第265話 「「これは私たちの出番ですね!!」」
オレは名倉課長に連れられて、最上階フロアにやって来た。そして、
「……」
「どうしました? 鳳君」
「いえ……」
4課の扉の前に居る。
本当に……本当に何も心当たりは無いのか!? オレ! 今の今までで! 社会的な不敬を働いた事は――
入社1年目。幼女(リンカ)と知り合う。
ニューヨーク。マフィアの倉庫特攻。
夏祭り。仮面ラ○ダー。クモ男。
よく考えて見れば結構あったわ。
しかし! しかしだ! リンカの件は問題無いし! ニューヨークは海外だし! 夏祭りは正当防衛or箕輪ライダーも一緒だった!
「そう、悩まなくて結構です。鳳君に不利益な件ではありませんので」
名倉課長はこちらを見ずにオレの動向を言い当てる。恐ろしい人だ。ホントに……
「名倉です」
名倉課長はそう言って4課の扉をノックすると、中から、どうぞ、と言う声を受け取る。
扉を開けると機密保持の二枚目の扉が目の前に現れる。そちらは内側から開いた。
「ご足労頂き、ありがとうございます、名倉課長。本来ならこちらから出向くのが礼節ですが……」
「構いませんよ。この件はあまり広めたくありませんので」
そこには、会社でも最も若い男社員が出迎えた。
彼の名前は
年齢は20歳。なんと最年少の弁護士資格の記録保持者でもあり、17歳の時に習得した天才なのだ。
「鳳さんも、お久しぶりです」
「久しぶり。なんやかんやですれ違ってたね」
ちなみに勤続年数で言えば陸君はオレよりも先輩に当たる。
当時、社長が組織の若返りを行い、多くの若手を起用した際に鷹さんの紹介で大見家のオルトロスと陸君がやって来たとの事(鬼灯先輩からの情報)。
「課長や他の方に比べて頼りないかも知れませんが……」
「そんな事はありません。頼りにしていますよ」
オレと名倉課長は4課室内の小さな会議室へと通される。課の中はお昼休みと言う事もあり、人の姿は無い。
それはそうと……何でオレが連行されてきたのか、そろそろ説明欲しいなぁ。
ガチャリと扉を開けて会議室に入ると、空さん海さんが出迎えた。
「どうぞー名倉課長」
「失礼します」
「どうぞー鳳君」
「……ありがとうです」
何か電気椅子に座らされる様な感覚を覚えたが気のせいだろう。
椅子に座るとコーヒーが出される。陸君がきちんとオルトロスの手綱を握ってるので普通に安心出来るのが救いだ。
「真鍋課長から話は聞きましたが……もう一度、確認を宜しいですか? 名倉課長」
「ええ」
すると、名倉課長は一つの雑誌を取り出した。それはヒカリちゃんの家が出しているファッション雑誌である。
表紙を飾るのは色素の薄い髪と垂れ目に巨乳(ここ重要)の美女だ。
名前は流雲昌子。雑誌モデルとしては笑顔が少ない事で有名らしいが、それが逆に好評のと事。巨乳だし、何かミステリアスな雰囲気がウケるのかも。会社の看板モデルだとヒカリちゃんは言ってたっけ。
「ふむ」
陸君は少し言葉を整える様に間を置く。
こう言っちゃなんだが意外だ。名倉課長もこの手の雑誌を読むんだなぁ。
すると、陸君が雑誌は開かずに表紙を示唆する様に聞く。
「こちらの表紙の方。名前は
「はい」
名倉課長が答える。オレとしては何の話なのか全く見えない。この場に何故オレが居るのかも全く解らない。
「彼女がストーカー被害に合っていると?」
「はい。住所も特定されている様で、自宅の方にも狂愛じみた手紙が届いたそうです」
へー、人気モデルとなるとそう言う事もあるか。まぁ、顔は晒してるわけだし、熱烈なファンには気づかれるか。……ん? 何で名倉課長がソレを知ってるんだ?
「ふむふむ」
「最近は電話番号も特定されたのか、ショートメールも送られてくる始末です。番号を変えても何度も来ると」
「「これは私たちの出番ですね!!」」
すると、静かだった海さん空さんが声を揃えて弾ける様に告げる。
「女性の敵は一人残らず去勢するべきです!」
「股間で動いている輩は諸悪を絶たなければ繰り返すのですよ!」
どっからか木刀を取り出し、出撃許可を待つ二人。木刀に血痕の様なモノが着いているのは……気のせいだろう。餌を見つけた獣が如く、眼を光らせている。
「頼もしいお言葉です。しかし、今回の件は大事にはしたくないので」
「そう言う事だから、今回は
名倉課長と陸君に諫められて、オルトロスはステイ。普段から木刀はナニに使われてるんだろうなー。敵の尻に牙突でもしてるのだろうか。聞かぬ方が良いだろう。
「直接的な被害は何か?」
「幸いにもまだ発生はしておりません。しかし、今後エスカレートし、被害が出る前に事を納めたいのです」
「では、こっちで追って調査をしますので。詳しい情報と当人との面談を宜しいですか?」
「ええ。良ければこの後でも?」
「都合が着くのであれば構いません」
話しはまとまった様だ。結局最後まで何でオレが呼ばれたのか全く解らなかったが。
「それでは後に連絡をください」
そう言って陸君と海さん空さんは会議室から出て行った。
ポツンと残されるオレと名倉課長。もう用は無いハズなのでオレも立ち上がる。
「じゃ、じゃあ失礼しますね」
「鳳君」
名倉課長は座ったまま、オレを引き留める様に声を出す。
「君に頼みたい事があるのです。受けるかどうかは任せますが、まずは話を聞いて貰えませんか?」
オレは席に戻る。対面ではなく、名倉課長の隣に。すると、名倉課長は立ち上がると対面に座り直した。
そして、テーブルに置かれた雑誌の表紙を指差す。
「彼女としばらく一緒に過ごして欲しいのです」
「……え?」
聞き違いかなぁ……。いや……多分、意図が違うんだろう。雑誌の巨乳様との接点は全く無いし。
オレがその言葉の真意を考えていると、
「流雲昌子は私の娘です」
名倉課長が追加で予想外の事実を口にした。
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