23章 同棲彼女はモデルさん
第264話 流雲昌子の悩み
「ふむ……」
モデルとして働くショウコには最近悩みが出来ていた。
「あらん? どうしたのん? ショウコちゃん。ため息はBPを減らすわよん」
身体を反る様に現れる西城は撮影現場のチーフでもある。
彼女(彼)は満足な写真が撮れれば身体が自然とうねるのだ(物理的に)。
より良い撮影環境は、より良い一枚を生む。それはモデルは勿論、スタッフ一人一人にも気にかける西城の心意気だ。
故にスタッフ全ての同行や違和感は決して見逃さない。
「西城さん。一つの聞いても良いかな?」
「何かしらん?」
「BPとは何だ?」
「ビューティクルポイント、又はビューティーポイントの略よん」
「ほう……まだまだ私も見聞が狭い。世界を回っても知らない知識があるのだな」
「気にしなくて良いわぁん! 一部界隈で使われる専門用語みたいなものだからねぇん♪」
くるくると回り出す西城は本日はかなりご機嫌な様子だった。
「悩みって言うのは、その事?」
ピタっと止まると顎に手を当てて改めて問う。
「うーん。いや、少し自分で様子を見てみる。何かあったら頼っても良いかな?」
「全然オッケーよん! その時は弁護士の友達もいるから、そっちも紹介しちゃう!」
「ありがとう」
「準備出来ました」
撮影の場面転換が終わり、ショウコは舞台へ立つ。
長い髪。片目が隠れる前髪に垂れ目。抜群のプロポーションは菜食主義の彼女にとっては日常的に維持されていた。
「ショウコちゃん! いつも最高よん!」
谷高スタジオに専属モデルとして働く
故に誌の表紙を飾る事は少なくなかった。
「お疲れ様でした」
撮影が終わり、編集する者以外はスタジオを後にする。リテイクがあれば撮影は明日以降になる。
ショウコは帽子に眼鏡をかけると、父から貰った赤い紐で長い髪を緩い三つ編みにまとめた。
パタン、とロッカーを閉めて、すれ違う人に挨拶をして帰路に着く。
「……ふむ」
帰りに野菜を一通り買うとそのまま住んでいるマンションへ。
「……ふむ」
郵便受けに入っているチラシを取り、エレベーターで四階に上がると部屋に入る。
帽子に伊達眼鏡を外して、上着をかけると、スマホにショートメールが入った。
その内容を見て、
「……ふむ」
特に変わらず一息。そして少し悩み、相談先を会社ではなく、父へすることにした。
『どうした?』
「父上。相談したい事がある」
『その前に、今は日本かい?』
「ああ」
『詳しく話しなさい』
社員旅行が終わって一週間。季節も10月半ば。
オレは、昼食時の屋上でヨシ君の仕上げた社員旅行のアルバムを、加賀を含めた三人で見る為に集まった。
「もうアルバム出来たのか」
「ほっほ。色褪せぬ内が良いと思いましてな」
「結構楽しみだったんだよ」
オレらは早速アルバムを開く。
初日の仮屋殿の無限転倒編。
テツとの再会から馬術勝負。
宴会の楽しげな風景。
夜の河川敷のマッチョ対決。
陣取りゲームの激闘。
肝試しで写る人成らざるモノ。
猫耳でふてくされて胡座を掻く七海課長。
帰りのバスに乗り込む皆。
そして、最後は肩を組んだ社長と金田さんの、永遠のユウジョウ! 適な一枚締め括られていた。
このアルバムだけではわからない事も多々あった社員旅行だったが、一つだけ疑問がある。
「ヨシ君。七海課長のヤツ、使っても大丈夫なのか?」
「我輩も何かの間違いかと思いましたが、鬼灯殿と七海課長に確認したところ、問題ないと許可を貰いましたぞ」
七海課長は少し苦悶気味でしたが、とヨシ君はアルバムには問題ない事を告げる。
「ちなみに、轟殿のみ限定アルバムを作らされましたな。10万ほどで」
「……ちなみに誰に?」
「社長ですぞ」
「それってプライバシーとか大丈夫なのか?」
「轟殿の許可はとってはおります。他には絶対に見せない条件で公正証書にも起こしたので、我輩と社長は墓場まで持っていく案件になりましたな」
社長、轟先輩にめっちゃ課金するじゃん……
「社外の人には送ったのか?」
アルバムを捲りながら加賀が問う。
「他社の方々にも郵送済みです。社内にはこれから配りますが、鳳殿は鮫島殿にお渡しをお願いしても宜しいですか?」
「いいよ。渡しとく」
リンカは今、学校行事で2泊3日の宿泊研修に行っているので、先にセナさんが見ることになりそう。
「鳳君」
「わひょ!?」
すると、背後から声をかけられてオレは飛び上がった。加賀は、すっと立ち上がる。
「名倉課長。お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「加賀君、吉澤君、お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です……」
オレも二人に一歩遅れる形で立ち上がると挨拶をする。
気配もなく現れるのは心臓に悪いですよ……。加賀とヨシ君は慣れてる様だ。
名倉課長は後ろに手を回し、細目のデフォルトで常に笑顔。金田さんとは違った雰囲気。嫌悪は無いものの、やっぱり苦手だ。
「社員旅行、お疲れ様でした。他社の方々とも親睦を深められ、とても有益だった様ですね」
「はい。今後も続く横の繋がりを作り、厚く出来たと思います」
流石、加賀。直属の上司なだけあって対応は完璧だ。
「結構。二人とも、お昼の残り時間、鳳君をお借りしても宜しいでしょうか?」
「どーぞ」
「どーぞ」
一切の迷いなく差し出しちゃう友情に心の涙が止まらんよ。
「鳳君の都合は?」
「大丈夫です……」
オレの言葉に名倉課長はニコっと笑う。
行きましょう、と歩き出すオレは連行される囚人の様に後に続いた。
オレは何かヘマをやらかしたのだろうか……心当たりは……ない……多分……
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