第529話 面白れー女!

「……そう言うのって俺の役目じゃないの?」


 ガイアを守護霊に纏う鬼灯に俺は振り返りながら提案した。


「私が倒せばきっと彼も納得するわ」

「そうかなぁ」


 番長は考えと言動が全く読めないが……この場面だと行くのは俺じゃないのか?


「ほら……一応、俺は彼氏だし」

「ええ。でも一番早い解決は私が直接戦う事にあると思うの」

「そうか?」

「例えば、勇者が姫を助けに魔王を懲らしめに行ったとして、姫が魔王を懲らしめて帰ってきたら、魔王は二度と姫に手を出そうと思わなくなるでしょ?」

「それって……勇者の存在意義が無くないか?」

「帰り道に姫一人だと大変でしょう? 一緒に帰る為に迎えに来てくれると姫は嬉しいと思うわ」


 何か納得出来そうな……いや! しかし! ここは勇者(彼氏)として魔王(番長)の矢面に立つべきだと思う!

 どっちが戦うかで鬼灯と意見を交わしていると番長が痺れを切らす。


「どうした!? 早くコインを入れんか! それとも不戦勝か!?」

「今からやるよ! もうちょっと待て! いや、鬼灯。やっぱり俺が――」

「聞いたぞ! 皆の衆!」


 その時、ゲーセンの入り口から良く通る声が店内に響いた。


「今度は何だ?」

「大きな声ね」

「ぬぅ!? 何奴!」


 俺、鬼灯、番長が入り口に視線を向けると扉は無いのに、バァーン! と扉を開いた風に手をかざす少女が居た。

 しかし頭はジャック・オー・ランタンの被り物。少女と分かったのは声色と体型からだ。これまた濃い要素を持ち合わせるキャラが出てきたな。


「あ、あの人は! マスター・ナツ!」

「知っているの?」


 ゲー友が少女を見て声を上げ、鬼灯が問う。


「き、昨日、レツさんが居たじゃないですか? 彼の他にテツ、カツ、ミツって人達が居るんですけど……彼らを纏めるリーダーです」


 ゲー友は恥ずかしそうに鬼灯へ説明する。

 レツ……確か彼は、この場でも相当な権威を人間だった気がする。それの上役か。て言うか、テツとかカツとか、他にもまだ居んの?


「『ストレジェ』でマスター・ナツの使う『ハルト』の強さはまさに異次元! 今まで誰一人として彼女から1本さえも取ったことがない! オンラインでさえも!」

「貴様がナツか!」


 すると反応したのは番長だ。筐体から立ち上がり、ギャラリーが道を開ける中、歩み寄ってくるカボチャ少女を見下ろす。身長差40センチ強。


「当初の目的は貴様だった! オンラインにて貴様のハルトにボコボコにされた記憶、未だに新しいわ! 前は回線のラグにて遅れを取ったが、目の前で戦り合えば勝者は知れずと分かると言うモノよ!」

「くっくっく……レツに面白い女が居ると聞き、足を運んで見れば更に面白い状況ではないか!」


 マスター・ナツは怯むどころか同じ威圧で番長と相対する。カボチャの奥では不敵に笑ってる気がした。


「しかし、今の相手はわしでは無いのだろう?」


 うわ、こっち見た。そして、番長もこっちを見る。イロモノ二人がこっち見んな……


「ふっ、強者のオーラについ意識が逸れてしまったわ。先に我が伴侶を迎え入れるとしよう!」


 番長は再び筐体にドカッと座り、さぁコインを入れろ! と腕を組む。

 こっちはどっちが行くのかまだ相談中なんだよ。


「ナツじゃ。何を拗れておる」


 今度はマスター・ナツが話しかけてきた。老人言葉だが声色的にはやっぱり女子で体格に沿った年齢のようだ。カラコンでも着けているか、カボチャの覗き穴から見える色の違う両目は特徴的だな。


「その歳で人生をかけた一戦に興じるとはお主達、中々の修羅を行くのぅ」

「勝つつもりだから問題は無いわ」

「くっくっく。面白れー女!」


 それ、幼女から出る言葉じゃねぇな。

 マスター・ナツの登場でギャラリーが更に増え始めたぞ。外からも、なんだ? なんだ? と人が集まる声が聞こえる。おいおい、そんなに人が集まると――


「ユニコーン」


 ほら、ゲーセンの人口過多に守護聖獣も来ちゃった……


「来たか、ユニコ君」

「コーン」


 と、ユニコ君はマスター・ナツへ気さくな様子で片手を上げる。その雰囲気はお客さんを楽しませるマスコットと言うよりはもっと近しい存在のように見えた。


「此度の勝負、わしとユニコ君が立会人となろう!」

「ユニコーン!」

「それで、どっちがやるんじゃ?」

「私」

「俺」


 俺と鬼灯は同時に告げる。


「七海君。私の始めた事よ」

「いや……そもそも発端はSNSだろ……鬼灯のせいじゃない。ここは彼氏の俺に任せとけ」

「ふむ……オーガよ、お主がけい!」


 マスター・ナツの一声が多数派に加わる。オーガって……鬼灯の事か?


「私の事?」

「うむ。魔王は勇者よりも姫に倒された方が再起不能じゃ。無論、お主の実力はレツより聞いておる。無謀な事を提案しているワケではないぞ」


 と、マスター・ナツは鬼灯と全く同じ理論を展開する。その理論って最近流行ってんの?


「けどさ、勇者の面子ってのもあるだろ?」

「一緒に帰ってやれ。戦いを終えた帰り道。一人では寂しいぞ」

「そりゃ……そうだけどよ」

「七海君、信じて」


 その鬼灯の口調には珍しく、何らかの感情が乗っているのを感じた。彼女の背後に居るガイアも俺の反対の肩に手を置いて、花を持たせてやんなBOY、と歯をキラリッ。出てくんな。


「信じてやれ、セブン・シー。それが彼氏の役目じゃ」

「こんな場面で出る言葉じゃないけどな……」


 そこまで言われては俺も鬼灯の顔を立てる。席を立ち、鬼灯と入れ替わった。それと俺のあだ名はセブン・シーかよ。


「これで負けたら洒落にならねぇぞ?」

「負けないわ」


 鬼灯は再び機械音声。本当に読めない奴だ。


「勝負は3本勝負じゃ! 互いに納得が出来る様に、一戦毎にキャラチェン(キャラクターチェンジ)を図る! 双方ともそれで良いな?」

「望む所だ!」

「構わないわ」


 二人の言葉にマスター・ナツも笑う。


「お主らのプレイ料金はわしが出そう! プレイアブルキャラを選べ!」


 長い前置きの末にようやく始まった。て言うか……マジでこんなんで人生かけるとか、冷静に考えるとやってる事ヤバ過ぎだな。

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