子を見て調整して他の国にもアプデされる仕様になってる」
って事は……番長は半年前には海外に居て、先行でヘルシング卿を使ってたって事か?
「半年間、そして一日12時間。ヘルシング卿と共に海外の強者達と渡り合った私に隙はありませんよ。再びビザの申請が下りたらこんな島国には用はありません」
コイツ、『ストレジェ』に人生賭けてやがる。
「しかし、今回はビザを二人分取る必要がありますね! ふっはっはっは!」
「ヘルシング卿はそんな喋り方しないだろ……」
鬼灯を連れて行く事をもう考えてやがる。けど、
「――――」
その時、手下召喚の僅かな間を突いてガイアが踏み込んだ。手下を流れ作業の様に召喚していた番長は咄嗟のソレに反応出来ない。四割コンボが炸裂。
「うぐぐぅぅ!?」
番長は自分が食らったように苦悶の声を上げる。ギャラリーは、おー、と針の穴を通す鬼灯のプレイングに感嘆していた。
鬼灯はそう簡単に行くヤツじゃないから、俺も苦労してんだけどな。
ダウンから起き上がるヘルシング卿へガイアは詰めに入る。
「甘いですよ!」
しかし、ここで盤面をリセットするように『サテライト・レイン』を発動。光の雨がフィールドに降り注ぐ。あ、終わった。
「……え?」
番長が素に戻った。何故なら鬼灯のガイアは既に『サテライト・レイン』のダメージ判定のタイミングを見切っているからだ。全部ジャスガにて無傷で目の前に佇む。
「貴方は強かったわ」
ロンダンからの鉄板コンボの初動が入る。
「ぬぐぐ!」
コンボに入ると相手はお祈りタイムだ。こちらがミスるしか返す手段はない。ミスらなかったとしてもコンボダメージは四割。まだ体力が残る――って思ってんだろうな。
当然、画面端。拾って追加のコンボがつながる。
「ば、馬鹿な! 知りません! こんなガイアのコンボを……私は知りませんよぉ!?」
「そう? ここのプレイヤーの皆は知ってるわよ」
締めの『ジャッジ(投げ技)』にてヘルシング卿の体力は完全に削り切られた。
敗北演出でヘルシング卿は、ふらつくと片膝を突いた姿勢になる。
「強いから“勝者”であるワケじゃないわ」
WINNER! ガイアァ!
と、筐体もどっちが勝者なのか高らかに宣言した。
“格の違いってヤツを……見せつけちまったみたいだな”
ガイアの決め台詞に無表情ながらも鬼灯も満足した様だ。
「ぬぉぉぉぉ!! まだですよ! 私は負けてない!」
まだヘルシング卿の口調をインストールしてる番長は席を立つと鬼灯に掴みかかってきた。
女子相手でもリアルファイトを躊躇なく選ぶヤベェ奴だったか。俺は鬼灯を守る様に番長の前に出る。
ようやく俺の出番――
「ユニコ!」
じゃないか。更にヤベェ奴がこの商店街には昔から居る。
ユニコ君はラリアットを一閃。番長の体躯が半回転して床にビタンッ! てなる。
「ぬぐぐ……何ですか……コイツは……」
「ユニコ!」
そして、追撃の踏みつけ。起き上がろうとした番長の後頭部をユニコ君は力の限り踏みつけて床とプレス。その意識を刈り取った。
R-12以下には見せられない光景だな。
「流石じゃ! ユニコ君よ! そいつを商店街の外に放り出せ! わしらのルールを教えてやるのじゃ!」
「ユニ」
マスター・ナツの言葉にユニコ君は、こくり、と頷き番長の片足を掴むと、ずるずると引きずって行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます