第354話 己の立場を理解しなさいクソ野郎
ショウコさんはサラダを作ったが、オレはピザを頼んだ。
あまり油物を食べないショウコさんは、ピザメニューの中にある“素のナン”を要望してたのでそれを注文に入れる。
甘辛ソースとかもついてくるが、これは使わないだろう。
「最近のピザ屋は色々な物を取り扱っているのだな」
「薬局が食品や日用品売ってる時代だからね。しかも何故か他の所よりも安いし」
「あれは私も不思議に思っている」
企業間での生き残り事情は生活するオレらとしては不干渉でも良いだろう。安くて品質が良ければ何でも良いのが庶民の言葉だ。
「先にサラダを食べようか」
「うむ」
なんやかんやで、ショウコさんのサラダは結構好きだったりする。
普段の野菜はスーパーのカット野菜やポテトサラダで済ませるオレとしては、菜食主義の調理サラダには目から鱗だった。
それに野菜は鮮度が大事。すぐに食べないと美味しさはどんどん失われていくだろう。
「玉ねぎとかピーマンとか、あんまりサラダのイメージが無かったけど、ショウコさんのおかげで好きになれそう」
「そう言ってもらえると私も嬉しいよ」
ショウコさんは相変わらず淡々としているが今のは少し反応がわかるぞ。尻尾があればぶんぶん振ってる感じだ。
「ふむ……」
丸テーブルに置かれた野菜をショウコさん印の特製ドレッシングでハムスターの様に食べながらオレはふと思う。
ショウコさんに猫耳似合うんじゃない? と。確か……ダイヤのヤツが置いて行ったのが押し入れにあったよな。
「ショウコさん」
「ん?」
「じゃーんけーん」
ぽん。オレはチョキ。ショウコさんはグー。
食事中にじゃんけんと言う、激しくマナーの悪い行為にノってくれたショウコさんに感謝。欲を言うなら勝っておきたかった……
「何のじゃんけんだ?」
「うっ……えっとね……」
ハイ。調子に乗ってましたよ。だから負けたのだろう。神様が、ここで負けて己の立場を理解なさいクソ野郎、とキラキラとした笑顔で言ってくる。
その通りです。私利私欲で仕掛けた勝負には大義名分は何もないと、歴史が証明しているではないかっ!
「私は勝ったワケなのだが?」
ショウコさんは何のじゃんけんかを聞いてくる。
これはオレの罰。偽り無く己の欲望をさらけだす。立ち上がって押し入れをごそごそ。見つけた猫耳をショウコさんの前に、コト……と置いた。
「これを……つけて貰おうと思って」
「……」
「なんかすみません……」
「食事を続けようか」
その後は無言でぱくぱく。完全にミスった。いくら仲良くなったからと言っても、ショウコさんはショウコさんである。
淡々とした彼女の性格を加味しても、猫耳なんて着けてくれる可能性は高く無かっただろう。
「……」
食べ終わるとショウコさんが食器を下げてくれた。後はピザ待ち。それが来るまでに状況をリカバリーしておきたい。
するとスマホの『ハロウィンズ』のLINEに連絡が入る。
“マザーの許可が下りたわい。明日、ショウコを連れてくるのじゃ!”
サマーちゃんには本当に感謝しかないなぁ。世話になりっぱなしなので、今度テツに彼女の好物でも聞いて買って行ってあげよう。
台所から水を出す音が聞こえ、オレは立ち上がる。
「オレが洗うよ」
「座っててもいい」
「いや……やらせてください……」
少しでも心象を回復させたい。まぁ、サラダを用意してくれたのはショウコさんなワケなので、片付けくらいはやろうと思っていた所だ。
「なら頼む」
オレの意を組んでくれたショウコさんは居間へ戻る。オレは食器洗いを開始。とは言っても、火は使った料理は作らなかったので、比較的に洗う物や手間は少ない。
「さてと……」
オレは洗いながら今後の事を考える。
後はピザとナンを食べながら程よく腹が膨れたら就寝。少し時間は早い気もするが、今日は二度の決戦があったので、心身ともに疲れている。睡眠時間は多い方が明日に響かないだろう。
状況は落ち着いているし、オレも大賢者だし、ショウコさんへお酒を飲ませる必要は無さそうだ。
明日は彼女をサマーちゃんの所まで送り届けてからオレの役目は一通り終り。名倉課長には……夜遅いので明日の朝一に連絡しよう。ヨシ君にも協力してもらえばきっと納得してくれるハズ。
「……虹の彼方に何で居たんだろうな」
少し気持ちに余裕が出来たので、虹の彼方の現状について思い返す。
何故リンカが居たのか。まさか……オレも彼女に好意を? いや……愛が解らないオレの視点だ。何かの間違いだろう。オレはMじゃないし。
特に気にすることもない。明日の夕方にはリンカが宿泊研修から帰ってきて、いつもの日常に戻るのだ。
たった二日だったのに、三ヶ月くらい過ごした気がする。色々な奴らに注目されて看板モデルさんも大変だなあ。
オレは洗った食器を拭いて台所下の棚へ直す。すると何か違和感。あれ? なんだろ……オレはここに何かを置いた様な――
すると、しゃがんだオレの背中に優しく手が添えられて、身を寄せる感触が。
「にゃ、にゃん」
驚く事に耳元から聞こえたのはショウコさんの声だった。
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