第260話 ツーショット

 右往左往する轟の頭から、黒船はひょいっと猫耳を取る。


「これでいつもの君だね!」

「わっ……あ、ありがとうございます」

「これを着けた君も捨てがたかったけどね! 今、スマホを持っていない事を生涯悔やむよ!」

「うぅ……」


 黒船は、良くできてるなぁ、と猫耳を見回し自分の頭に乗せて轟に、似合う? と聞いていた。


「……甘奈」

「……何ですか? 火防議員」


 急にトゲが生えた娘の態度に火防は身体を貫かれるも、平常心を貫く。


「なんだ……社内で虐めでも受けとるのか? そうだとすれば――」

「違うよ」


 轟はそれだけは決して違うと父の眼を見て告げる。


「私は心から会社の事もそこにある関係も好き。皆、家族みたいに私に接してくれるの」

「…………そうか」

「火防先生! 前にも言わせて貰いましたが、わが社に甘奈君は必要不可欠なのですよ! 私としてはやんちゃしに海外に出る前に彼女の存在を知っておきたかったです! 良ければ彼女のアルバムなどを拝見しにご自宅へ伺っても良いでしょうか! 高校、中学、いや! 小学の頃の甘奈君はとても可愛いと想像に固くないですが! 整合性を取るために是非とも!」


 顔を真っ赤にして俯く轟。その隣で黒船は腕を組んで仁王立ちで火防の回答をドヤ顔で待つ。


「黒船よ」

「はい!」

「来たらコロスからな」


 ヤ○ザも逃げ出す程の殺気を放ちつつ火防は黒船を睨んだ。


「はーい。そんじゃ解散解散。もっと見てたいけど、このままじゃ誰かの血を見る事になりそうだからねぇ」


 ナガレが場の空気を変える様に手を叩く。


「ほら、火防。行くよ。後は若いモンに任せときなって」

「黒船! 貴様にはいつか必ず引導を渡してくれるわ!」

「是非とも、全身全霊に語り合おうではありませんか!」

「ふん!」


 ナガレは、じゃあね、と指を立ててリンカにも挨拶をすると火防と共に歩いて行った。

 姿が見えなくなってから轟は黒船に頭を下げる。


「……ごめんなさい、社長。父がご迷惑を……」

「気にする事はないよ! 火防先生の事は好きだからね! 彼は実に尊敬できる方だ。まぁ、違う形で出会いたかったよ! ふっはっは!」

「――そう言って貰えると嬉しいです」

「よいしょ」


 と、黒船は自分の頭に乗せた猫耳を轟の頭に乗せる。


「ふむ……やはり良いね!」

「も、戻ります! リンカちゃん! 行こ!」

「はい」


 カシャ。

 そんな音が聞こえて、轟とリンカは黒船の後ろに立つスマホを構えるケンゴを見た。


「はっ! 社長を探していたら……尊い生物に出会ってしまい……思わずシャッターを切ってしまったぁぁぁ!!」

「逃げんな! 待てこら! 消せ!」


 切ってしまった、の部分でリンカは走り出し、ケンゴは逃走した。


「鳳君! 後で私にも送ってくれたまえ! 甘奈君の所を引き伸ばして額縁に入れて部屋に飾るから!」

「リンカちゃん! 絶対に消させてぇ!」






 部屋に戻るとポーカーで社長が負けて売店にポテチを買いに行かされた聞いた。

 負けたとは言え、わが社のトップにそんな事をさせる訳にはいかないので、オレは慌てて追いかける。

 何か変な猫耳ウーマンも出るらしいし。社長がエンカウントするとひと騒ぎ起きそうなのだ。


「こっちか」


 社長の声が聞こえて角を曲がると、そこには二匹の猫娘がいた。


「――――」


 オレはガンマンが決闘で銃を抜く様に洗練された動きでスマホを取り出すと、カシャリとプリティUMAを写真に収めた。


 キャッツ二人と、社長がこっちを見る。その視線で正気に戻った。


「はっ! 社長を探していたら……尊い生物に出会ってしまい……思わずシャッターを切ってしまったぁぁぁ!!」


 リンカキャットが言葉の途中で向かって来たので、逃走を開始。


「逃げんな! 待てこら! 消せ!」


 たこ焼き返しを持って追いかけてくるリンカ。でも猫耳のお陰であんまり恐くない。物騒なモノを持っているが、アレは猫の爪みたいなモンだよ。

 オレは逃走しながら説得を開始。


「いや! ほら! 全人類、今のは撮るって!」

「ワケわかんない事を言ってるんじゃ――キャッ!?」


 そこでリンカが躓いて態勢を崩した。オレは瞬時に踵を返すと倒れる前にリンカを抱える。


「だ、大丈夫?」

「…………捕まえたぞ、おら」


 恩を仇で返されたっ! 猫の恩返しなんて無かったんや!


「今すぐ写真を――」

「オイ」


 そんな声が聞こえて、そちらを向くと見知ら外国人がこちらを見ていた。

 従業員の服を来ている事から客ではないようだ。眼は怒っている。


「猫耳鬼ごっこで旅館内をバタバタ走るんじゃないよ! いくらお客様とは言え、こちらにも迎える者を選ぶ権利があるんだぞ! 他のお客様にぶつかって怪我でもしたらどうする! あん!?」

「すみません……」

「ごめんなさい……」


 ド正論にオレとリンカは抱き合いを解除して異国の従業員さんに並んで怒られた。


「館内は走るの禁止! 二人とも言わなくても解る年齢でしょ! 次に見かけたら追い出すからな!」

「デュガレさーん。女将が呼んでますよー」

「おおう! 今行く! とにかく! 子供って通じる歳じゃねーんだから、馬鹿みたいに走り回るのは止めなよ! そんじゃ、ごゆっくり! お客様!」


 そう言って、デュガレさんは歩いて行った。


「……」

「……」


 オレとリンカは暫し無言。親に怒られた後の兄妹みたいに居たたまれない空気が場に流れる。


「……ごめん。写真は消すよ」

「……そうしてくれ」


 リンカの目の前で先程の写真を消す。オレも調子にノリ過ぎてた所もあるし、本来なら諌める側だ。デュガレさんに思いっきりケツを叩かれた。


「……スマホ貸せ」

「え? もう消したよ?」

「いいから」


 何だろう。まさか……ダイヤが居たときの猫耳写真の存在に感づかれたのか!? しかし! フォルダの奥深くに忍ばせて居るので、見つかる事はない……ハズ!


「――」


 すると、リンカはオレに寄ると自撮りモードにしてシャッターを切った。


「ほら。これで我慢しろ」


 ポイっと返してくるスマホを受け取る。ハイアングルで上目遣いの猫耳リンカとのツーショット。結構イイな。


「……」


 やっぱり、尊いよなぁ。と写真をマジマジと観賞するオレに背を向けてリンカは歩き出す。

 せめて部屋まで送るつもりでその隣に続いた。


「これ良いの? 永久保存しちゃうよ?」

「勝手にしろ。その代わり! 他には見せるな、送るな、待ち受けにするな」


 かなりの条件を提示されたが、仕方ないか。


「あ、でもセナさんには送っていい?」

「…………ギリ、OKにする」


 そこから色んな人に拡散しそうだが、一応、セナさんには釘を刺してから送るとしよう。


「あたしにも後で送れ」

「了解」






「あ、リンカちゃん。どう? 消せた?」

「確実に消しました」


 女部屋に戻ると、轟はリンカに確認。キッチリ消させた事を聞くと、ホッと胸を撫で下ろした。


「なんだ? 黒船のヤロウに見られたのかよ。どうせ、二人きりの時はニャンニャンやってんだろ?」

「そ、そんな事ないって! 何言ってるの! ケイちゃん!」


 鬼灯は相変わらず負け無しの様で彼女以外、全員が頭に猫耳を乗せている。


 すると、スマホに通知が入る。彼と二人きりのグループLINEには先程の写真が上がっていた。

 “世界一の尊死生物”と言うメッセージが添えられている。


「……まったく。可愛いって言えよ、あのばか」


 そう言いつつも、リンカの頬は嬉しそうに緩んでいた。

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