第268話 地球の平和を託します!

「旅行鞄はタンスに入る?」

「問題無さそうだ」


 部屋に入り、荷物を置くところを割り当てる。とりあえず、ショウコさんの荷物はタンスへ入れるようにお願いした。

 海外転勤で余分なモノを処理した事もあり、タンスの中は布団くらいしか入っていないのでスペースには空きがあるのだ。

 昔は漫画を貯めていたが、電子書籍に移行してからスペースがかなり空いた。


「ふむ。君は一人暮らしかな?」

「そうですけど? 何か気になる事でも?」

「布団と上掛けが二組あるのが、少し気になってな」


 今もリンカは良く遊びに来て、そのまま昼寝したりするので一応、二組用意してあるのだ。


「来客用です。よく、遊びにくる子がいるもので」

「ふむ。なら、私の存在は不都合ではなかったか?」

「大丈夫ですよ。理解のある子なので。多分……」


 根は優しい子なんです。今は……ちょっと思春期ですが……


「その子は女児かい?」

「ええ。でも気にしなくて良いですよ」

「いや、私の方から挨拶をしておこう」

「え? 大丈夫ですって」


 すると、ショウコさんがズイっとオレに近寄る。モデル体型で身長は同じくらいなので真面目な垂れ目と視線が合う。


「いつも通りに来て、私の存在に困惑すると君に良い印象は与えないだろう?」

「い、今は、彼女は学校行事で数日は居ないんです! だから話をするのは無理かと……」


 近い近い!

 鬼灯先輩しかり、セナさんしかり。様々な美人女性と接してきたオレだが、ショウコさんはボーダーラインを平然と越えて来る。


 今も胸が当たりそうな距離まで近いし……良い匂いするし……


「あの……ショウコさん。距離が近いです……」

「ふむ。君はこう言う状況は慣れっこだと聞いているが」

「異性なら今のは誰だってドキっとしますよ」


 そんなモノか? とショウコさんは向き直ると旅行鞄の一つを開け始める。


 何て言うか、自分の容姿を自覚していない立ち振舞いだなぁ。

 

 ダイヤはフレンドリーな勢いだったので、ツッコミも交えて距離を取れるが、ショウコさんは正論と接近が混ざる故にかわし難い。

 オレとしては“好き”のドキ! ではなく、性的な感覚でしか捉えられないので慎重に距離感を掴まねば。


「苦労しそうだ……」


 オレは思った事がぼそりと口に出る。

 彼女は名倉課長の娘さんであり、手を出せば社会的に抹殺されるのだと脳に刻み込め。

 スーツを着替える為にハンガー掛けに近寄ると、上着を掛けてネクタイを取る。


 このハンガー掛けはツリー状になっており、アメリカでダイヤに薦められて買った代物だ。

 引っかける容量も大きく使用感も良い。何より、異国での三年間を共に過ごした愛着もあったので持ち帰ったのである。名前はニックスツリー。

 向こうでは空いた枝は何かとフォスター姉妹の洋服がかけられていたが、こっちで常用するのはオレくらいなので、基本はスカスカである。(来客時に人が増えるとクリスマスツリーみたいに派手なるが)


「私もそれを使っても良いかな?」

「良いですよ」


 オレがそう言うと、横から白く細い手がニックスツリーの枝に上着をかける。それはショウコさんの脱いだ上着で、彼女の上半身は下着姿だった。


「……ほへ?」


 水色の下着一枚に隠された豊満な胸。服の上からでも大きいと感じるのに、脱いだらそりゃね。視線はそっちに行くよ。


「ん? やはり地味かな? この下着」

「羞恥心!」


 オレが叫ぶと、ショウコさんはビクッと驚く。


「急にどうした?」

「服を! 服を着てください!」

「今から着る」


 そう言って、下も脱ぎ出すショウコさんにオレは釘付け。

 だって下着姿で前屈みになったらね、たゆんたゆんが、ブラ一枚に支えられて谷間が強調されてるんや! これで目線が行かない男はホモか去勢済みのオスだけやで!


「ふむ。やはり地味か」


 ニックスツリーにレディーススラックスも引っかける様子にオレが視線を外せずに居ると、ショウコさんはそれに気づいていて眼を合わせる。

 そして、目の前で自分の下着を少し広げて品定め始めた。


「耐久力は悪くないんだが、こういう時に不快にさせてしまうか。すまないな」

「い、いや! そんなこと無いですよ!」


 何故、謝られたのかわからん……。逆にこっちが謝る必要が……ん? なんで謝るんだっけ?


「ふむ、そうか」


 と、ショウコさんは背を向けてしゃがむと旅行鞄から服を見繕い始めた。その背中は性欲をそそるには十分な破壊力がある。


 そもそも、ショウコさんはモデルで美人で、スタイルも良くて……そんでもって……今はオレとは擬似的な恋人なわけで……そんな彼女と、これから夜を過ごすワケであって……あれ? これヤバくない?


 オレの中の獣が放射線をビビビッと当てられてゴ○ラと化す。ギァオオオン! 踏みとどまれ! オレの身体ぁ! あぁ! クソっ! どんどんショウコさんに近づいて――


 ピンポーン。


 その時、理性を引き戻す音階インターホンにて、現れたウルト○マンがゴ○ラに飛び蹴りをかます。

 ドォォンと倒れる○ジラ。シャァッ! と登場ポーズを決めるウル○ラマン。た、戦ってくれるのかい!?

 コクリと頷く理性ウルトラマンは、ここは任せろ、と煩悩ゴジラに向き直る。

 地球オレの平和を託します!


「はいはーい! 居ますよ! 居まーす!」


 オレはショウコさんを襲い掛けた自分を誤魔化すように声を上げて来客に対応する。


「こんばんは。ケンゴ君」


 扉を開けるとセナさんがいつもの笑みで手を振っていた。

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