第432話 一度閉じると自動的に消滅する!
文化祭の飾りつけを各々で作り始め、いつも授業中は事務的な教室も、今は色々な資材で華やかになっている。
散らかっているとも言えるが、初めての文化祭。準備の段階から皆は楽しみながらやっていた。
「ヒカリ、お昼行こ」
「うん。良いよ」
しかし、あたしには楽しむ余裕は無い! まずは、彼を招待する分のチケットを親友から手に入れなければならない心境でいっぱいだ! ヒカリの事だ。彼を呼ぶのに抵抗は無いハズ。
「ヒカリ、チケットを――」
「はい」
校舎の非常階段に来て、二人きりになった所で切り出したが、先にヒカリがチケットを差し出してくれた。
「ケン兄。呼ぶんでしょ?」
「え? あ……うん」
「皆の前だとケン兄の名前は出しづらいからねぇ。ファインプレーだと思ってるよ」
「ヒカリ~」
親友に抱きつく。とにかくチケットを手にいれる事ばかり考えていたが、もしHRの時に声を出していたら、今頃は恋バナ大好きな女子の質問責めにあっていただろう。
「本当にヒカリには頭が上がんないよ」
「ふっふっふ。今のを貸しにするなら、今度のコスプレ写真集への要請を所望するわ」
「……そんな写真集を出すの?」
「ママの思いつきだけどねー」
そう言えばスイレンのお婆さんも『谷高スタジオ』と衣装の契約をしたとか言ってたなぁ。
ふむ、とリンカは考える。既に意図しない形だが、二度もコスプレは経験している。一から迷惑をかける様な事にはならないだろう。
「いいよ。一緒に写ろうか」
「え? ホントに!? ホントにホント!?」
と、嬉しそうに親友は両手をとって来る。
「ホントだよ。いつも誘ってくれてくれるのに断ってばかりで悪いから」
「リン~大好き~」
「大袈裟な」
今度は親友から抱きついてくる。本当にダメ元で聞いてきたのだろう。そんなヒカリへ協力出来る事にあたしも嬉しく思う。
「ちゃんと撮影料は払うからね。リンの姿をタダでは撮らないよ~」
「納得できる形に収まるならそっちに全部任せるよ」
金銭が欲しいとは思わないが、エイさんはその辺りはキチンとしている。タダほど壊れる関係はない! というのが持論だとか。
「うふふ。ケン兄に猫耳メイド見てもらえるねぇ」
「それを言うなら……クラスの女子全員見られるワケだけどね」
一人なら視線は気になるが、沢山の中に混じるなら特に問題はない。
「ふむ。後1枚か……セナさん呼ぶ?」
「うーん。お母さんは色々とカオスな事になるよ? 哲章さんは?」
「パパまで来たら、文化祭の雰囲気が固くなりそうだから」
「となれば、お隣さんの友達かな」
彼の会社の社員旅行で知り合った十人十色では収まりきらない濃い人間性を持った人達。来るなら鬼灯さんあたりが良いかもなぁ。
取りあえずお昼食べよ、と誰を誘うかは一旦置いといて、お弁当を開く。
「あ……あの!」
すると、珍しいお客さんがその場に現れた。
「徳道さん? どうしたの? 一緒にご飯たべる?」
徳道さんはクラスの人よりも図書委員会に所属する他クラスの面々と中が良い。若干、クラスでは浮いている子だけど、いつも本を呼んでいるのであまり声をかけないと言うのが皆からの扱い方である。
「え……あ……うん……いいの? じゃ……なくて……えっと……谷高さん」
「私?」
「その……チケット、貰えませんか?」
意外な人物からの催促にヒカリは少し驚いた様子だった。
「むっ……おっとと。マジか」
オレはスマホから放たれた“今週の誕生日の人”通知を見て、改めてその対象者を見る。
「徳さん、土曜日誕生日のなんだ」
実質的な課のNo.2である徳さんは、おおらかな人物で七海課長でさえ敬語を使う傑物だ。
ミスによるトラブルや顧客からの無理難題を、なんて事のない様子で捌く際には後光が現れる。
故に『仏の徳さん』。鬼灯先輩が超人的な仕事をするの対比の様に、誰にでも出来るような捌きを方をするのが徳さんのワークスタイルである。
3課では鬼灯先輩から基礎を学び、徳さんから仕事の流れを掴む、と言われる程に社内教育では無くてはならない人材だ。
無論、そんな彼に恩返しをしたいと思う社員は多く、誕生日には海外のバースデーパーティーの様にプレゼントが山積みにされるのである。ちょっとしたお祭りになるのだ。
「オレは自宅に届くお歳暮にしておくか」
会社での直渡しは持ち帰りの荷物にかさばるので、後で断ってからご自宅へ田舎の地酒『神ノ島』を1ダース送っておこう。
何をあげても喜んでくれるから、良い物を送りたくなるんだよなぁ。
すると、ピロン、と社内メールがPCに入ってくる。送り主は社長からでCCは徳さんを除く、社員全員のようだ。
『件名 徳さんの誕生日について』
“全社員諸君! 今週の土曜日が誕生日の徳さんへのプレゼントを考えている者は大き目のものは控える事! 相手を困らせる様な誕生日にするのはナンセンスだ! 徳さんは何でも受け取ってくれるだろうが、それ故にこちらがエチケットを護らねばな! ふはは! 後、
「え? 嘘。マジ?」
カチリと閉じると、メールは本当に消滅した。007かよ。
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