第232話 レツ(40)
「ユニコォォン……」
と、現れたユニコ君に俺らは言葉を失った。
彼は商店街の絶対守護者もとい、秩序の聖獣。ヤクザさえも手を出さないと言われている。
最近の武勇伝では、ヤクザ相手に大立ち回りし、刺されても平然と立ってたと言う情報もある。不死身の獣。決して敵対してはならない。
そして、商店街の秩序を乱す輩は決して許さない。
(商店街のパンフレット『みんな大好き! ユニコ君!』より一部転用)
「な、なんだ、ユニコ君!?」
「被害者! わたし達は被害者よ!」
こーちゃんとミサキが苦しい言い訳を始めた。回りで見ていた人も居たので、ソレは通らないだろう。
「……ユニコォォン」
ユニコ君は俺と鬼灯、こーちゃんとミサキを交互に見ると腕を組んで(そう言う風に見える)考える。
「くふふ。どうやら……ユニコ君は場を納める方法を考えて居る様ですねぇ」
と、ゲーセンの筐体の影から眼鏡にロンゲにやけ痩けた頬が特徴の中年が現れた。偏見だが、在宅ワークが好きそうな見た目をしている。彼は口元に手を当てて、くふふ、とニヤけていた。
「……」
「誰かしら?」
俺がスルーしようとしたら、鬼灯が中年に問う。
「失礼、レディ。拙僧はレツと言う者。この商店街でユニコ君を観測する者の一人です。年齢は40。以後お見知りおきを。くふふ」
中年のロン毛眼鏡はレツと言う大人らしい。どうやらユニコ君に精通してる模様。どうでもいいが。
「……ユニコォォン」
すると、ユニコ君は一つの格闘ゲームの筐体を腕指すと、次に鬼灯とミサキを交互に腕差した。
「どうやら、雌雄は格闘ゲームで決めろ、と言う事ですね。くふふ」
「まぁ、何となくわかるが……」
しかし、俺達に非は何一つ無いのだが……負けたらどうなるんだ?
「ユニコォォン」
「勝った方が残り、負けた方は問答無用で商店街より去れ。と、ユニコ君は仰っておいでです。くふふ」
その通り、とユニコ君は頷く。あの短い鳴き声でそこまで察するレツの方がちょっと怖い。流石は観測する者……全然凄くないけど。
「あの……俺らは何の非は無いんだけど、勝負なんてせずに帰っても良い?」
俺は手を上げて意見を述べる。別にこのまま商店街を去っても問題ない。
「ユニコォォン」
「ここで白黒つけろ。とユニコ君は申しております」
「急に口調が物騒になったな……」
「くふふ。ユニコ君は商店街の秩序を護る獣。そして誰もが心置きなく再来することを望むのです」
思った以上に常識があるな。
「しかし、商店街を乱す者は国家権力であろうと噛みつきますよ」
前言撤回。やっぱりヤバい奴だった。あながち嘘には聞こえないオーラを宿しているのだから信憑性は凄まじい。
「はん! 良いわよ! その機械女を追い出せるなら! やったろうじゃないの!」
ミサキは乗り気だ。そりゃそうだろ。お前は結構やり混んでるゲームだし……
「私も構わないわ」
「おい、大丈夫か?」
特に躊躇う事無く勝負を受ける鬼灯に俺はこそっと話しかける。
「勝っても負けても面倒事から抜け出せるもの」
そう言って鬼灯はトコトコと格闘ゲーの筐体に座る。ミサキも対面側に座る。すると、ユニコ君が二人に100円を渡した。どこに持ってたんだか。
「着ぐるみから金を受け取ってゲームするってシュールな光景だな……」
「くふふ。ユニコ君は普通の常識では測れませんよ?」
「深く関わるとロクな事にはならないってのはわかった」
俺は鬼灯の側に寄って、こーちゃんはミサキの側に寄る。コインが各々投入された。
コイン入れて、キャラクター選択画面で鬼灯は画面ではなく、筐体の端にあるキャラの技表をじっと見ていた。
「鬼灯。えらく冷静だったが、このゲームはやったの事あるのか?」
「ないわ」
「そっか……って、おい」
「ゲームセンターに来たのも今日が初めてよ」
初めてでユニコ君六体を鹵獲したのかよ。この女のセンスはどうなってんだ?
「技は三つしかないの?」
「そこに書いてあるのは最低限のモノだけだ。他にも色々あるが記載はされてない」
「そう」
「とりあえず初心者から上級者まで使えるキャラを――」
と、使用率上位のオールラウンダーキャラを勧めようとしたら、カーソルは別のキャラに重なっていて、時間切れでソレに決まってしまった。
鬼灯が選んだのは重量級で投げ主体のパワーキャラ。技の操作が難しく使い込みが必須とされる初心者お断りのキャラでもある。
「悪い……先にカーソルを動かしておくべきだった……」
「気にしないわ。彼に名前はあるの?」
「ガイアだ」
「良い名前ね」
ミサキの方はきっちり俺が勧めようとしたオールラウンダータイプを選んでるな。
ちなみにあっちのキャラの名前はハルト。この格ゲーのバックストーリーの主人公だったりする。
「はっ! 馬鹿ね! ガイアごときでハルトには勝てないわよ!」
横から顔を出していちいち威嚇してくるミサキ。目の前の画面に集中しろよオメーは。
しかし、俺はちょっとだけ期待してたりもする。この無表情で底の見えない鬼灯は何かをやらかしてくれるのではないかと。
「くふふ。見届けさせてもらいますよ。ユニコ君と共にね」
「ユニコォォン……」
向かい合う筐体の両脇にレツとユニコ君が審判の様に立つ。
レディィ……GO!
試合が開始される。
鬼灯のガイアは、それはもう清々しいくらいに、ガードもままならない初心者ムーヴで、見事なまでに、一方的にボコボコにされて1ラウンド目を落とした。
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