第433話 関係なくなーい?

「はい、どうぞ」


 ヒカリは最後の来場者チケットを徳道さんに渡した。

 あたしよりも目立つことに抵抗のある徳道さんは渡されたチケットを手に取って嬉しそうだった。


「徳道さん。興味本位で聞いてもいい?」

「え? は……はい」

「あはは。クラスメイトだし、敬語はいいよ」


 ヒカリは人によっては極光だからなぁ。密かに憧れる女子も多いって話だし。


「誰を招待するの?」

「……お父……父を招待しようかと思って」


 正直言ってあたしは意外だと思った。

 徳道さんの性格なら恥ずかしい事は身内に知られたくない、と考えると思っていたからだ。


「オッケー! じゃあ、徳道さんのお父さんの為にも、『猫耳メイド喫茶』は張り切って準備しないとね!」

「そうだねー」

「うん……」


 あたし達の賛同に徳道さんもやる気が増した気がする。


「一応、徳道さんから箕輪先生に呼ぶ人の事は話しておいてね」

「うん……ありがとう、谷高さん」


 いつもは絡みの少ないクラスメイトも張り切る事が確認でき、文化祭への一致団結にまた一つ近づいた。


「ちなみに徳道さん、ギリギリだったわね。それでチケットは完売だから」

「え?」

「もう一つはリンの手にあるからね」

「鮫島さんが?」

「まぁ……あたしも色々あってね」


 徳道さんは別に言い触らさないと思うので、あたしは隣に住んでいる彼を呼ぶ事を簡単に話した。

 その後はせっかくなので三人で昼食を食べる事に。ヒカリは普段は全く接点のない徳道さんの視点に何かと感心し友達となったのだった。






 午後の業務も滞り無く終わり終業のアラームに皆は、お疲れー、と帰宅の準備に入る。

 明後日が祝日だと何か気持ちが楽だなぁ。

 明日出れば休み。PS5を貪れるではないかっ! うふふ♪

 鞄を肩にかけて、さぁ帰ろう! とオフィスを出ようとしたところで1課から戻ってきた鬼灯先輩と鉢合わせた。


「お疲れ様、鳳君」

「お疲れ様です。今の今まで1課に?」

「ええ。4課の件で少し時間を押してしまったから帳尻を合わせたの。私が残ると泉さんに気を使わせてしまうから」


 確かに……鬼灯先輩が残業してたら予定があっても泉は絶対に肩代わりを申し出るだろう。

 時間が押したにも関わらず定時で作業を終わらせたのは流石だ。


「また、明日ね。鳳君」

「はい!」


 いやぁ~これよ、これ。明日も鬼灯先輩の居る職場で働ける完璧な流れ。出勤が億劫になるハズがない!

 オフィスを出て帰宅者達と一緒にエレベーターに乗る。ポーン、と一階に着き、ゾロゾロと他の人と混じってエレベーターを降りる。

 いつもの帰路。昼の時間が短くなる時期なので、もう薄暗い。会社もまだ残る人の居る課の灯りが目立つようになったなぁ。あ、社長室も着いてる。ご苦労様です。


 JRに乗り、帰宅ラッシュに揉まれながらガタンゴトンと移動。この際に両手は吊り革を持つ事をオススメする。これなら痴漢と間違われないからね!


 最寄駅で降りて、スーパーで割引の惣菜を買ってイザ帰宅。夕飯はこれで済ませて、寝るまでの時間を少しでもPS5に寄せるんや!


「♪~♪~ん?」


 ワクワクから鼻歌まで出ていたが、アパートに入った所で敷地内に見知らぬ乗用車が止まっているのが目についた。


 アパート前の庭は車も停められるが、余程の来客でない限りは赤羽さんは許可を出さない。(ちなみに、アパートの駐車場は建物の反対側にある(月額6000円))


「珍しいな」


 赤羽さんの身内か、大事なお客さんだろうか? まぁ、オレにはあんまり関係ない。ただ、大きな音だけは注意しよう。

 少し音を控えめに階段を上がると、オレの部屋の前に、デカイスーツ姿の男とマスクをつけたスーツの女が談話していた。


「ハジメ。あんまり俺はここらで見られたくないんだけどよ」

「なら車で待っててもいい。私の方で彼には話を――」


 と、オレの方に気がついて二人は視線を向けてくる。ん? 男の方はどっかで……あ!


「お前は! ショウコさんを拐ったヤツの一人!」


 スーツに身を固めて居るがオレは見逃さない。なんでこんな所に……まさか! またショウコさんが狙われてるのか!?

 オレはサッとスマホを出す。サマーちゃんに連絡してショウコさんの警戒レベルを上げて貰わなくては!


「ま、まて!」


 男が手をかざして告げてくる。よし! 待ってやる! ただし、一歩でも近づいたら、4課と『ハロウィンズ』が総動員するぜぇ!


「その……あの件は本当に悪かったと思ってる! 謝って済む話じゃねぇのは俺も理解しるつもりだ」


 と、正座する男。ここの廊下って滑り止め様に凸凹してる。直に座ると軽い石積拷問の下敷きになる。

 前はショウコさんも居たので溜飲を下げたが、よく考えると誰かは警戒する必要があるだろう。


「……」


 まぁ、それでも素直に正座する分、彼は良い人なのだろう。部下の面子にもそれなりに慕われていたし、ショウコさんを助けようともしてくれた――でもさ、それって関係なくなーい?


 だって、アイツは本当は良いヤツだ、とか、実は人質を取られて仕方なく、とか、そんなのは彼をよく知る身内にだけ通じる言葉なワケですよ。

 被害を受けた側からすればマジで知ったこっちゃないって話であって、改心したなんて言われても、オレには全く響かないワケなんですわ。

 ってことで、4課と『ハロウィンズ』を召喚――


「待ってください」


 む、オレの動きを察したマスク女が更なる静止をかけてくる。


「私の身内が貴方様と流雲様に大変な目を合わせた事実が消えると思ってはいません。ですが……今は我々の話だけでも聞いて貰えませんか?」

「……って言ってもオレから話す事なんて何にも無いんだけど……」

「どうやら時間は丁度良かった様だね」


 すると、下から赤羽さんの声がして廊下から下を覗く。

 そこにはこちらを見上げてくる赤羽さんと、隣には滅茶苦茶可愛い和風美女が佇んでるぅぅ!?

 まさか……孫!? 赤羽さんのお孫さんですか!? やっべぇー! 江戸時代からタイムトラベルして来たみたいな、お姫様ですよ! やべぇぜ! 日本人としての血脈がお姫様に対して滅茶苦茶ドツボに反応してやがる!


「鳳君。彼女が君の祖父君の事で話したい事があるそうだ」


 その言葉にオレはピクリと反応する。和風美女はペコリと頭を下げた。

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