第234話 ビー! ビー! ビー!

 最終ラウンド。

 ミサキの使うハルトと鬼灯の使うガイア。

 初戦はミサキが取ったが、次戦は鬼灯が取った。

 色々な疑問は置いといて次が最終戦。どちらが勝つのか。周囲に漂う緊張感の中、鬼灯は相変わらず無表情である。


 ファイナルラウンド……レディ……GO!


 ガイアが距離を詰めようと動く。鬼灯のガイアは最早、初心者の動きじゃない。捕まれば4割。不気味なほどに滑って近づく様は恐怖しか感じないだろう。


「このっ!」


 すると、ハルトは遠距離特技であるデイ・スラッシュ(通称DS)を放った。短い動作で放たれる飛び道具は様々な場面で活躍される。


「……」


 ガイアは止まってガードで受ける。対応を知っていても初見は受けに回るだろう。


「は! どんなにコンボを繋いでもねぇ!」


 すると、ハルトはDSを連発し始めた。飛び道具を持たないガイアは防御を固めるしかない。


「……」


 しかし、鬼灯もすぐに対応する。DSを放つタイミングを見極めて飛び越え反撃――


「馬鹿が!」


 ハルトの滞空特技スカイアッパーが炸裂。ガイアはソレを受けるも、受け身を取り、追撃は逃れる。


「ほらほらほらほらぁ!」


 距離を取る地上ではDS。飛び越えようとすればスカイアッパー。

 ミサキはまともな勝負を捨てて、待ちの戦法に入った。狙いは時間切れ。このままだと体力差でハルトが勝つだろう。

 これにはギャラリーも、ブー! と非難の声を上げるが、こーちゃんのひと睨みで押し黙る。


「無駄無駄ァ! 所詮はガイア! 近づけなければどうって事ないのよ!」

「……」


 しかし、鬼灯もなすがままと言う訳ではない。ジャンプフェイントを入れると、ソレに釣られてのスカイアッパーを誘い、針の穴を通すように初動を決め、そのまま4割を持っていく。


「ぐっ!? この……化け物がぁ!」


 ハルトはダウンの起き上がりと同時に1ゲージ必殺技であるデイ・バースト(強力な一撃で敵を殴り飛ばす)でガイアへ反撃。待ち戦術で削られたガイアのHPは今ので1割を切った。

 再び距離が開く。


「これでぇ……」


 ミサキは残り2ゲージで使えるハルトの超必殺技を発動した。


「終わりよ!」


 ハルトの2ゲージ必殺技『デイ・スラッシュ・オメガ』は多段ヒットの照射系の技だ。ガードしても削りによるダメージが上回りガイアは耐えられない。


「――」


 画面が光に包まれた気がした。見ている者全てが時が遅くなる様な錯覚を覚えただろう。


「――――え?」


 実際に画面の中は遅くなっていた・・・・・・・。多大なる処理落ち。フラッシュの様に画面が強く明滅する。

 何故なら……『デイ・スラッシュ・オメガ』のヒットをガイアがジャストガードで全て受け続けていたからである。


「……は、はぁん?」


 ミサキが思わず変な声を出した。俺も呆然とした。

 観ているギャラリーは、最初こそ何が起こっているのか解らなかったが、次第に鬼灯の行っている事の凄さに思わず、うぉぉぉ!! と声が上がる。

 全キャラの技の中で最もヒット数の多い『デイ・スラッシュ・オメガ』を全てジャストガード。目の前で行われた神業にハルトは思わず棒立ちに。


「いいのかしら?」


 次は鬼灯のターン。ミサキも遅れて反応するが、至近距離で放ったDSをロンダン(出し無敵の特技)でガイアは抜けると、そのまま4割コンボに移行する。


「それじゃ……仕留めきれないわよ!」


 ミサキの言う通り、減らしても4割。HPは2割残る。


「どうかしら」


 すると、ガイアは既存の地上コンボ最終段のジャッジ(投げ技)を決めた瞬間に弱Pで更に拾う。


「が、画面端!?」


 ギャラリーの一人が叫んだ。(後から知ったが、彼は熟練のガイア使い)

 鬼灯は浮いたハルトを画面端でそのままお手玉すると『ファイナル・ジャッジ(3ゲージ必殺技)』で残りHPを全て削り切った。


「――――」


 敗北演出のスローモーションで、うおぉぉぉぉ……と消えるような断末魔を出しながらハルトが倒れる。


 YOUWIN! と鬼灯の筐体に表示され、ガイアはマッスルポーズを決めていた。


“どうやら、格の違いってヤツを見せつけちまった様だな”


 3本勝負の勝者カットインイラストで白い歯を見せて親指を立てたガイアがそう言った。






 ガイアの締めの台詞が場を駆け抜けた数秒間後、噴き出す様に声が上がる。


「すげぇぇ!」

「おいおい! 『DSO(デイ・スラッシュ・オメガ)』全部ジャスガかよ!」

「超鳥肌たった!」

「画面端であのコンボ繋がんのか!」


 背中に叩きつけられる称賛の声に鬼灯は少し、びっくりした様子で一瞬身体を強張らせる。表情は見えなかったが……まぁ、無表情だろう。


「くふふ。どうやら完全決着の様ですね。拙僧も新たな伝説の誕生に立ち会えた事を誇りに思いますよ。ええ」

「ユニコォォン」


 レツとユニコ君も頷く納得の勝利である。しかし、納得しない者が二名いるのだ。


「あ、あり得ない! 何か……何かの間違いよ! て言うか……実力を隠してたでしょ! 卑怯よ! 卑怯! 卑怯!」

「そうだ! この勝負は無効だ!」


 ミサキとこーちゃんである。まぁ、そんな気はしてたよ。


「ユニコォォン」

「くふふ。ユニコ君は大人しく敗けを認めろと言っておりますよ」

「うるせぇ! ユニコ君!」


 すると、こーちゃんは暴力に出た。ユニコ君の身体に慣れ親しんだ右ストレートを叩き込む。あーあ、やっちまったなぁ。


「……ユニコォォン」


 微動だにしないユニコ君の反撃。ビンタをするようにこーちゃんの頬を叩く……いや、殴り飛ばす。

 吹っ飛ぶこーちゃん。ぶつかるメダル機。不正に揺らしたと判断されたメダル機は、ビー! ビー! ビー! と音を鳴らす。


「くっ……この……」

「ユニコッ!」


 ユニコ君の追撃はボディとアッパー。そして、流れる様にこーちゃんの顔面に意趣返しの右ストレート。ビー! ビー! ビー! もふもふしてそうでダメージは無い様に見えるが、あの着ぐるみは意外と硬いのだ。ビー! ビー! ビー!


「ぐはぁ……」


 ガクッとロープ際でKOされた様に気を失った、こーちゃんはメダル機にもたれかかる。ビー! ビー! ビー!


 そんなこーちゃんをユニコ君は肩に担ぎ上げるとミサキへ視線を向ける。ビー! ビー! ビー!


 ビクッとするミサキにユニコ君は、行くぞ、と言いたげにクイッと首を動かす。ビー! ビー! ビー! その狂暴性を目の当たりにしたミサキは連行される囚人の様に大人しくその後に続いた。ビー! ビー! ビー!


 メダル機うるせぇな。 

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