第530話 『ストリートレジェンド』(格ゲー)
『ストリートレジェンド』通称ストレジェの物語は主人公のハルトへ消息不明の父親から手紙が届いた所から始まる。
そして、その足跡を追ってストリートを渡り歩き、数多の強者達と戦う中で、戦友(フェイスII)や師と慕う者(ガイア)と出会い、その中で父親と再会するも、ラスボスであるヘルシング卿によって父親は命を奪われる。
ヘルシング卿はハルトへ因縁を残し、フードで顔を隠した四人の部下と共に闇へと消える。ハルトはヘルシング卿を倒す事を誓う所でストーリーの幕を閉じるのだ。
続編を匂わせるストーリー。
ハルトを含める非凡なキャラ達と掛け合いや、各キャラ毎に存在する独特の操作性が人気であり、家庭用に移植される程に知名度のある格闘ゲームである。
現在も、アップデートが続けられておりネームドキャラの参戦には『ストレジェ』プレイヤー達も沸き立つ。
本筋は簡潔していないのにアニメや漫画などのメディアミックスも盛んに行われ、じわじわとプレイ人口は増えているようだ。(Wiki調べ)
ユニコ君が鬼灯と番長の筐体にチャリ……と三枚の100円玉を置く。どうやって持っていたのかは全くもって不明だが、その緊張感に騒がしかったギャラリーも静まり返る。
周囲のゲーム音だけが響き渡りつつも、番長と鬼灯はそれらが聞こえていない程に集中していた。
コインゲームが確変に入ったのか、滅茶苦茶フィーバーしてる音がやたら耳に入るなぁ。
“キャラクターセレクトォ! ハルトォ!”
番長はハルトを選択したらしい。初心者にも扱いやすく近中遠に対応する鉄板のキャラクター。鬼灯はやたらとハルトに因縁があるな。
“ガイアァ!”
そんでもって鬼灯は安定のガイアと。
昨日のミサキとの対戦とは違い、今回は練度が極まってるガイアが初戦からコンボを決めに行くだろう。
「全員、見届けるのじゃ! この勝負は間違いなく『ストレジェ』プレイヤーに火をつける事となる!」
マスター・ナツの間繋ぎの言葉を得て、画面にはハルトとガイアが向かい合う。
ラウンドワン! レディ……GO!
鬼灯のガイアが滑る様にハルトへ迫る。すると、反射的に番長のハルトはデイ・スラッシュ(略DS)にてその動きを抑制。しかし、
「うむ、基本的じゃな」
マスター・ナツは堅実な鬼灯の操作に頷く。
ガイアはロンダン(出だし無敵特技)にてDSを抜けた。ガイア使いならば基本的な動き。ロンダンは前進しながら出す技故に距離感を見誤ればガイアのコンボの間合いに入る事になる。
熟練のガイア使いに飛び道具は逆にチャンスでしかない。
「来るぞ! ミスの無いジャッジコンボ(ガイアの投げ技『ジャッジ』で閉める4割コンボ)が!」
昨日の対戦を見ていたゲー友が、炸裂する鬼灯のガイアに期待を乗せて叫ぶ。
「――――?」
しかし、何故かガイアはコンボをしない。単調なPとKで透かした様に変な動きだ。
明らかに動きがおかしい。
「情弱とは罪の一つ!!」
対して番長のハルトが吼える。華麗なコンボを重ね、ガイアの体力をみるみる減らす。そして、接近のフェイントからDSで一戦目を制した。
「こうも容易いとは……やはり島国はレベルが低い!」
なんだ? 何が起こった?
俺は倒れているガイアを見る鬼灯に問う。
「おい、鬼灯どうした? 動きがおかしいぞ?」
「ガイアが上手く動いてくれないわ」
「なに? ちょっと貸してくれ」
ボタンの不調か? 俺はボタンやレバーを操作してみるが不具合は無さそうだ。
「ま、まさか!」
鬼灯のガイアの様子を見てゲー友がスマホで調べ始める。なんか心当たりでもあるのか?
「七海君! これを!」
と、確信したように公式サイトを開き、そこに書かれたアップデートの内容を見せてくる。そこには、今回のアプデに伴い、新キャラとステージの追加と既存キャラに調整が入っていた。
「ガイアに調整が入ってるな」
俺はゲー友からスマホを借りて、そのまま鬼灯にも見せる。
ガイアのコンボをより出しやすくするために、入力認識時間の緩和が技全体にかけられていた。
元々ガイアは玄人向けのコンボキャラ。飛び道具も持たず、接近する特殊な移動技も無い為に間合いに入る事さえも出来ずに負ける事もある。
そして、間合いに入っても入力がシビアなコンボではまともに戦える様になる為の時間が掛かりすぎると運営は判断したのだろう。
ガイアのプレイ人口を増やす万人に向けた良アプデであるが、深くガイアを使い込み、シビアなコンボに慣れたプレイヤーからすれば調整が必要になる。
「いずれ来る世界大会。それに向け、海外とバージョンを合わせる為のアプデよ。長年『ストレジェ』をやっているのなら、知らなかったとは言わせぬぞ!」
番長は、だっはっはっ! と笑う。
鬼灯の『ストレジェ』デビューは昨日なんだがな。しかし、格ゲーでキャラの操作性に関与する調整はかなり珍しい。
見たところ、調整の入ったのはガイアだけみたいだ。
「別のキャラを使っても構わんぞ! ちなみにワシはハルトの使い手では無いからな!」
番長にとってハルトはサブキャラか。それでも動きは軽く上級者の枠には入る技量だった。大雑把な見た目してるクセに器用な奴だ。
対して鬼灯はガイアしか使えない。やっぱり、俺が『フェイスII』で戦るべきだったか。
「修正情報は細かく載ってるのね」
鬼灯はゲー友に、スマホ借りても良い? と聞いて、い、いいよ! とゲー友の許可を得て細かい修正内容を読んでいる。
あー、これアレだ。全然心配する必要が無いヤツ。
キャラ選択画面の時間を限界まで使って鬼灯は全ての修正内容を網羅し、ありがとう、とゲー友のスマホを返す。
「鬼灯、行けそうか?」
「イメージを合わせるわ」
鬼灯は相変わらずの無感情だが、深い集中力を宿している様を俺は感じた。
第二ラウンドが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます