第531話 もう貴方を見失わないわ

 ラウンドツー……レディ……GO!


 最新のアプデによって操作性の変更に苦戦を強いられる事となった鬼灯のガイア。時間があれば修正は可能だろう。

 しかし、番長のハルトは当然ながらソレを許しはしない。


「何!?」

「自ら、ガイアの間合いに!?」


 ゲー友が叫ぶ。

 番長はあえてガイアの間合いに入り、近接戦を仕掛けたのだ。

 コマンドの誤差が修正できていない鬼灯はミサキとは比べ物にならないレベルのハルトに成す術もなく体力を削られていく


「これが経験の差と言うモノだ! だっはっはっ! この戦いが終わった後にじっくりと教えてやるぞ!」


 だんだん、番長の邪な考えが透けて来たな。しかし、鬼灯のガイアも亀(ガードに徹する)になっているばかりではない。


「――――」


 鬼灯が仕掛ける。

 カウンター気味にハルトの攻撃をロンダンで割り込み、立P→下K→立K→サマーソルト(ガイアの必殺技。打ち上げ攻撃)→ジャンプ→フライングジャッジ(空中投げ。ガイアの必殺技)――


「あぁ。惜しい!」


 フライングジャッジの入力が合わずに、ただの空中Kになってしまった。ゲー友が手に汗握り、叫ぶ。


「ふんっ!」


 番長のハルトは先に着地したガイアへ空中からDSを浴びせて接近を抑制。安全に着地する。

 先ほどのコンボでのハルトのダメージは二割程。フライングジャッジが決まって居れば四割コンボだった。


「中々、恐ろしき女よ!」


 番長のハルトはDSを撃ち、ガイアへ牽制。鬼灯のヤツ……マジで対応し始めている。


「だっはっはっは!」


 しかし、ハルトはDSを乱れ撃ち。さっきのガイアのコンボから次は決められると思っているのだろう。アウトレンジから体力を削る戦法にシフトしていた。


「卑怯とは言うまいな! ワシは持てる力を全て使うまでよ!」


 鬼灯のガイアはジャスガ(ジャストガード。削り無効)にて耐えるものの、次の問題は時間だ。

 鬼灯は、まだ微調整が必要な事もあり出来るだけ手数を出したい。しかし、ソレを読んでいる番長は、全て潰す様にDSばかりで近づかせない。

 このまま時間切れまで何もさせないつもりか?

 しかし鬼灯もそれを理解しているのか、ロンダンなどを使い、ジリジリ間合いを詰める。

 そして、ロンダン一発で詰められる適正距離と残り時間は15秒を切った瞬間――


「なっ!?」


 観戦している全員(マスター・ナツと俺と鬼灯以外)が声を上げる。

 ハルトは貯まったゲージを全て使い、『デイ・スラッシュ・オメガ(ハルトのゲージ技。照射ビーム系)』を放ったのだ。

 照射は五秒は続く。完全に時間を潰すつもりだ。


「セオリーの虚の虚を突く! これそが『ストレジェ』の上級プレイだ!」


 勝ち誇った番長の声が響き、だっはっはっ! と言う独特の笑いと共に鬼灯のガイアはその照射に飲み込まれた。


「だっはっはっ――は?」


 番長が高らかな笑いを止めた。見ているギャラリーも目を丸くしている。しかし、俺は逆にソレが当然だと思っていた。

 何故なら鬼灯のガイアは『デイ・スラッシュ・オメガ』に合わせてロンダンを使い、無敵抜けと同時にダメージを与えて照射を強制的にキャンセルさせたのだ。


「1フレームにも満たない針の穴を通すか!」


 マスター・ナツが笑いながら鬼灯のやった事を偶然ではないと悟っていた。

 『デイ・スラッシュ・オメガ』は出だしが速く、相手の飛び道具を一方的に消す。そして、発動すればジャンプでも躱せないためにガードするしかない、出し得の技だ。

 しかし、出だしの無敵が無いと言う他のキャラにはない欠点がある。攻撃が届かない距離で射てば何ら問題ない。


 無論、番長もロンダンの届かない距離を計算して、ギリギリまで引き付けて『デイ・スラッシュ・オメガ』を使ったのだろう。だが発動した動作でハルトが少しだけ前に出た事でロンダンの範囲に入ったのだ。


 その1フレームにも満たないタイミングを完璧に捉えるソレを鬼灯は平然とやる奴なんだ。俺も思わず笑ってしまう。


「――――」


 そして、サマーソルトにてハルトを打ち上げ、ジャンプ、フライングジャッジが決まる。画面端にハルトを落とし、ガイアは着地。


「もう貴方ガイアを見失わないわ」


 鬼灯とガイアが同調し始めている。


「まだだぁ!」


 神技の放心からいち早く立ち直った番長は、鬼灯のガイアを迎え討つ。

 時間は10秒を切っている。耐えきれば勝ち――って思ってるんだろうなぁ。


「くっ! くぬぬぬ!!」


 ガイアは上中下段の流れを駆使して、ハルトのガードの崩すと、そのまま画面端の六割コンボを叩き込み、一気に体力をもぎ取った。


 うぉぉぉぉぉぉ……

「ぐぉぉぉぉお!!!」


 断末魔を上げるハルトと同調する様に番長も筐体に倒れる。俺は少しだけ心配になって覗き込むと番長は虚ろな眼でピクピクしていた。

 おいおい、救急車呼んだ方が良いんじゃねぇか?


「七海君」

「ん?」

「勝ったわ」

「疑ってなかったぜ」

「そう」


 相変わらず淡白な会話だが、画面の先で白い歯を見せて、“まだまだ甘いなハルトの坊や”とカットインと親指を立てて決め台詞を言うガイアに鬼灯もピッと親指を立てていた。


「なんだ今の……」

「『デイ・スラッシュ・オメガ』をロンダンで潰したんだ!」

「色々とヤベーこと起こってんだろ!」


 鬼灯のプレイングにギャラリーも大興奮だ。まぁ当人はガイアにしか興味は無い様子だが。


「実に見事な仕合じゃ! 会場のボルテージは最高潮! 最終戦を始めるぞ!」

「ユニコーン!」


 マスター・ナツがいつの間にか用意していた台に乗って高い位置から告げる。

 番長は……まだ死んでるな。


「……どうやら――」


 すると、地の底から這い出てきた魔物の様な声で番長が起き上がる。その顔は今までに無いくらい虚無の表情だ。マジで大丈夫かよ……


「ワシが甘かったようだ」


 キャラクターセレクトォ! デューク・ヘルシング!


 ざわ……ざわ……


 番長の選んだキャラに会場がざわつく。何故ならヘルシング卿は今日のアプデで追加されたばかりの新キャラだからだ。

 修正の終えた鬼灯のガイアの相手が出来るほど、使い込んでいるハズがない。


「油断も遊びも無い。故に……ノーチャンスだ」


 しかし、番長の背後には『ヘルシング卿』が宿っている様に見える。


 鬼灯のガイアと番長のヘルシング卿。


 俺は眼を擦るが向かい合うそのオーラは消えない。俺も疲れてんのかなぁ……

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